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課徴金制度を見直す独占禁止法の改正

2019年9月30日 PDF
カテゴリー EY Law

情報センサー2019年10月号 Antitrust Law Compliance

EY弁護士法人 弁護士 中島 康平

弁護士・ニューヨーク州弁護士。2018年1月EY弁護士法人入所。入所前は国内外の法律事務所および公正取引委員会事務総局において主に独占禁止法・競争法関連の業務に従事していた。

Ⅰ はじめに

本稿では、本年6月19日に参議院本会議において可決、成立した改正独占禁止法を紹介します。改正法は6月26日に公布され(令和元年法律第45号)、公布後1年半以内に完全施行されます。本改正は、公正取引委員会(以下、公取委)が事業者による協力を踏まえて課徴金の額を減額する仕組みの導入等の課徴金制度の見直しを主たる内容とするものです。また、本改正と併せて、いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権への対応として、規則、指針等を整備することとされています。

Ⅱ 課徴金制度の見直し

1. 課徴金減免制度の改正

現行法の下では、課徴金の額は、違反行為期間(最長3年間)のカルテル等の対象商品・役務の売上額に対して一定の算定率を乗じることにより画一的・機械的に算定されます。また、課徴金減免申請を行った場合の減免率は申請時期と順位によって決定され、減免申請後の事業者による調査協力の程度は考慮されません。そのため、実態に応じた課徴金を課すことが難しい、一定以上の調査協力を行うインセンティブに欠ける等の課題が指摘されていました。
そこで、改正法では、まず、減免申請による課徴金の減免に加えて、事業者が事件の解明に資する調査協力を行った場合に課徴金の額を減額する仕組み(調査協力減算制度)が導入されます。
改正法の下では、既存の申請順位に対する減算率は現行制度よりも下がりますが、事業者が自主的に提出した証拠の価値に応じた減算率が新たに設けられます。その評価方法についてはガイドラインで整備されますが、調査開始日前の申請者に対しては最大40%の減算率が、調査開始日以後の申請者に対しては最大20%の減算率がそれぞれ与えられます。具体的な減算率は、公取委と事業者との間で協議により決定されます。
また、現行法の下では、課徴金減免制度を利用できる事業者は最大5社(調査開始日以後は最大3社)までに限定されていましたが、改正法では、課徴金減免制度を利用することができる事業者の上限が撤廃されます。多数の事業者が調査対象となる審査事件において、全ての事業者に減免を受ける機会が与えられることになります。(<表1>参照)

表1 課徴金減免制度の改正内容

2. 課徴金の算定方法の見直し

違反行為の実態に応じた適切な課徴金を課すことを目的として、課徴金の算定方法についても見直しが行われます。
現行法では算定期間は最長3年間とされていますが、改正法の下では調査開始日から10年前まで遡(さかのぼ)れるようになります。また、資料の散逸等により課徴金の算定基礎を把握できない算定期間について、算定基礎額を推計することを認める規定が新設されます。さらに、事業者に売上額がないことを理由に課徴金を課すことができない事態への対応として、違反事業者から指示や情報を得た完全子会社等の売上額、対象商品・役務に密接に関連する業務の対価及び対象商品・役務を供給しないことの見返りとして受けた談合金等の財産上の利益についても課徴金の算定基礎に追加されることになります。
算定率についても、現行法では、大規模な企業グループに属しており実態としては大企業又は製造業者といえる事業者に対しても形式的な基準に合致すれば中小企業又は卸売業者として軽減算定率を適用せざるを得ないとの課題が指摘されていました。そこで、改正法では、業種別の算定率が廃止され10%の基本算定率に統一されます。また、中小企業向けの軽減算定率も実質的に中小企業といえる事業者に適用範囲を限定する改正が行われます。
これらの見直しにより、課徴金額も大幅に増加することが予想され、いっそうのコンプライアンスの徹底が求められます。

Ⅲ 弁護士・依頼者間秘匿特権への対応

いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権については、法制化はされませんが、新しい課徴金減免制度をより効果的に機能させる取り組みとして、独占禁止法第76条に基づく規則や、指針等が整備されることになりました。
具体的に導入される制度は、不当な取引制限に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記載した文書について、次の要件に該当する場合には、審査官が当該文書にアクセスすることなく、速やかに事業者に還付するというものです(以下、本制度)。

①提出命令時に事業者が本制度の取扱いを求めること ②適切な保管がされていること ③提出命令後、一定期間内に、文書ごとに、作成日時、作成者・共有者の氏名、属性、概要等を記載した文書(ログ)を提出すること ④本制度の対象外の資料が含まれている場合には、その内容を報告すること ⑤違法な行為を目的としたものではないこと

事業者が本制度の取扱いを求めた場合、判別官が要件充足の有無を確認し、事業者に当該文書を還付するか審査官に移管するかを決定します。
本制度は、不当な取引制限の行政調査手続のみを対象として導入されるものです。また、弁護士に相談する前から存在する一次資料や相談の基礎となる事実を収集し、取りまとめた事実調査資料等は本制度の対象外とされています。さらに、本制度の対象は不当な取引制限に関する法的意見に限定されており、私的独占等の不当な取引制限以外の規定又は他法令に関する法的意見等の内容を記載した資料は本制度の対象外とされていますので、留意が必要です。
本制度の対象となる弁護士は外部の弁護士が想定されています。社内弁護士については「違反事実の発覚等を契機として、雇用主である事業者からの指示により指揮命令監督下になく、独立して法律事務を行うことが明らかな場合」という例外的な場合を除き本制度の対象外とされています。また、外国法事務弁護士を含む外国弁護士に関しては、審査対象事件と関連する国際カルテルについて外国競争法の対応に係る相談内容を記載した文書を、一次資料・事実調査資料である場合を除き、提出命令の対象にしないことが指針に明記されます。

Ⅳ その他の改正

その他の改正として、①除斥期間の延長(7年)②調査開始日前に違反事業を承継した子会社等に対する課徴金納付命令の導入③早期離脱に対する軽減算定率の廃止④割増算定率の整理⑤課徴金の延滞金利率の引下げ⑥検査妨害罪の法人等に対する罰金額の上限の引上げ⑦犯則調査手続における電磁的記録の証拠収集手続の整備が行われます。

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