固定資産の減損会計の実務ポイント解説シリーズ 第4回 減損損失の配分と減損処理後の会計処理
情報センサー2017年3月号 会計情報レポート
会計監理部 公認会計士 武澤玲子
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに国内事業会社の監査業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』(中央経済社)などがある。
Ⅰ はじめに
固定資産の減損会計の実務について、シリーズで分かりやすく解説します。第4回の本稿では、減損処理後の会計処理に関する実務論点を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
Ⅱ 減損損失の配分と減損処理後の会計処理に関する実務論点
1. 減損損失の配分
資産グループ全体に対して減損損失を測定した後、その減損損失を合理的な方法により、各構成資産に配分する必要があります(固定資産の減損に係る会計基準 二6(2))。償却資産のみに減損損失が配分された場合はその後の減価償却費が少なくなり、非償却資産に減損損失が配分された場合はその後の減価償却の申告調整が簡便になるというように、どのような配分を行ったかによってその後の会計処理等にも影響を与えることになります。減損損失の配分方法としては、帳簿価額に基づき比例配分する方法のほか、各構成資産の時価を考慮した配分等合理的と認められる方法により、当該資産グループの各構成資産に配分することとされています(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、減損指針)26項)。このため、例えば<表1>のような方法が考えられます。なお、減損損失を計上するに至った経緯を踏まえて特定の資産に配分する方法は、高い金額で取得した土地の含み損部分に配分する場合や、減損損失を計上する原因となった採算が悪化した特定の製造ラインの資産に配分する場合などに採用することが考えられます。
2. 減損処理後の減価償却費
減損処理を行った固定資産については、減損後の帳簿価額に基づき減価償却を行います(減損指針55項)。減損損失を計上した資産グループでは収益性の低下という状況変化が発生していた背景から、残存価額、残存耐用年数の見直しが必要となるケースが多くみられます。期中で減損処理を行った場合、減損処理を行った翌日から見直し後の残存耐用年数、残存価額に基づいた減価償却計算が求められる点にも留意が必要です。
(1) 減損処理後の耐用年数
減損処理後に主要な資産の耐用年数を短縮した結果、他の構成資産の残存耐用年数が主要な資産の残存耐用年数を上回る場合、他の構成資産の耐用年数を主要な資産に合わせて短縮すべきかという論点について解説します。主要な資産の経済的残存使用年数到来時、他の構成資産も処分予定であるなら、主要な資産に合わせて耐用年数を見直すことが考えられます。一方、主要な資産の更新投資が予定されている場合や、他の構成資産を別の資産グループの資産として転用が可能な場合には、他の構成資産の耐用年数はあくまで当該他の構成資産の経済的使用可能予測期間に基づいて決定されるべきだと考えられます。このように、主要な資産の耐用年数より他の構成資産の耐用年数が長いケースでも、必ずしも他の構成資産の耐用年数を主要な資産の経済的残存使用年数に一致させる必要はありません。
(2) 減損損失の認識の判定と減価償却の見直しの関係
減損損失の認識の判定は減価償却の見直しに先立って行われることとされているため(固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書 四2(2)①、減損指針86項)、減損の事実がある場合、まず減損処理を行った上で、残存価額及び残存耐用年数を見直し、減価償却を継続することになります。
3. 減損処理後の状況変化に伴う論点
(1) 過去に減損処理した遊休資産を事業供用した場合、過去に計上した減損損失を資産計上できるか
減損意見書では減損損失の戻入れは行わないこととしています。これは、減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識及び測定していることや、減損損失の戻入れを行うこととした場合の事務的負担を考慮したためとされています。このため、過去に減損処理した遊休資産を事業の用に供することになった場合にも、減損処理の戻入れは行わず、減損後の帳簿価額に基づき会計処理することになります。
(2) 過去に減損処理した資産グループに含まれる土地の正味売却価額が低下した場合の取扱い
環境が変化したことなどにより、回収可能性を著しく低下させる変化が生じている場合を除き、通常は下落した部分を減損処理する必要はないと考えられます。なお、資産又は資産グループの市場価額が著しく下落した場合は「減損の兆候」に該当することとされています。この「市場価格が著しく下落したこと」に該当するかは、過去に減損処理を行っている固定資産であること、当該固定資産のその後の使用状況などを勘案し、個々の企業で判断する必要があると考えられます。
また、遊休資産については、現時点で将来の用途が決まっていない状態そのものが減損の兆候に該当するため(減損指針13項(4))、遊休状態が継続しており、当期においてさらに回収可能価額が低下しているのであれば、低下額が僅少である場合を除き、再度、減損損失を計上する必要があると考えられます。
(3) 過去に減損処理した資産グループの損益が減損処理時の見込みを下回る場合の取扱い
営業損益又は営業キャッシュ・フローがプラスであったとしても、経営環境の悪化などにより、減損時の計画を下回る場合、減損の兆候になると考えられます。このため、当該資産グループについては、再度、減損処理後の帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローを比較し、減損処理の要否を検討する必要があります。
(4) 減損処理を行った資産グループに対して資本的支出を行った場合、支出額を即、減損損失とすべきか
減損損失を計上した際、合理的な使用計画の範囲内で資本的支出が予定されていたなら減損処理は不要であり、当該資本的支出は資産計上されます。一方、減損損失を計上した時の将来キャッシュ・フローの見積りにおける事業計画が大きく変更された結果資本的支出がなされた場合には、減損処理後に状況が変化して減損の兆候がなくなった場合を除き、追加的な資本的支出を含めて改めて将来キャッシュ・フローを見積り、減損損失を認識すべきか否かを検討することになります。なお、将来キャッシュ・フローがマイナスであり、簿価をゼロまで減損したものの、事業継続の必要がある資産グループについて、資本的支出を行った場合など、当該支出額が資産性を有さない場合には、支出額を費用処理することが考えられます。