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グループ経営におけるトレジャリー部門の主導的な役割 ―三つの視点から考えるグループ・ガバナンス強化への道筋

2020年5月29日 PDF
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情報センサー2020年6月号 FAAS

FAAS事業部 公認会計士 河東陽志

金融・消費財・機械などのグローバル企業において、GAAPコンバージョン業務や経営管理の高度化に関する数々のアドバイザリー業務に従事。現在は資金管理体制高度化支援業務、財務システム導入支援業務等、トレジャリー関連業務を中心にリードしている。主な著書(共訳)に『IFRS国際金融・保険会計の実務 International GAAP2019』(第一法規)がある。


FAAS事業部 公認会計士 天野翔太

金融機関、システム会社を経て当法人に入所。会計システム導入および業績管理体制の高度化支援のほか、国内外の財務調査および事業計画策定支援業務に従事。IT&オペレーション構築の領域に強みを有し、IFRSや決算早期化など多くの経理財務業務の改革プロジェクトに関与している。主な著書(共著)に『M&AにおけるPPAの実務』(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

中長期的な国内市場の縮小を背景に、海外市場の拡大を成長ドライバーと捉え事業展開する日本企業が増加する一方で、経営管理の考え方や経営判断・経営行動の基準が各子会社により相違することによるガバナンスの難しさが、多くの企業に共通した課題となっています。マーケティング活動や製品・サービス開発など現地化が有効となる領域もある一方で、経営管理や財務などの領域については、グループの全体最適を目指す観点が必要です。
本稿では、経営環境の不確実性が高まる中、トレジャリー部門が主導するグローバルの連結ベースでの情報収集・分析を経営行動に落とし込んでいくことの重要性を踏まえ、グループを統括する立場としてトレジャリー部門の在るべき姿をグループ・ガバナンス強化に向けた三つの視点から再確認します。

Ⅱ グループ・ガバナンスを構成する三つの視点

グループ経営におけるガバナンス強化には、次の三つの視点が必要ですが、企業により進め方はさまざまです。

① オペレーション
ポリシーや業務プロセス、内部統制の観点

② 組織・人材
組織構造や人的資本の観点

③ 情報システム
ITインフラやデータ構造の観点

まず①のオペレーションの視点について、その根底にあるものがポリシー/規程であり、通常、グループ戦略と整合するように作成されます。しかし、特にM&Aにより取得した海外子会社など、従前の業務実施のために最適化されたオペレーションを、新たに親会社の観点に合わせて変更することは容易ではなく、グループ共通のオペレーションをグループ全体に浸透させるためには時間を要します。
この点、グループ財務ポリシーの構築はシステム統合に比べて容易であり、グループ共通のオペレーションを導入するに当たっての足掛かりとなることから、ガバナンス強化の切り口になります。グループ財務ポリシーは、最終的にはグループ全体のリスクマネジメントの観点を反映した共通のフレームワークを構築することが理想的です。トップダウンでポリシーをグループ全体に展開にするとしても、まずは各社における資金管理や為替管理の方針の共通化から着手するなど、グループ各社の事業特性や組織形態に応じた展開を検討することが、効率的にガバナンスを強化する上で有効となります。
次に②の組織・人材の視点からは、本社・地域統括会社・各子会社における役割分担や人材の育成および登用が主な検討論点となります。
<図1>は、グループ財務マネジメントの観点から組織の形態を示したものであり、業務効率とリスク管理の実効性の双方を高めるには、「地域統括方式」や「一元集約方式」など業務の集約による対応が望まれます。一方で、事業とファイナンスに精通したCFO人材の育成のためには、一定の裁量権のある「各社管理方式」が望まれるなど、目指すべきトレジャリー部門の在り方により組織の形態は相違します。

図1 トレジャリー組織の3類型

最後に③の情報システムの視点についてです。経営分析や将来予測を行うに当たり、グループ全体の財務データと非財務データを統合的に管理するプラットフォームを構築するなど、グループ経営におけるシステム活用の重要性は高まりつつあります。しかし、各社異なる情報生成のプロセスやデータ構造などが経営管理手法を共通化する上での阻害要因となることも多いため、グループ経営を推進するに当たっては勘定科目体系や組織・セグメントの階層構造などの分析の単位を整理することが必要です。
また、グローバルの資金効率を高めるキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)によるプーリングや、ネッティング、支払代行の集約化、トレジャリー・マネジメント・システム(TMS)を活用したグローバルの資金・為替ポジションの可視化など、システムの活用による一元的なリスク管理とそのオペレーション効率化もガバナンス強化に有効と考えられます。

Ⅲ トレジャリー部門が果たすべき役割

グループ・ガバナンスには、本社の方針に沿ってグループ一体の経営を行うための「Operating(実施基準)」と、各社の情報を本社や地域統括会社がモニタリングするための仕組みとしての「Reporting(報告基準)」の二つの側面があります。先手を打った経営判断・経営行動につなげるためには、財務数値や資金繰り等に関する実績報告の速度や将来予測の精度向上が課題となることが多いため、トレジャリー部門は「Operating」の側面だけでなく、「Reporting」の速度や精度を高めることがガバナンス強化を実現する上で重要です。
今後のトレジャリー部門には、グループ・ガバナンス機能の要としての役割がいっそう期待されていると言えます。

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