令和2年3月期法人税申告の留意事項
情報センサー2020年3月号 Tax update
EY税理士法人 税理士 公認会計士 矢嶋 学
1998年太田昭和アーンストアンドヤング(現EY税理士法人)入所。法人向けコンプライアンス業務の他、組織再編及び事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務等に従事。EY税理士法人入所以前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。
Ⅰ はじめに
令和2年3月期の法人税申告では、令和元年度の税制改正項目及び平成30年度以前に改正され当事業年度から適用となる項目について確認が必要となります。
本稿では、令和2年3月期決算法人を前提とした法人税申告の留意事項のうち、主要な5項目に絞って解説します。
Ⅱ 令和元年度税制改正における主要な改正事項
1. 研究開発税制の改正
企業が行う研究開発の質を向上させ、積極的な研究開発投資を促すために、平成31年4月1日以後に開始する事業年度の試験研究費の税額控除制度について、次の改正が行われています。
(1) 総額型にかかる税額控除割合のカーブの見直し
過去の試験研究費の額と当期の試験研究費の額を比較して算出される総額型の税額控除割合について、試験研究費の増加インセンティブをいっそう強化するため、カーブの傾きが大きくなりました(<図1>参照)。
(2) 特別試験研究費(オープンイノベーション型)の税額控除割合及び税額控除上限の引上げ
大学等との共同研究や委託研究を行った場合の、いわゆるオープンイノベーション型の税額控除について、対象となる特別試験研究費の追加及び区分の変更、そして税額控除上限の引き上げ(5%から10%へ)が行われています(<表1>参照)。
(3) その他の改正
前記以外に、次の項目も改正されています。
①一定のベンチャー企業の総額型について、税額控除上限を25%から40%に引き上げ
②高水準型の税額控除を廃止した上で総額型への統合
③組織再編があった場合の比較試験研究費の額等の調整計算の適正化
④特別試験研究費の額となる人件費の明確化
2. 業績連動給与の適正手続き要件の見直し
役員に対して支給する業績連動給与が損金の額に算入されるための適正手続要件について、以下の改正が行われています。
なお、本改正は平成31年4月1日以後に終了する手続きに係る給与について適用されますが、令和2年3月31日以前に終了する手続きに係る給与については、経過措置により改正前の規定を適用することができます。
(1) 報酬委員会又は報酬諮問委員会における決定等の手続きの見直し
①改正前は業務執行役員が委員でないことの要件がありましたが、当該要件が除外されました。
②委員の過半数が独立社外役員であることの要件が追加されました。
③委員である独立社外役員の全員が業績連動給与の決定に賛成していることの要件が追加されました。
④業務執行役員が自己の業績連動給与の決定等に係る決議に参加していないことの要件が追加されました。
(2) 監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社における手続きの見直し
①監査役会設置会社の場合の取締役会の決議による決定で、監査役の過半数がその算定方法について適正と認められる旨の書面を提出している場合が除外されました。
②監査等委員会設置会社である場合の取締役会の決議による決定で、監査等委員である取締役の過半数がその決議に賛成している場合が除外されました。
この結果、監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社については、前記以外の適正な手続きを経ることで要件を満たす必要があります(<図2>参照)。
3. みなし大企業の範囲の見直し
租税特別措置法の中小企業者から除外されるみなし大企業の範囲に見直しが行われました。改正前は大規模法人を親法人とする子法人のみが、みなし大企業に該当するとされていましたが、改正後は、大規模法人を親法人とする100%グループ内の子法人、孫法人、曾孫法人等がみなし大企業に該当し、中小企業者向けの租税特別措置の適用を受けることが出来なくなりました。
Ⅲ 平成30年度税制改正以前の改正のうち当事業年度から適用となる主要な事項
1. 外国子会社合算税制の見直し
平成29年度の税制改正で大幅な見直しが行われた外国子会社合算税制※について、その適用時期は、外国関係会社の平成30年4月1日以後開始事業年度とされています。3月決算の日本親法人にあっては、原則として令和2年3月期の申告から改正後の外国子会社合算税制が適用されることとなります。
改正前は外国関係会社の租税負担割合が20%以上であれば、ペーパーカンパニー等であっても本制度が適用されませんでしたが、改正後は、租税負担割合が30%未満のペーパーカンパニー等は適用対象とされます。また、租税負担割合が20%未満で、かつ、経済活動基準を満たす外国関係会社においても、利子・配当・使用料等の受動的所得の範囲が拡大されています。
その他、申告書への添付書類や資料の保存などについても改正が行われています。
2. 中小企業向け税制の適用除外事業者
その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の年平均額が15億円を超える法人については、中小企業向け租税特別措置(研究開発税制のうち中小企業技術基盤強化税制など)の適用ができません。なお、この制度は平成31年4月1日以後開始時事業年度から適用されます。
※令和2年3月期の申告から適用される令和元年度の税制改正の詳細については、本誌2019年11月号・12月号に掲載。