旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』 ー 第77回 脱・掛け声だけの女性活躍 ―女性も男性も活躍できる社会の実現を―

河合 優香理
株式会社Enbirth 代表取締役

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2023年9月10日号に掲載された記事をご紹介します。

「産め・働け・輝け」…女性活躍という言葉に違和感を抱いている方も少なくないのではないでしょうか。私もその一人でした。それを解決するために起業をし、今こうして想いを文章にする機会をいただけていることに感謝しつつ、女性活躍について考えてみたいと思います。

ー 女性活躍という言葉が他人事だった20代

男女関係なく同じように勉強をし、就職活動をし、電機メーカーに就職。ちょうど女性活躍という言葉が出始めた時代でした。しかしなぜ女性だけ“活躍”という言葉を付けられるのか、まったくピンと来ていなかったのが私の20代です。

ー 女性活躍に翻弄された30代

1年間の育休ですっかり社会と断絶された寂しさを感じていた私は、いち早く仕事がしたい!と鼻息荒く職場復帰するも、アサインされた仕事は負荷が軽いもの。その後も周囲の配慮により、出張や残業は免れ、気がつけば社内での私の存在感は薄いものに…しかし負荷は軽くとも、目の前のタスクに追われるなかで、たび重なる保育園からのお迎え要請、泣きじゃくるわが子、出張と残業でほとんど家にいない夫、気がつけば心身ともにボロボロで、職場にも保育園にも「すみません」という言葉を繰り返す日々。一方で、社会では女性活躍という言葉が独り歩きし、キラキラしたロールモデルが脚光を浴びるなど、自分の現実と女性活躍の取組みが、まるで別世界のことのように感じられました。

ー 日本の女性活躍を変えるべく奮闘している40代

37歳で独立した私は、日本の女性活躍の現状を何とかしたいという想いから、大企業に特化した組織調査を開発し、ありがたいことに数々の企業様にご導入いただいております。そして、多くの調査結果をみて感じたことは、上記の30代の記憶は、単なる私の個人的な経験ではなく、日本の社会課題であるということ。育休を経験した女性のほとんどが、意欲的な状態で復帰しています。それに対して会社からアサインされる仕事の質は低下。その背景にあるのは、周囲の“無意識の配慮”です。育児中であるがゆえに、責任の少ない仕事を与えられた女性は20%、それに対し、そういった経験のある男性はわずか2%。両立支援制度はあれど男性は使いづらく、結果、育児は女性にのしかかり、ワンオペ育児と仕事の両立をする一方で、夫は仕事に勤しみ、気づけば夫婦間での賃金格差が生まれる。こういった実態が調査結果からみえてきました。

※ 日本がジェンダー後進国になっている本質的な背景に関する調査レポート_2022
(www.slideshare.net/TalentX/ss-251231223/TalentX/ss-251231223)

ー では、どうしたらよいのか

実は多くの組織調査において、女性と若い世代の回答傾向は酷似します。彼らは“働きやすさ”だけではなく、“働きがい”を重視しながらも効率的に働くことでWLBを保つことを求めています。つまり女性活躍を実現することは若手活躍を実現することであり、生産性の高い働き方を推進する、ということです。そのことに1人ひとりが気づき「女性活躍を女性だけの話にしない」ということが、女性活躍を掛け声だけで終わらせないための必須条件のように思います。1人ひとりの声は小さいけれど、集めればきっと大きな力になると信じて始めた組織調査、まだまだ道半ばですが、たくさんの出会いや経験に恵まれています。今、生きづらさを感じている方たちは多いと思います。しかしそのモヤモヤに飲み込まれるのではなく「では、どうしたらよいのか」を常に考え、一歩を踏み出すことが人生を豊かにする秘訣かもしれません。

河合 優香理


河合 優香理(かわい・ゆかり)
株式会社Enbirth 代表取締役

略歴

早稲田大学卒業後、2004年株式会社日立製作所に入社。海外営業・マーケティングを経験後、日本マイクロソフト株式会社に移り、Windows/Xboxのマーケティングを担当。2017年に独立し、株式会社Enbirthを創業。マーケティングの視点を生かしたHRサーベイを開発し、現在主に日系大手企業を中心に展開中。また、人的資本の情報開示に精通し、本質的な人的資本の情報開示を日本のスタンダードにすべく、現在MUFGと共同実証実験中。