「収益認識に関する会計基準」に係る消費税の対応

2019年8月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

消費税法上の取扱い

「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」といいます)が令和3年4月1日以後に開始する事業年度の期首から強制適用されますが、各企業において具体的な検討が進められていると思います。会計処理の検討がまず行われ、その次に法人税の検討が行われると思われますが、さらに消費税の取扱いを別途整理しなければならないと考えられます。

消費税は取引に対して課せられるものであり、資産の譲渡等(譲渡、貸付けおよび役務の提供)の対価として収受された金額、または収受されるべき金額を課税標準として計算されます。いわば実際の取引額に基づいて計算されるわけです。

消費税法上、売手における課税売上げに係る消費税額とそれに対応する買手(仕入側)における課税仕入れに係る消費税額を一致させることにより、事業者間取引における各事業者に実質負担を生じさせないで、最終消費者がもっぱら負担するという建付けになっています。

収益認識会計基準は、売手における収益認識の会計処理を定めるものであり、この適用により売手の会計処理が変更されたとしても、それに対応する買手の会計処理を直接拘束するものではありません。

消費税法上、売手における課税売上げに係る消費税額とそれに対応する買手(仕入側)における課税仕入れに係る消費税額を一致させる必要性から、従来どおり実際の取引額に基づいて課税標準を計算する取扱いは何ら変わるものではありません。結果として、収益認識会計基準の適用に伴い会計処理および法人税の処理が変更された場合であっても、消費税の処理は従来どおりとされるものがいくつも生じることになります。例として、ポイント、重要な金融要素、変動対価、返品権付取引、消化仕入れなどが挙げられます。詳しくは、拙著『「収益認識会計基準と税務」完全解説』(税務研究会出版局)の第10章をご参照いただければ幸いです。以下、ポイントを例として、その実務対応について解説します。

ポイントの会計処理における消費税法上の対応

財またはサービスの提供に付随して付与されるポイントで、当該ポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合、当該ポイント部分について履行義務として識別し、収益の計上が繰り延べられます。法人税法上は、法人税基本通達2-1-1の7に定める一定の要件を満たすことにより、継続適用を条件として、会計処理が認容されます。これに対して、消費税の取扱いは従来どおりになります。

以下の設例により、会計、法人税および消費税の関係をご確認していただければと思います。

設例: ポイントの処理

<前提条件>

顧客に対して税込みの販売額に対して5%のポイントを付与し、次の買い物から1ポイント1円で利用できる制度を当期から導入しました。当社は、当該ポイントを顧客に付与する重要な権利であると認識しています。
当期の売上高は108,000,000円(税込み)、当期末までに付与したポイントは5,400,000ポイントですが、翌期以降に利用される見込みのポイントは、未使用率10%と判断され、4,860,000ポイントと見積もられました。当該商品の独立販売価格は100,000,000円、ポイントの独立販売価格は4,860,000円と見積もられました。
また、翌期の売上高は123,120,000円(現金売上118,800,000円(税込み)+ポイント使用分4,320,000円)でした。すなわち、翌期に利用されたポイントは4,320,000ポイントでした。翌期の商品の独立販売価格は110,000,000円、翌期に付与したポイントは5,940,000ポイント(118,800,000×5%)ですがその独立販売価格は5,346,000円と見積もられました。当期と翌期の会計処理を消費税の処理を併せて示してください。なお、消費税率を8%とします。

<解答>
仕訳表1

また、ポイントの使用に係る仕訳は、次のとおりです。

仕訳表2

当期における消費税法上の資産の譲渡等の対価の額は、あくまでも100,000,000円であり、その100,000,000円に対して8%を乗じた8,000,000円が課税売上げに係る消費税等の額になります。

会計上の売上に8%を乗じて消費税額を計算するシステムになっている場合には、システムの改定を行うか、または、下記のように仕訳を2段階で入れる方法が考えられます。仕訳を2段階で入れる方法の場合、従来のシステムを維持し、従来と同様の処理をしておいて、別途売上から契約負債に振り替える修正仕訳を入れることになります。修正仕訳は、取引の都度行わないで、決算の時にまとめて行ってもよいと考えられます。

仕訳表3

上記の翌期の処理のように、ポイントが使用された部分に対応して、契約負債から売上に振替が行われます。消費税法上は、ポイントの使用は値引きと同様に取り扱うと考えられますので、課税売上げの対価の額が4,000,000円であり、売上げに係る対価の返還等の額が同額の4,000,000円になると考えられます。課税売上げに係る消費税額が320,000円、売上げに係る対価の返還等に係る消費税額が320,000円となり、差引消費税額はゼロとなります。ただし、課税売上割合を正しく算定する必要があるため、課税売上げと対価の返還等を両建てで認識することが考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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