7 分 2024年5月16日

For higher education to transform successfully, leaders need new approaches to keep people engaged and supported during the journey.

ブレインストーミング中のマルチエスニックなビジネスチーム
Global Education Report 第2弾

大学がデジタルトランスフォーメーションの中心に人を据え続けるには

執筆者 Catherine Friday

EY Global Education Leader; EY Oceania Managing Partner, Government and Health Sciences

Improving how governments work and deliver services. Mustang owner. Keen horse rider. Average but enthusiastic skier.

7 分 2024年5月16日

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大学などの高等教育機関がトランスフォーメーションを成功させるには、リーダーが常に人を巻き込み、サポートしながら推し進める、新しいアプローチが必要です。

要点

  • デジタルトランスフォーメーションを、組織全体の大きな前進と捉えているか、それとも単なる技術を最新化するプログラムと捉えているのか。
  • 大学内の各リーダーが、トランスフォーメーションのもたらす心理面・感情面の影響に注意を払うよう、どのような体制を整えられるか。
  • 自身のトランスフォーメーションのビジョンを人々が支持し、その実現に向けた取り組みを持続できるよう、何ができるか。

大学におけるデジタルトランスフォーメーションを成功に導きたいのであれば、リーダーはこれまでの取り組み方を変える必要があります。その最適な方法は、デジタルトランスフォーメーションの中心に人を据えることです。

前回のレポート、大学変革の土台となるのはテクノロジーの導入か?人を中心に据えたアプローチか?では、既存のデジタル化戦略に関する多くの課題が挙げられ、大学が学生や教職員の期待に応えられていない現状が明らかになりました。

しかし、その中で前向きな考察もありました。2022年にEYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールが複数の業界を対象に行った調査では、トランスフォーメーションの成功モデルを特定しました。それは、6つの主要な対応に沿って、人を中心に据えるアプローチであり、変革を成功に導く可能性を格段に高めることができます。このうちのいくつかを採用するだけでは成功を収めることができませんが、6つのすべてをうまく実行すれば、トランスフォーメーションの成功率を2.6倍高めることが可能です。

私たちは、この6つの成功要因という観点から、高等教育機関におけるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みについて、その現状を調査しました。今回のレポートは、EYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールが共同でまとめたレポートの内容と、高等教育機関の教職員と幹部に行った直接インタビューで得た知見に基づいています。

  • 調査方法

    2023年、EYは一次調査プロジェクトを率い、大学の中心にいる人々に話を聞き、大学がデジタルトランスフォーメーションに向けた取り組みの中心に人を据えるにはどうすればいいか、その実際的な方法の調査を始めました。

    2023年4月から6月にかけて、EYはTimes Higher Education(THE)と共同で、オーストラリア/ニュージーランド、カナダ、インド、日本、サウジアラビア/アラブ首長国連邦、シンガポール、英国/アイルランド、米国の8つの国・地域の教員116名と職員147名を対象にオンラインでフォーカスグループ・インタビューを実施しました。

    さらに、2023年2月から4月にかけて、EYは、同じ国・地域の大学28校のリーダーに直接インタビューも行いました。私たちは、2022年の業界の枠を超えた調査で特定された、トランスフォーメーションにおける6つの成功要因の枠組みを使用して、それぞれの重要度と、それをどの程度(またどのように)実行しているか、デジタルトランスフォーメーションに取り組む中で、全般的に感じているメリットと課題について調査しました。

    EYは、インタビューの結果を分析・整理し、共通のテーマおよび事例を特定しました。

大学のデジタルトランスフォーメーションを加速させる

大学が変革を進める中、本レポートでは、変革を成功に導くために、リーダーが職員をどのように巻き込むべきかについて考察します。

レポートをダウンロードする

なぜ大学はデジタルトランスフォーメーションが大きな痛みを伴うと感じているのか

大学の変革においては、従来の大学モデルが、その推進を阻む最大の障害となる可能性があります。多くの大学の組織は細分化、サイロ化されており、個々の学部は、独立した小規模な組織として機能し、学部の垣根をまたいだ取り組みの一元化や調整を必要とする戦略に抵抗する場合もあります。

「変革が1年に1回、場合によっては四半期に1回起き、それが体に染み込んでいる企業等の営利組織とは異なり、大学は変革に非常に不慣れです」とコーク大学(アイルランド)でIT サービスのディレクターを務めるGerard Culley博士は説明します。

この問題を複雑にしているのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に経験した大変動を何とか乗り越えた教職員が、往々にして変革疲れに陥っていることです。今回のフォーカスグループのあるカナダ人参加者は、次のように述べています。「パンデミックを切り抜けたと思ったら、今度は新しいツールについて話していますが、中には、『ちょっと一息つかせてほしい』と言っている人もいます。数年続いたカオスのような状態がようやく終わり、私たちには心を静める時間が必要なのです」

今度は新しいツールについて話していますが、中には、『ちょっと一息つかせてほしい』と言っている人もいます。数年続いたカオスのような状態がようやく終わり、私たちには心を静める時間が必要なのです。
カナダの教員フォーカスグループ

デジタルトランスフォーメーションの中心に人を据えるために取るべき6つの対応

トランスフォーメーションに対する大学の構造的・文化的抵抗と闘うためには、リーダーは変革の中心にいる人たちを常に支援する必要があります。教員や職員のインタビューに基づいて、大学のリーダーが6つの成功要因を強化するための実践的なアイデアをご紹介します。

1. 先導する(Lead)‐ 必要なリーダーシップスキルを身に付け、強化する

従来の大学では、組織がサイロ化し、また強固に守られているため、大学全体のトランスフォーメーションの実現を望むリーダーは、他のセクターよりも慎重に取り組みを進めなければなりません。高等教育機関のリーダーがこの問題に対処するには、以下の対応が必要です。

  • 学部長や学科長全員が、変革を先導するよう体制を整える:デジタルトランスフォーメーションは、大学全体の取り組みです。最初からすべての教職員やリーダーがトランスフォーメーションを支持するということはまずあり得ませんが、全員を取り込むことが重要です。反対あるいは無関心な学部長が1人でもいれば、トランスフォーメーションが進まなくなる恐れがあります。
  • デジタルフルーエンシー(デジタル活用力)を身に付ける:リーダーは、テクノロジーの仕組みを理解する必要はありませんが、テクノロジーで何ができ、何ができないかを知り、そのメリットを発信する必要があります。あるフォーカスグループの参加者は、皆の不満を次のように代弁しました。「上層部は、ツールがどのようなものかを十分に理解せずに、ブームに乗っかろうとしているように感じます」
  • 最適なチームを選ぶ:リーダーは、その人のスキルや学習能力、変化に対応する意欲を基準に人材を選定する体制を整えなければなりません。そのためには、どの学部長が信頼できる変革推進者になるかを見極めておくことも必要です。
上層部は、ツールがどのようなものかを十分に理解せずに、ブームに乗っかろうとしているように感じます。
日本の教員フォーカスグループ
2. 動機付ける(Inspire)‐ 組織全体の共感を得られるビジョンを設定する

デジタルトランスフォーメーションは、リーダーが明確なビジョンを設定し伝え、それを実現する道筋を示すことから始まります。リーダーが賛同を得るために、取るべき対応は以下の通りです。

  • シンプルで大胆、かつ説得力のあるビジョンを設定する:やる気を喚起するには、教員や職員が共感して支持できるような、説得力があり、改革の強い原動力につながるビジョンが必要です。
  • デジタルトランスフォーメーションが人にどのようなプラスの影響を与えるかを示す:焦点を当てるべきなのは、未来のデジタル社会がどのようなメリットを学生や教員、職員にもたらすか、ひいては大学自体の存続につながるかであり、そこに常に立ち返る必要があります。
  • 皆の発言を尊重する:リーダーは、教職員のニーズや懸念に耳を傾け、彼らを意思決定プロセスに加え、トランスフォーメーションが抱える複雑さや難題、必要なトレードオフを、彼らが理解できるようサポートしなければなりません。身をもってこのプロセスを経験してきたのが、サセックス大学(英国)でデジタルトランスフォーメーションの最高責任者を務めるJason Oliver氏です。「重要なのは、コミュニティと共に、戦略を策定することでした。(中略)テクノロジーについて話すよりも、それがどのようなメリットをもたらすのかという観点からのアプローチが必要です」とOliver氏は話します。
重要なのは、コミュニティと共に戦略を策定することでした。(中略)テクノロジーについて話すよりも、それがどのようなメリットをもたらすのかという観点からのアプローチが必要です。
Jason Oliver氏 サセックス大学 デジタルトランスフォーメーション 最高責任者
3. 寄り添う(Care)‐ 組織全体の共感を得られるビジョンを設定する

デジタルトランスフォーメーションは、創造的で、かなりの労力を要するプロセスであるため、リーダーは、変革の中心にいる人たちに対する精神的な支援に尽力しなければなりません。また、変革が困難を伴うことを認識して、障害となり得る問題について率直に話し、以下の対応を取る必要があります。

  • 耳を傾ける ‐ 話すより聞くことを優先し、多様な考え方を考慮する:トランスフォーメーション全体を通して、関係者全員、特に抵抗派には安心して、正と負、すべての感情を表に出せる場が必要です。また、そのフィードバックへの対処も求められます。その対処がない場合、「フィードバックが求められたとしても、それが考慮されず、結果にあまり影響を与えていないように感じます」と、あるフォーカスグループの参加者は話します。
  • 話す ‐ 疑念や疑問のある人は声を上げるよう促すだけでなく、彼らに発言するよう直接話すことで、心理的安全性を積極的に創出する:リーダーは学内で起きていることに関心を持ち、それに耳を傾けなければなりません。
  • 認める ‐ リーダーがすべての答えを知っているわけではないと自覚すると、部下は自分の考えを述べる可能性が高くなる:リーダーが、新しいアイデアの受け入れにオープンであることを示す方法の1つは、トランスフォーメーション・リーダーシップ・チームに多くの現場で働く教職員を加えることです。
フィードバックが求められたとしても、それが考慮されず、結果にあまり影響も与えていないように感じます。
英国/アイルランドの職員フォーカスグループ
4. 奨励する(Empower)‐ 責任の所在を明確にし、変化に対する適応力を醸成する

他とは異なる専門性を持つことから、医学や工学、人文科学などの分野では、状況に応じて独自の適応を認める対応が不可欠です。リーダーは、デジタルトランスフォーメーションの目標に沿って、独創的な解決策を考案する自律性を、教職員に持たせる必要があります。そのために、リーダーが取るべき対応は以下の通りです。

  • アジャイルな働き方を導入する:イノベーションとトランスフォーメーションの目標達成をサポートするため、複数の学部にまたがるワーキンググループを立ち上げます。各グループに、より大きな計画に沿った担当を割り当て、それを遂行するために必要な責任と権限を与えます。各グループは小さな取り組みから始めて、進捗を発表し、フィードバックループを繰り返し、実際の稼働に臨みます。
  • 明確な暴走防止のガードレールを設けた上で、試験的試みを奨励する:大学全体で、何百もの小規模な試験的試みが実施される事態は避けるべきです。イノベーションの試験的プログラムだけでなく、大学全体をデジタル化する取り組みへの投資も優先するためには、明確なロードマップが不可欠です。
  • イノベーションに対する意欲を高め、それに報いる:イノベーションの奨励と表彰に加え、試みが失敗した場合、負の結果に目をつぶることも重要です。インセンティブ策として考えられるのは資金提供、コンテスト、賞・賞金、公の場での評価、専門能力開発の機会、さらには新たなキャリアパスなどです。
5. 醸成する(Build)‐ テクノロジーとケイパビリティを駆使して、取り組みの迅速な見える化を実現する

デジタルトランスフォーメーションの成否を左右するのは、ビジョンをサポートするテクノロジーへの投資と、それを効果的に使用するための教職員の教育や支援です。教職員がデジタルスキルの訓練だけでなく、デジタルマインドセットを醸成するサポートも受ける必要があることは言うまでもありません。IT組織の場合、事業の「運営」から、「成長」と「変革」の取り組みへと重点をシフトさせることも必要です。カーティン大学(オーストラリア)でCIOを務めるJason Cowie氏は、「必要なのは、有能なだけでなく、正しいイノベーションマインドセットを持つチームです」と述べています。こうしたデジタルマインドセットを育む支援をするために、トランスフォーメーション推進リーダーが取るべき対応は以下の通りです。

  • 教職員がすぐにテクノロジーを入手できる状態にする:そうすることで、教職員はすぐにメリットを享受し、さらなる機会や障害について早くフィードバックし、その後、そうした機会や障害への対応ができるようになります。
  • アクションおよび影響について、丁寧かつ粘り強く発信する:全員が確実に、実際の影響を素早く確認できるようにすることが重要です。何ができるかを知ると、自身の組織などでも同じようなメリットを得るために、トランスフォーメーションに関与する人が増えると思われます。
  • 学ぶ時間と場を提供する:大規模なデジタルトランスフォーメーションを実現するには、大学教職員全員がデジタル面で成熟すること、また教員については新しい指導法を学ぶことが必須です。この研修は、大規模なイベントで、あるいはオンラインプラットフォームを利用して、大規模に実施する必要があると思われます。継続的な学びは、教員に期待される任務として、それに必要な時間を確保します。
必要なのは、有能なだけでなく、正しいイノベーションマインドセットを持つチームです。
Jason Cowie氏 カーティン大学 CIO
6. 協働する(Collaborate)‐ つながりと共創のための最善の方法を見極める

デジタルトランスフォーメーションは、大学のさまざまな組織が合流し、つながる未来を後押しするための「川」のような役割を果たすことが求められます。サイロ化した従来の学部や学科全体を横に結ぶつながりを広げ、強化するに当たり、リーダーは以下の対応が求められます。

  • キャンパスの枠を超えたつながりをつくる:現在進められている試験的試みとトランスフォーメーションのすべてを、一元的に監督する方法を開発し、グループの枠を超えて学びを共有することを徹底させます。それが、こうした新しいつながりを取り入れ、常に組織構造を変えたり、特定のプロジェクトに関する学部の枠を超えたワーキンググループを立ち上げたりすることにつながる可能性があります。
  • つながりを常に進化させる:大学の新しいあり方と働き方を示す、学部の枠を超えたつながりの場を維持し、教職員が常にトランスフォーメーションを念頭に置くよう支援します。
  • 誰がインフルエンサーかを見極め、その力を活用する:組織のネットワークを分析して、知られざるインフルエンサーを特定し、重要な発信役として、トランスフォーメーション推進のサポートをしてもらいます。

高等教育機関がデジタルトランスフォーメーションにおいて、より大きな成果を上げるための鍵を握るのは、人材への投資であり、適切なテクノロジーへの投資よりもそれを重視する必要があります。大学幹部は、教員や職員から賛同を得ること、大学全体の連携体制の整備、迅速かつ大規模なデジタル化の推進、精神的なサポートの提供、デジタルスキルとデジタルマインドセットの構築、関係者を定期的に招集し成果の奨励、学びの共有、全員の士気を高め、その勢いを持続させることなどを含め、多くの重要な任務を担っており、これらを遂行することが求められています。


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サマリー

大学がトランスフォーメーションを模索する中、リーダーは教職員の要望とニーズに応える必要があります。具体的には、トランスフォーメーションがもたらす心理面・感情面の影響への理解と支援などが挙げられます。そうすることで、リーダーは、トランスフォーメーションへの取り組みを成功に導く可能性を2~3倍高めることができます。今回のレポートでは、トランスフォーメーションを成功に導くためにリーダーが採用すべき6つの対応を紹介しています。

この記事について

執筆者 Catherine Friday

EY Global Education Leader; EY Oceania Managing Partner, Government and Health Sciences

Improving how governments work and deliver services. Mustang owner. Keen horse rider. Average but enthusiastic skier.

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