欠損金の繰戻し還付に係る税効果会計の処理

2021年3月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

欠損金の繰戻し還付制度とは

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により業績が悪化している法人が増加しています。その事業年度の課税所得がマイナスになった場合、その絶対値を欠損金額といいます。欠損金額が生じた場合、翌事業年度以降に繰り越すこともできますが、前期に繰り戻して、法人税額の還付を請求することもできます。すなわち、青色申告法人の確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金額がある場合には、その欠損金額に係る事業年度(欠損事業年度)開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)の所得に対する法人税額の還付を請求することができます(法法80条1項)。事業年度が1年である通常の法人の場合、前期に繰り戻して還付請求できることになります。

また、青色欠損金の繰戻し還付制度のほかに、災害損失欠損金の繰戻し還付制度があります。すなわち、災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度において生じた災害損失欠損金額(※)がある場合には、その事業年度開始の日前2年(白色申告である場合には、前1年)以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付を請求することができます(法法80条5項)。事業年度が1年である青色申告法人の場合、前期と前々期に繰り戻して還付請求することができます。

なお、欠損金の繰戻し還付請求を行うときの還付請求書、別表および明細書の記載方法等については、拙稿「令和2度税制改正を踏まえた 決算・税務申告実務~令和3年3月期決算・申告の実務対応~」(週刊税務通信No.3643)をご参照いただければと思います。

※ 災害損失欠損金額とは、 災害により棚卸資産、固定資産または政令で定める繰延資産について生じた損失の額で、政令で定めるものであり、災害欠損事業年度の欠損金額のうち、災害損失の額に達するまでの金額をいいます(法法80条5項、法令116条1項)。

緊急経済対策による対象法人の拡充

昨年4月に施行された緊急経済対策により、青色欠損金の繰戻し還付制度について、資本金または出資金の額が1億円以下の中小企業者だけではなく、資本金または出資金の額が1億円超10億円以下の法人についても認められるとされました。ただし、大規模法人(資本金または出資金の額が10億円超の法人および相互会社)による完全支配関係がある法人、100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式等の全部を直接または間接に所有されている法人は除きます。資本金が10億円以下か10億円超かは、各事業年度終了の時の現況により判定されます。

また、この対象法人の拡充措置は、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金について適用されます。

欠損金の繰戻し還付に係る税効果会計の処理

欠損金の繰戻し還付を請求した場合、国税である法人税と地方法人税について還付がされる一方、法人事業税や法人住民税などの地方税には欠損金の繰戻し還付の制度がありません。したがって、欠損金が生じて、法人税および地方法人税について欠損金の繰戻し還付の適用を受けた場合においても、法人住民税(法人税割)および法人事業税(所得割)の計算上は、その繰戻し還付がなかったものとして、その事業年度において生じた欠損金を翌期以降に繰り越すことになります。

この場合に、税効果会計の処理をどのように行うのかが論点になります。法人税および地方税については、欠損金を繰り戻した部分についての翌期以降の税金の減額効果はありませんので、繰延税金資産を計上することはできません。一方、法人住民税(法人税割)および法人事業税(所得割)については、その事業年度において生じた欠損金を翌期以降に繰り越すことにより、翌期以降の税金の減額効果が生じ得ます。法人住民税(法人税割)および法人事業税(所得割)に係る翌期以降に繰り越す欠損金について、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められる部分について繰延税金資産を計上することになります。

欠損金の繰戻しに係る税効果会計の設例

以下、設例により、欠損金の繰戻しに係る税効果会計の処理を説明します。

【設例】青色欠損金の繰戻し還付に係る税効果会計の処理

前提条件

A社は3月決算の青色申告法人です。当期(令和3年3月期)の業績が厳しい状況であり、欠損事業年度になりました。青色欠損金の繰戻し還付を請求することになりました。還付請求金額を計算した上で、税効果会計の処理を説明してください。

当期および前期の課税所得金額、前期の法人税額は、次のとおりです。

1. 課税所得金額
事業年度 課税所得金額
前期(令和元年4月1日から令和2年3月31日) 40,000,000
当期(令和2年4月1日から令和3年3月31日) △25,000,000

2. 前期(令和元年4月1日から令和2年3月31日)の法人税額

2. 前期(令和元年4月1日から令和2年3月31日)の法人税額

解答

1. 欠損事業年度の欠損金額および還付所得事業年度の所得金額

(1) 欠損事業年度の欠損金額
欠損事業年度は当期(令和2年4月1日から令和3年3月31日)であり、その期の欠損金額は25,000,000円です。

(2) 還付所得事業年度の所得金額
還付所得事業年度は前期(令和元年4月1日から令和2年3月31日)であり、その期の所得金額は40,000,000円です。

2. 法人税の還付請求額

2. 法人税の還付請求額
3. 地方法人税の還付請求額

5,800,000円 × 4.4% = 255,200円

4. 税効果会計の処理

当期の青色欠損金25,000,000円については、法人税および地方法人税に係る翌期以降の税金の減額効果はありませんので、繰延税金資産の計上はできません。

一方、法人事業税(所得割)については欠損金25,000,000円を翌期以降に繰り越すことになり、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるときは25,000,000円に次の算式(1)で計算される実効税率を乗じた金額について繰延税金資産の計上を行います。

また、法人住民税(法人税割)については、欠損金の繰戻し還付の規定により還付を受ける法人税額は「住民税の欠損金(正式名称は「控除対象還付法人税額」)」として、翌期以降の道府県民税および市町村民税の計算の基礎となる法人税額から控除することになりますので、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるときは5,800,000円に次の算式(2)で計算される実効税率を乗じた金額について繰延税金資産の計上を行います。

算式(1) 法人事業税のみを対象とする実効税率

算式(1) 法人事業税のみを対象とする実効税率

(注1)事業税について超過税率が適用される場合を前提としています(算式(2)も同じ)
(注2)翌期以降に適用される税率を入れて、計算します(算式(2)も同じ)

算式(2) 法人住民税のみを対象とする実効税率

算式(2) 法人住民税のみを対象とする実効税率

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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