米国税制改正に関する先行ガイダンスを発表
情報センサー2018年6月号 JBS
EYニューヨーク事務所
米カリフォルニア州弁護士 米国公認会計士 秦 正彦
アーンスト・アンド・ヤングLLP税務パートナー。日本企業部タックス・グローバルタックスリーダー。30年近く日系企業の米国事業に国際税務アドバイスを提供。上智大学卒(外国語学部英語学科)。米ウィティアーロースクール卒(JD Cum Laude)。
EYニューヨーク事務所
米国公認会計士 野本 誠
アーンスト・アンド・ヤングLLP税務パートナー。全米税務本部国際税務部および日本企業部所属。1990年より、米国で事業を展開する多業種の日系多国籍企業にサービスを提供。米ペンシルバニア大学ウォートン校卒(会計学、金融工学専攻)。米南カリフォルニア大学会計大学院 税務専門修士過程修了。
Ⅰ はじめに
連邦税法を大幅に改正する「減税・雇用法」が昨年12月22日に成立してから101日が経過した2018年4月2日、同法により導入された三つの条項につき、以下の公告が内国歳入庁(IRS)から発表されました。
- Notice 2018-28:純支払利息損金算入制限規定について(内国歳入法第163条(j))
- Notice 2018-29:外国人によるパートナーシップ持分の譲渡について(内国歳入法第1446条(f))
- Notice 2018-26:外国子会社の留保所得の一括課税について(内国歳入法第965条)
これらの公告は、いずれも今後発行される財務省規則の柱となる基本方針を大枠で示した限定的な内容となっていますが、一部当局の見解が待たれていた条文の解釈が明確化されており、在米日本企業にとっても着目すべきガイダンスとなっています。今回は中でも特に関心が高いと思われる二つの公告を解説します。
Ⅱ 純支払利息損金算入制限規定(内国歳入法第163条(j))
「減税・雇用法」では、主として国外関連者への支払利息の損金算入を制限する旧163条(j)が撤廃され、新たに純支払利息を「調整後課税所得」の30%に制限する新163条(j)が導入されました。ここでいう「純支払利息」とは、事業上の支払利息から受取利息を差し引いたものであり、「調整後課税所得」は繰越欠損金控除前の課税所得に純支払利息と減価償却費を加算した額になります※。純支払利息が調整後課税所得の30%を超えたことにより損金不算入となる支払利息は、無期限で繰り越しとなります。新163条(j)は、直近の3年間の平均総収入(米国内関連者グループ単位)が2,500万ドル超の納税者について、18年1月1日以降に開始する課税年度に適用されます。新163条(j)は、公共ユーティリティー業者については適用免除、不動産業と農業については、一定の条件下で選択することにより適用免除となります。
今回の公告では、旧163条(j)により損金不算入とされ、繰り越されていた不適格利息については、新163条(j)の適用初年度において過年度からの繰越支払利息として取り扱う方針が明確化されました。また、17年12月31日以前に開始する課税年度から旧163条(j)に基づき繰り越されていた不適格利息が18年1月1日以降に開始する課税年度において損金算入された場合、その支払先が財源侵食濫用防止税(BEAT)条項上の国外関連者である場合には、財源侵食支出(Base Erosion Payment)として取り扱われることになります。旧163条(j)上の損金算入制限枠の繰越余裕額は、新163条(j)では余裕額の繰越規定がないため消滅することになります。
新163条(j)の対象となるのは、事業上の支払利息および受取利息とされていますが、「事業上」と「非事業上」の区分が必ずしも明確ではありませんでした。今回の公告によれば、Cコーポレーションの支払利息と受取利息は全額が事業上のものとして取り扱われることになります。Sコーポレーションやパートナーシップについては、財務省規則で詳細が規定される予定です。
旧163条(j)は、直接的・間接的資本関係が50%超の米国内関連会社グループ単位で適用されていましたが、今回の公告により、新163条(j)は、米国内関連会社グループ単位ではなく、連結納税グループ単位で適用される方針が確認されました。連結グループ内の個社レベルでの取り扱いなどに関する詳細は、今後発表される財務省規則において規定される予定です。
新163条(j)は、原則としてパートナーシップのレベルで適用されることが条文で規定されていますが、パートナーシップとパートナーの各レベルでの取り扱いの詳細は、今後発表される財務省規則により規定されることになります。
今回の公告により、旧163条(j)に関する規則草案は撤回されます。IRSでは、新163条(j)に関する財務省規則について、18年5月31日まで一般からの意見を公募しています。
Ⅲ 外国人によるパートナーシップ持分の譲渡
パートナーシップ持分はキャピタル資産と規定されていることから、外国法人または米国非居住者(外国人)によるパートナーシップ持分譲渡益は、米国不動産に帰属する部分を除き、原則非課税というのが従来の基本的な取り扱いでした。
内国歳入庁は、受動的な投資活動の域を超える米国事業に従事するパートナーシップの持分譲渡益は、外国人にとってみなし米国事業所得となり課税対象という通達を公表していましたが、法文解釈的に無理があり、税務訴訟で納税者が勝訴した経緯があります。今回の税制改正により、米国事業に従事するパートナーシップの持分譲渡損益は、米国事業損益と取り扱われる点が明確化されました。
その際、パートナーシップ持分譲渡益を認識する外国人からの税徴収を補完するため、パートナーシップ持分譲受人またはパートナーシップそのものに譲渡対価の10%の源泉徴収義務を課すという規定が同時に導入されています。当該源泉徴収義務の施行に際しては多くの実務上の課題が残されており、税制改正直後の昨年末12月27日には、上場パートナーシップ持分譲渡時の源泉徴収義務を一旦凍結する旨の公告が、早々に発表されていました。今回の公告は、非上場パートナーシップ持分譲渡時に適用される源泉徴収義務の暫定的ガイダンスとなります。
まず、具体的な源泉徴収納付および報告という基本的なステップに関しては、以前から存在する外国人による米国不動産持分譲渡課税(FIRPTA)時の源泉徴収規定に準拠するとし、当面、既存の様式・規則を最大限活用する対応策を打ち出しています。
源泉徴収義務は、譲渡人が外国人でない、または外国人でもパートナーシップ持分譲渡時に譲渡益が存在しない場合には免除されますが、当該免除規定の対象となる旨についての譲渡人から譲受人への具体的な告知方法が規定されています。
従来のFIRPA源泉時には、譲渡益に対する譲渡人の最終税負担と比較して源泉徴収が過多となるケースに源泉徴収額を減免する手続きが設けられていますが、パートナーシップ持分譲渡に対する同様の手続きに関しては、今後のガイダンス待ちとされています。代替案として、外国人パートナーが過去3年で各々に持分を譲渡するパートナーシップから配賦される所得に占める米国事業所得の比率が25%未満、またはパートナーシップ総資産の含み益に占める米国事業資産の含み益の比率が25%未満の場合には、一定の告知手続きを踏むことで源泉徴収義務が免除される緩和措置が設けられています。
また、売却直前までパートナーに配賦されていたパートナーシップ負債額がパートナーシップ持分譲渡時のみなし対価に含まれる場合、源泉徴収目的でどのように当該金額を把握し、また譲受人にどのように当該金額を告知するかという複雑な手続きにも言及されています。
なお、この公告に規定される免除などはあくまで譲受人側の源泉徴収義務に関わるもので、譲渡人側の課税関係には影響がありません。
※ ただし、22年1月1日以降に開始する課税年度については、減価償却費の加算は認められなくなる。