寄稿記事
掲載誌:2023年2月2日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 藤井 恵
海外赴任者の税務処理など海外人事業務を巡る体制見直しが急務となっています。グローバルな外資系企業が本社で赴任者関連の情報を一元管理するのに対し、日本企業の対応の遅れが目立ってきています。
海外に人を送ると国内勤務時の2~3倍のコストがかかるとされます。EYの調査では、海外赴任者1人当たりのコストを正確に把握する日本企業は一部にとどまります。製品の原価や国内人件費は細かく管理しているのとは対照的です。
グローバル企業ではIT(情報技術)関連ツールや専門家を駆使して、本社で赴任者関連の情報を一元管理してコスト、税務リスク、情報の管理に努めていますが、日本企業は管理体制はどうでしょうか。3つの観点から見てみましょう。
1つ目は、赴任関連手続きの管理ツールです。グローバル企業では専用のITツールを活用するところも多いです。一方、日本企業はエクセルか自社開発ツールを使うケースが大半です。エクセルでは膨大な手作業や計算ミスが発生します。自前主義で赴任者関連業務を特定の担当者に頼っているのも特徴で、脆弱な管理体制といえます。
2つ目は、赴任者の所得税申告などの管理体制です。外資系企業ではグローバル展開する会計事務所を使って一元管理するのに対し、日本企業は現地法人任せが多いです。
本社で管理できていないため意図せぬ申告漏れやそれに伴うペナルティーも生じやすいです。ペナルティーを現地法人で負担できなければ、日本の本社が負担せざるを得ません。結果、日本の税務調査時に「出向者関連コストを本社で負担した」として寄付金と指摘されることもあり、赴任地の所得税だけの問題とは片付けられなくなります。
3つ目が、赴任者に関する処遇です。最近は海外から日本、海外間での異動も増えています。従来の海外赴任者規程をグローバルな海外間異動ポリシーに変える必要があります。そのためには日本企業や外資系企業の処遇水準はもちろん、クロスボーダーの税務などに関する知識やノウハウが必要になります。
日本企業は「経営の現地化」のため、現地のことは現地に任せる傾向があります。ですがリスク管理まで現地任せにして大丈夫でしょうか。赴任先の安全管理は本社で一元管理する企業も多いですが、税務やビザ、社会保険についても同様の体制を構築する時期でしょう。
各国とも新型コロナウイルス禍などで財政状況は厳しいです。国外からの赴任者・出張者数も完全には戻っていません。中国やシンガポールでは赴任者の申告漏れなどの調査が厳しくなっています。日本企業はこれまで海外赴任者の税務などは「事務手続き」的なものと位置づけてきており、そのリスクを十分に考慮していたとは言えません。
海外赴任者がコロナ禍で一時帰国した際の源泉徴収漏れを国税庁から指摘され追徴課税を受けた日本の企業もあるなど、海外赴任者のコストへの本社の関心や見直し機運は高まっています。まずは早い段階で現状を把握し、体制見直しに乗り出すことが重要です。
(出典:2023年2月2日 日経産業新聞)