消費税の複数税率下における販売奨励金・リベートの取扱い

2019年9月2日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

販売奨励金等に係る消費税の取扱い

2019年10月から、消費税の複数税率が導入されます。個々の品目について、軽減税率の対象である飲食料品に該当するのかどうかの判定を行うことは当然必要ですが、それ以外の場面においても、適用税率の判定を慎重に行う必要があります。

販売奨励金やいわゆるリベート(以下、「販売奨励金等」といいます)に適用される税率ですが、事業者が販売促進の目的で課税資産の販売数量や販売高等に応じて取引先(課税仕入れの相手方のほか、その課税資産の製造者、卸売業者等の取引関係者を含む)から金銭により支払を受ける販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還等に該当します(消基通 12-1-2)。同様に、事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先(課税資産の販売の直接の相手方としての卸売業者等のほかその販売先である小売業者等の取引関係者を含む)に対して金銭により支払う販売奨励金等は、売上げに係る対価の返還等に該当します(消基通 14-1-2)。

複数税率下における適用税率の判定

販売奨励金等を受け取る事業者の場合、それが仕入値引きであるのか、あるいは、販路の拡大といった役務の提供の対価であるのかを、適切に判断する必要があります。

仕入値引きであって、しかもそれが飲食料品に対する仕入値引きである場合は、その仕入れに係る対価の返還等について軽減税率が適用されます。一方、販路の拡大という役務提供の対価である場合は、その課税売上げについて標準税率が適用されます。

従来は、単一税率であったため、その区別にはあまり気を使わないケースが少なくなかったように思われますが、複数税率下においては、その区別を厳密に行わないと、納税額に誤差が生じることになります。

物流センターの使用料に係る留意点

商品の販売数量や販売高に応じて計算されるものは、売上げまたは仕入れに係る対価の返還等に該当すると考える向きがありますが、例えば物流センターの使用料(センターフィー)の適用税率は、通常、取引される商品の販売数量や販売高に応じて計算されることが多いものの、その性質は「物流センターの使用等に係る対価」であり、役務の提供の対価であると考えられます。したがって、標準税率が適用されることになります(「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」(以下、「軽減税率Q&A」)Q44)。

このように、複数税率下においては、適用税率の識別を厳密に行う必要が生じるため、あらかじめその性質を考慮し、適切な判定を行うとともに、取引当事者間での適用税率の認識のズレが生じないように留意する必要があると考えられます。

委託販売手数料等の取扱い

委託販売においては、原則として受託者が委託商品を譲渡等したことに伴い収受したまたは収受すべき金額が委託者における資産の譲渡等の金額となり、受託者に支払う委託販売手数料が課税仕入れに係る支払対価の額となります。これを「総額処理」といいます。ただし、従来の単一税率の下では、その課税期間中に行った委託販売等のすべてについて、その資産の譲渡等の金額からその受託者に支払う委託販売手数料を控除した残額を委託者における資産の譲渡等の金額とすることが認められていました(消基通 10-1-12(1))。これを「純額処理」といいます。

2019年10 月以降においては、委託販売を通じて受託者が行う飲食料品の譲渡は軽減税率の適用対象となる一方において、受託者が行う委託販売等に係る役務の提供は、その取扱商品が飲食料品であったとしても、標準税率の対象になります。委託販売の取扱商品が飲食料品である場合には、受託者が行う販売と委託販売に係る役務の提供の適用税率が異なるため、純額処理をすることは認められず、総額処理のみが認められることになる点に留意する必要があります(「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」16)。

委託販売手数料等の取扱い 図

なお、委託販売等に係る取扱商品が軽減税率の適用対象でない場合は、2019年10月1日以降も引き続き純額処理によることが認められます。なお、その場合には、軽減税率の適用対象ではない取扱商品に係る委託販売等のすべてについて、純額処理による必要があります。

軽減税率の適用商品と標準税率の適用商品の両方の委託販売を行う委託者は、2019年10月1日を含む課税期間において、その課税期間の初日から2019年9月30日までの期間について純額処理していた場合、2019年10月1日以降について、軽減税率の適用対象となる取引について総額処理に変更することになりますが、軽減税率の適用対象とならない取引も含めてその委託販売のすべてを総額処理に変更することも差し支えないとされています(軽減税率Q&A・Q45)。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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