公認会計士 太田 達也
はじめに
会社法により合同会社という法制が整備されましたが、株式会社にはないメリットが認識され、設立件数は毎年増加の一途をたどっています。(株)東京商工リサーチの調査によれば、2021年の法人設立件数は14万4,622社(前年比10.1%増)でしたが、そのうちの合同会社の設立件数は、3万6,934社(前年比10.9%増、構成比25.5%)で、初めて3万6,000社を超えたようです。
合同会社と株式会社との違いは多岐にわたりますが、本稿では、会社の計算に関連の深い「会社損益の社員に対する分配」と「各社員の持分の計算」について取り上げます。
会社損益の社員に対する分配
合同会社の株式会社にはない取扱いとして、「会社損益の社員に対する分配」という独自のものがあります。会社損益の社員に対する分配と、社員に分配された利益に相当する会社財産を利益配当として現実に社員に払い戻すことが区別して規定されている点に特徴があります。会社損益の社員に対する分配とは、会社損益の社員に対する計算上の「配布」という意味であり、実際に払い戻す利益の配当とは異なる点に留意する必要があります。
会社に利益が計上された場合は各社員の持分が増加し、損失が計上された場合は各社員の持分が減少しますが、その都度、社員に利益を配当したり、損失をてん補させたりする必要はありません。増減した各社員の持分は、社員の退社または会社の清算のときに現実化すると考えられます(注)。
(注)「新基本法コンメンタール 会社法3」(別冊法学セミナーNo.201)日本評論社、P53(青竹正一)。「会社法コンメンタール14」商事法務、P11(宍戸善一)。
各社員の持分の計算
毎期、各社員に損益の分配がされるため、各社員の持分計算表を作成しておくべきです。各社員の持分が現状どうなっているかを把握できるようにしておく必要があります。
(具体例)設立第1期に400の当期純利益が生じました。持分に応じて各社員に分配しました。
- 設立時の資本金 600
- 設立時の資本剰余金 1,600
(注)合同会社の場合、株式会社と異なり、払込金額に係る2分の1規制は課されません。払込金額の全額を資本剰余金に計上することも可能です。
- 各社員の持分 社員A:50%、社員B:25%、社員C:25%
(設立第1期末)
ここで重要なポイントは、各社員に帰属している資本金、資本剰余金および利益剰余金をとらえて管理するという点です。例えば、設立第1期末において社員Aには資本金が300、資本剰余金が800、利益剰余金が200帰属していると考えます。
社員が退社したときの持分の払戻し
社員が退社した場合は、原則として、その退社した社員に対して持分を払い戻します。例えば、先の例で、設立第1期末をもって社員Cが退社したとします。社員Cに帰属している持分650を払い戻すことになります。
ここで重要なポイントは、持分の払戻しに際して、資本金を減少するかしないかはケースバイケースであるという点です。合同会社の場合、各社員に帰属する資本金、資本剰余金、利益剰余金という考え方がとられますが、社員の退社により残存社員に帰属する資本金、資本剰余金、利益剰余金の額が変わり得ます。
ある社員が退社した場合、債権者保護手続を行わないのであれば資本金は減少せず、退社した社員以外に帰属していた資本剰余金、利益剰余金が退社した社員への払戻しに充当される一方において、退社した社員に資本金として帰属していた額が、残存社員の資本金として移ると考えられます(注)。
先の例で、資本金を減少しないで社員Cに対する持分の払戻しを行ったとします。社員C退社後の社員Aおよび社員Bの持分がどのようになるかを具体的にみます。
社員Cに対する持分の払戻額650には、まず社員Cに帰属していた資本剰余金400と利益剰余金100が優先的に充当されます。不足している150(650-(400+100))は社員Cに帰属していた資本金の額に一致しますが、資本金は減少しませんので、社員Aおよび社員Bに帰属する資本剰余金および利益剰余金から充当されます。逆に、社員Cに帰属していた資本金は、社員Aおよび社員Bに移ることになります。
結果的に、社員C退社直後の社員Aおよび社員Bに帰属する資本金、資本剰余金および利益剰余金は、次のようになります。
(設立第1期末)
(注1)社員Aに帰属する資本金の増加額は、150×2/3=100
(注2)社員Bに帰属する資本金の増加額は、150×1/3=50
(注3)社員Aに帰属する資本剰余金の減少額は、150×800/(800+400+200+100)=80
(注4)社員Bに帰属する資本剰余金の減少額は、150×400/(800+400+200+100)=40
(注5)社員Aに帰属する利益剰余金の減少額は、150×200/(800+400+200+100)=20
(注6)社員Bに帰属する利益剰余金の減少額は、150×100/(800+400+200+100)=10
なお、合同会社の法務・会計・税務の詳しい内容については、拙著「合同会社の法務・税務と活用事例(改訂版)」(税務研究会出版局)をご参考としていただければ幸いです。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。