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監査役と社外取締役の連携

2020年6月30日 PDF
カテゴリー 特別寄稿

情報センサー2020年7月号 特別寄稿

獨協大学 法学部教授 高橋 均

一橋大学博士(経営法)。新日本製鐵(株)(現、日本製鉄(株))監査役事務局部長、(社)日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。役員や管理職向けの社内研修の講師も多数引き受けている。近著として『グループ会社リスク管理の法務(第3版)』中央経済社(2018年)、『監査役監査の実務と対応(第6版)』同文舘出版(2018年)、『改訂版・契約用語使い分け辞典』新日本法規出版(共編、2020年)。

Ⅰ  はじめに

監査役と社外取締役は、法的には非業務執行役員に分類されます。監査役は、取締役や使用人との兼務禁止規定(会社法335条2項)がありますので、非業務執行役員であることは自明です。他方、社外取締役の場合は、業務執行取締役でない者(就任前10年間業務執行取締役でなかった者を含む)と規定されていますので(会社法2条15号)、同じ取締役の中で、業務執行をしていない、もしくは一定期間業務執行をしていなかった取締役ということになります。あらためて考えてみますと、監査役にはその法的権限が規定されているのに対して、社外取締役はその定義は示されていますが法的権限が明示的に示されているわけではありません。しかし、取締役会の権限として、①業務執行の決定②取締役の職務執行の監督③代表取締役の選定及び解職(会社法362条2項)がある以上、社外取締役は取締役会の構成員の一人として、①から③の役割を担っていることになります。言い換えると、業務執行取締役は業務執行を行う傍ら、監督機能の二面性を持っているのに対して、社外取締役は監督機能に特化した役割があることになります。
コーポレートガバナンスという言葉には、不祥事防止等の「守りのガバナンス」と企業の持続的な成長を図る「攻めのガバナンス」が含まれていると思いますが、会社法の規定では、監査役が「守りのガバナンス」を担い、社外取締役が「攻めのガバナンス」を担うという線引きがされているわけではありません。大事なことは、監査役と社外取締役とが経営への監視の視点から同じコーポレートガバナンスの一翼を担う役員として、相互の特徴を踏まえて連携を深めることです。
そこで本稿では、令和元年改正会社法において、社外取締役に関する規定の改正があったことを踏まえて、社外取締役に焦点を当てつつ、監査役と社外取締役との具体的な連携の在り方について解説します。

Ⅱ 社外取締役を巡る法制化の経緯

1. 平成26年会社法

昭和25年の商法改正において、米国に倣って取締役会に監督機能を持たせて以来、法は長らく取締役会と監査役にガバナンスの役割を担わせてきました※1。その後、わが国では、マスメディア等で企業不祥事が大きく報道されるなどの理由でガバナンス強化の要請が強まった際には、監査役(会)の権限強化の法令改正で対応をし、取締役会の抜本的な改革は先送りにされてきました。このため、海外の機関投資家を中心に、わが国の取締役会としての監督権限を機能させるために着目したのが、社外取締役選任の法定化です。監査役(会)の権限を強化したものの、監査役に取締役会での議決権がないために、代表取締役の選定・解職権限を有していないことから、ガバナンスの観点からの実効性に疑問を呈する向きもあったこと、わが国の取締役は内部昇格者を基本としており、取締役間に歴然たる序列がある中で取締役会において自由闊達(かったつ)な議論が期待できないこと、欧米主要国を中心に社外取締役の選任は一般的になっていることなどが、選任の根拠として主張されました。
そこで、社外取締役選任の法定化の可否については、平成22年4月から法制審議会会社法制部会(以下、平成22年部会)における審議で大きなテーマの一つとなりました※2。審議の中で、社外取締役の果たすべき機能として、①業務執行全般の監督機能②会社と業務執行者との利益相反の監督機能③会社と業務執行者以外の利害関係者との利益相反を監督する機能の三つを示した上で、選任義務化の是非について審議されました。利益相反の監督機能の役割をあえて取り上げているのは、会社と社内出身取締役(以下、社内取締役)との間、もしくは第三者と社内取締役との間で利益相反に該当する事案に対して、業務執行者から独立した立場の社外取締役が取締役会で意見表明をしたり、最終的には議決権行使を通じて監督機能を果たすことができるであろうとの観点からです。平成22年部会での審議の結果、設置の法定化に対して賛否の意見が鋭く対立したことから、平成26年会社法では、社外取締役の選任義務化は見送られ、その代わりに公開会社かつ大会社である監査役会設置会社のうち、有価証券報告書提出会社は「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告及び株主総会参考書類の内容に含めるとともに(会社法施行規則74条の2、124条2項・3項)、株主総会での説明を義務付けました(会社法327条の2)。さらに、コーポレートガバナンスの強化を継続する観点から、改正施行後2年を経過した場合において、社外取締役の選任状況や社会経済情勢の変化等を勘案し、必要があると認めるときは、社外取締役選任の義務付けなどの措置を行うという附帯決議を設けました(平成26年会社法附則25条)。

2. 令和元年改正会社法

平成26年会社法の附帯決議に基づき、予定どおり平成29年4月より、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会(以下、平成29年部会)にて審議が開始され、令和元年12月4日の国会承認(令和元年法律第70号)により、社外取締役選任が法定化されました。具体的には、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ大会社であるものに限る)であって、有価証券報告書提出会社は、1名以上の社外取締役を置くことが義務付けられました(令和元年改正会社法327条の2)。さらに、社外取締役を選任しなかったときには、過料に処せられることも定められました(令和元年改正会社法976条19号の2)。平成29年部会においても義務化反対の意見は出されましたが、有価証券上場規程において独立取締役を1名以上確保する努力義務が定められ(上場規程445条の4)、コーポレートガバナンス・コードでも、2名以上の独立社外取締役を選任すべきとされた(コーポレートガバナンス・コード原則4-8)ことから、平成29年部会で審議中の平成29年度において、東京証券取引所の全ての上場会社のうち、96.9%(東証一部上場会社では、99.6%)もの会社が、すでに社外取締役を選任していました※3。従って、社外取締役の選任については、上場規程やコーポレートガバナンス・コードのソフトローがまず先行し、その後実務が定着した上でハードローである会社法に規定されたことになります。
令和元年改正会社法では、社外取締役に関して、選任義務化に加えて業務執行を社外取締役に委託することが可能となりました。従前は、社外取締役は業務執行取締役でないことが要件とされていました。しかし、マネジメント・バイアウト(MBO)や親子会社間の取引等において、会社と業務執行取締役との利益が相反となる取引が生じる状況も想定され得ることから、会社は、その都度取締役会の決議によって社外取締役に会社の業務執行を委託することができるとされ、業務執行をしたとしても、社外取締役の要件から外れることはなくなりました(令和元年改正会社法348条の2)。
これらの改正は、社外取締役に対して、業務執行者から独立した立場で監督する役割を期待するとともに、業務執行の一部まで担わせることも可能とすることで、社外取締役を活用しようとする趣旨がうかがえます。

3. 監査役と社外取締役の法的権限の違い

監査役と社外取締役は、業務執行取締役らに対する監視機能があることは共通していますが、監視機能を具体的に発揮する法的権限については、両者に著しい相違があります。監査役と社外取締役の主な権限は、それぞれ以下のものがあります。

(1) 監査役の法的権限

第一は、業務報告請求権・業務財産調査権です。監査役は、いつでも取締役や使用人に対して、事業の報告を求め、また業務及び財産の調査をすることができます(会社法381条2項)。報告請求権・調査権のために、監査役は執行部門に対してヒアリングをすることにとどまらず、必要に応じて各種の会議・委員会に出席したり資料を請求することができますが、法的には取締役等は監査役のこれら請求を拒否できません。拒否できないばかりか、業務財産調査権の行使を妨げたときには、取締役等は過料が課せられます(会社法976条5号)。しかも、監査役が十分に調査できないときには、株主に提出する監査報告にその旨及びその理由を記載することもできます(会社法施行規則129条1項4号)。また、業務報告請求権や業務財産調査権は、職務の遂行に必要があれば子会社に対しても行使できます(会社法381条3項)※4。親会社の取締役等が子会社を利用して法令・定款違反を行っていたり、そのおそれがあるときに、子会社への業務報告請求権・業務財産調査権の行使を通じて、親会社の取締役の職務執行を監査することができます。また、会計監査人に対しても、必要に応じてその監査に関する報告を求めることができます(会社法397条2項)。監査役が会計関連の不祥事のおそれや事実を認知したときに、会計の職業的専門家である会計監査人に特別に調査を依頼し報告を受けることができます。
第二は、監査役の是正権限です。監査役は、取締役の法令・定款違反の行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、その取締役に対して行為を差し止めることができます(会社法385条1項)。いわゆる取締役違法行為差止請求権です。具体的には、裁判所に対して当該取締役のその行為を差し止める訴えを提起するとともに、これを本案として仮処分の申請を行います。司法の力を借りて取締役の行為を止めさせることになります。監査役が取締役違法行為差止請求権を行使することによって、会社の著しい損害の未然防止や拡大を直接防ぐことができるという点で、監査役の強力な法的権限といえます。
取締役に対する違法行為差止請求権は、会社に著しい損害が生じるおそれがある事前の是正権限であるのに対して、取締役の行為によって会社に損害が生じた場合には、当該取締役に対して会社を代表して訴訟提起をすることができます(会社法386条1項1号)。例えば、営業担当の取締役が独占禁止法違反をした結果、会社が損害を被ったときには、監査役が会社を代表して当該取締役に対する会社への損害賠償の支払請求の訴訟提起を行うか、または株主からの提訴請求(会社法847条1項)に対する調査の結果に基づいて訴訟提起することができます。
第三は、個別の同意権や請求権です。取締役・執行役の会社に対する責任の一部免除関係の際の同意(会社法425条3項)、株主代表訴訟における会社の補助参加の同意(同法849条3項)と訴訟上の和解の際の同意(令和元年改正同法849条の2)並びに監査役の選任議案の提出に当たっての同意、監査役の選任議案の提出請求権(同法343条1項・2項)があります。
このような法的権限が、戦後の商法改正(現在の会社法)の都度、審議・検討され、監査役の権限として強化されてきた立法経緯があります。

(2) 社外取締役の権限

これに対して、社外取締役は独自の法的権限が存在するわけではなく、取締役会の構成員として監督機能に特化されています(令和元年改正会社法で法定化された一部業務執行の委託を除く)。そして、監督機能を具体的に発揮する場が取締役会での議決権です。取締役会は法定決議事項(会社法362条4項等)の意思決定機関であると同時に、代表取締役の選定・解職を行う機関でもあります。また、業務執行取締役は、少なくとも3カ月に一回以上は、取締役会で自己の職務の執行状況の報告をしなければなりません(同法363条2項)。従って、社外取締役は、取締役会に出席して法定の決議事項や取締役会規程に基づく議決権を行使し、報告事項については意見陳述等を行うことによって監視・監督の役割を果たします。もちろん、社外取締役は取締役会の出席にとどまらず、他の重要な会議への出席や出張を法的に制限されているわけではなく、監督権限を補充するためには積極的に実施することがあり得ます。しかし、社外取締役の圧倒的多数が非常勤であり、かつその多くは本務がある上に複数の社外取締役を兼務している実態を考えると、時間的な制約もあり基本的には取締役会への出席のみに限定されてしまうのが実情です。
監査役のように、法的権限として業務報告請求権や業務財産調査権を利用して、半ば強制的に業務執行部門に対して重要な資料を請求したり、ヒアリングすることができるわけではありません。法的権限が存在する場合はそれを適切に行使しなければ善管注意義務にもかかわってきますので、能動的な活用が意識されるのに対して、社外取締役の場合は、執行部門への遠慮も含めて受動的な対応とならざるを得ない面があります。

Ⅲ 監査役と社外取締役との連携

前述したように、同じ非業務執行役員であっても、監査役と社外取締役は法的権限の存在の点で大きな違いがあります。従って、これらの違いを踏まえた上で、両者の特徴を活かした具体的な連携が企業実務の観点からは重要になります※5。以下、具体的に考えてみます。
第一は、監査役と社外取締役との間の定期的な打ち合わせ(意見交換会、連絡会)です。定期的な打ち合わせでは、社外監査役のみならず社内常勤監査役も出席することがポイントです※6。意見交換会の場を活用して、常勤監査役から社外取締役に対して社内情報の質と量の両面から、積極的な情報提供が期待できるからです。取締役会設置会社は監査役を設置する義務があり(会社法327条2項)、常勤の監査役の設置が法定化されている大会社(同法328条1項・390条2項2号)以外でも、上場会社を中心に多くの会社において常勤の監査役が就任しています。常勤の場合は、社内の情報収集力の面で、非常勤者と比較してはるかに優位性があります。従って、監査役が得た監視・監督に関わる情報を社外取締役に積極的に提供することで、社外取締役は取締役会での発言や決議の際の参考となります。
他方、社外取締役としては、会社の仕組みに関わる内部統制システムの整備状況について、また取締役会では時間的制約等の理由から発言しにくい懸念事項等について、監査役から実態の説明を受けたり、それらを業務監査の重点ポイントとして監査役に依頼することが考えられます。また、社外取締役と会計監査人とは、その接点はほとんどないのが現状ですので、監査役と社外取締役のどちらかからでも、社外取締役と会計監査人との意見交換の場を提案することも有益です。
意見交換会の頻度も固定的に考える必要はないと思いますが、有事の際に緊急に集まるのとは違い、平時に定期的というところに意義がありますので、例えば、少なくとも年に2回程度、できれば四半期ごとの年4回の実施が考えられます。
第二は、監査役と社外取締役との意見交換で得た内容や提言を代表取締役に説明・報告することです。取締役会は限られた時間で多くの決議事項や報告事項を処理しなければならないために、一つ一つの議題・議案に対して十分に審議する時間的な余裕がありません。このために、普段から少し気になっていること、今後に向けて注意を払った方が良いと思ったことも、社外取締役個人として取締役会で発言することは、必ずしも容易なことではありません。しかし、監査役と社外取締役との意見交換会で得た内容を、代表取締役に率直に話をする機会を持つことは意義があります。監査役と社外取締役の個人的関係から、意見交換によって得た情報を両者間のみにとどめておくことは、特段の事情がある場合を除き、情報の共有化・透明性という点からいえば、基本的には望ましいことではないと思われます。
第三は、監査役と社外取締役との意見交換で得た情報をもとに、各々の職務に積極的に活用することです。監査役は、社外取締役の懸念事項を監査計画に反映させたり、期中であれば、具体的な業務監査において重点的なヒアリングの実施や調査・往査、及び監査役の法的権限を活用します。一方、社外取締役は、監査役から得た情報をもとに、取締役会以外の重要会議の出席、及び自身のこれまでの知見を利用して、あらゆる機会を利用して具体的な提言を行うことにつなげていくことが有用です。社外取締役からのメッセージを従業員に直接発信する意義と影響は大きいものがあります。

Ⅳ おわりに

令和元年改正会社法により、社外取締役の選任が法定化され、かつ会社と業務執行取締役や第三者との利益相反取引に関して、社外取締役の職域が拡大しました。また、社外取締役の複数化、さらに海外機関投資家等からは、取締役会での社外取締役の過半数化や取締役会議長に社外取締役が就任することなどの主張も強くなってきています。このような状況も踏まえますと、今後、社外取締役の人材確保に支障を来す懸念が高まってきます。
単に数合わせではなく、社外取締役に十分にその職責を果たしてもらうためには、各社の実情にふさわしい人材の確保と同時に、社外取締役への情報提供も含めて、社内体制整備が不可欠です。この点からも、監査役と社外取締役との具体的な連携は、体制整備の一環として重要視すべきと思います。兼務会社数が多かったり、本務が忙しくて、監査役との定期的な意見交換の場への出席もままならないような社外取締役であるとすると、そもそも社外取締役としてふさわしくないのかもしれません。
監査役と社外取締役との間で、法的権限や社内で期待されている役割を相互に認識しながら、忌憚(きたん)のない意見交換を行った上で、そこで得た共通認識を代表取締役に伝え、今後の経営に活かす実務が定着することが望まれます。取締役会に上程される案件にとどまらず、監査役と社外取締役が重要な情報を共有化し、それを会社全体として積極的に活用していく方向性を持つことがコーポレートガバナンスの基本的な在り方の一つと考えるべきです。

※1 昭和25年商法改正によって、取締役の権限を大幅に拡大させたものと合わせて、その権限行使を慎重なものにするために、取締役会という会議体に監督機能を持たせた背景がある。落合誠一編『会社法コンメンタール 第8巻』[落合誠一](商事法務、2009年)362~363ページ

※2 平成14年の商法改正で導入された米国モデルの委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)は、少なくとも二人以上の社外取締役が義務付けられたものの、委員会等設置会社に移行した会社自体が少数にとどまったために、当時は社外取締役の選任の広がりは見られなかった。

※3 法務省民事局参事官室「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」旬刊商事法務2160号(2018年)58ページ

※4 子会社の場合は、正当な理由があるときは、親会社監査役の業務報告請求権等を拒否できる(会社法381条4項)。親子会社の関係であっても、法人格が別であるからである。

※5 コーポレートガバナンス・コードでも、監査役または監査役会と社外取締役との連携を確保すべきとの記述がある(補充原則4-4①)。

※6 (公社)日本監査役協会のアンケート結果によると、社外取締役との連携の一環として、社外取締役が監査役会に出席している割合は10.0%(228社)で1割未満、常勤監査役と定期的に意見交換を実施している割合は18.3%(419社)、他方で一切情報提供や意見交換を行っていない会社は32.8%(751社)との実態がある。日本監査役協会「役員等の構成の変化などに関する第20回インターネット・アンケート集計結果」月刊監査役No.710別冊付録(2020年)70ページ

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