収益認識会計基準適用下の有償支給取引に係る会計および税務上の対応 ~会計と法人税・消費税の取扱いとの関係~

2020年1月7日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

有償支給取引の会計処理

「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」)には、有償支給取引の会計処理が示されています。

有償支給取引とは、企業が、対価と交換に原材料等(以下、「支給品」)を外部(以下、「支給先」)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む)を購入する取引をいいます。

有償支給取引に係る処理にあたっては、企業が当該支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する必要があるとされ、次のように買い戻す義務の有無によって、会計処理が異なります。

企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合

企業は当該支給品の消滅を認識しますが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しません。

企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合

企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しませんが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができます。なお、その場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しません。

買い戻す義務の有無にかかわらず、支給品の譲渡段階において収益を認識しない取扱いで統一されました。支給品の譲渡段階と最終製品の譲渡段階で二重に収益が計上されないようにという趣旨によるものです(適用指針179項)。

また、買い戻す義務を負っている場合に、当該支給品の消滅を認識しないとされているのは、当該支給品に係る支配が支給先に移転したとは認められないため、依然として企業の棚卸資産として計上すべきであると考えられるからです。ただし、個別財務諸表上は、在庫管理の実務上の困難さが指摘された経緯があり、例外的に消滅を認識することを認めるとする代替的な取扱いが置かれています(適用指針181項)。

なお、有償支給取引において、支給先によって加工された製品の全量を買い戻すことを支給品の譲渡時に約束している場合には、企業は当該支給品を買い戻す義務を負っていると考えられるが、その他の場合には、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かの判断を取引の実態に応じて行う必要があるとされている点に留意する必要があります(適用指針178項)。

具体的な仕訳等については、拙著『「収益認識会計基準と税務」完全解説』(税務研究会出版局)を参照していただければと思います。

法人税の取扱い

会計上は、支給品に係る買戻義務の有無にかかわらず、支給品の譲渡段階での収益を認識しない取扱いで統一されましたが、法人税法上どのように解するかが問題となります。

法人税法上、取引の実質に基づいて判断されるべきであり、当事者間で所有権の移転に関する実質的な合意が成立しており、支給元から支給先に所有権が移転していると認められる場合には、その時点で収益を認識すべきものと考えられます。この場合、会計上収益計上していませんから、法人税申告書の別表4において加算の調整が必要となると考えられます。あくまでも取引の実質をとらえて判断することになると考えられます。

なお、支給品を全量買い戻す義務を負っている場合には、実質的には所有権が移転していないと判断できる余地が生じると思われます。

消費税の取扱い

消費税は、資産の譲渡等(譲渡、貸付けおよび役務の提供)の対価として収受された金額、または収受されるべき金額を課税標準として計算されます。いわば実際の取引額に基づいて計算されます。有償支給取引については、通達がその取扱いを次のように示しています。すなわち、事業者が外注先等に対して外注加工に係る原材料等を支給する場合において、その支給に係る対価を収受することとしているときは、その原材料等の支給は、対価を得て行う資産の譲渡に該当するとされています(消基通5-2-16)。したがって、課税取引に該当します。会計上収益を認識するかどうかにかかわりなく、支給元において仮受消費税等を、支給先において仮払消費税等を計上することになると考えられます。なお、対価が名目的なものであり時価と異なる場合であっても、時価に引き直す必要はありません(消基通10-1-1)。

ただし、有償支給の場合であっても事業者がその支給に係る原材料等を自己の資産として管理しているときは、その原材料等の支給は、資産の譲渡に該当しないことに留意するとされています。自己の資産として管理しているかどうかについては、支給元が経理処理等を通じて支給材の受払い、数量管理等を行い、最終的に未使用材料について返還を受けるか、またはその分の対価を授受しているような場合が該当すると判示したものがあります(大分地判・平成10年12月22日、税資239号618頁)。

支給品に係る管理を支給元が行っているのか、支給先が行っているのかという点に着目していますが、これは所有権が移転したのかどうかという点を判断するための指標であると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

この記事に関連するテーマ別一覧

収益認識

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ