公認会計士 太田 達也
「税効果会計に係る会計基準」の一部改正
企業会計基準委員会から、平成30年2月16日付で、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(以下、「税効果会計基準」)が公表されています。
税効果会計基準では、「繰延税金資産および繰延税金負債の表示に係る改正」および「注記事項の追加に係る改正」が行われています。適用時期については、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています。ただし、平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から適用することができるとされています。
繰延税金資産および繰延税金負債の表示に係る改正と前期の財務諸表の組替え
税効果会計基準においては、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示するとされました(税効果会計基準1項)。一律固定区分に表示するとする内容であり、国際財務報告基準および米国会計基準と同じ取扱いとするものです。国際的なルールと同様の取扱いとすることにより、国際間の財務諸表の比較可能性が向上するということがありますが、その論拠としては「繰延税金資産は換金性のある資産ではないことや、決算日後に税金を納付する我が国においては、1年以内に解消される一時差異について、1年以内にキャッシュ・フローは生じないことを勘案すると、すべてを非流動区分に表示することにも一定の論拠があると考えられる。」と説明されています(税効果会計基準15項)。
適用初年度は、表示方法の変更に該当し、表示方法の変更に関する注記が必要になります。
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」14項の定めに従い、適用初年度においては、表示方法の変更として、比較情報の組替え(前期の財務諸表を新たな表示方法により組替え)が必要になる点に留意する必要があります。ただし、会社法の計算書類については、当期の計算書類を1期分のみ開示するルールであり、比較情報の開示をしませんので、前期の組替えは必要ありません。金融商品取引法上の有価証券報告書の財務諸表等について、前期の比較情報を組み替えることになります。
連結財務諸表の比較情報の組替えに係る留意点
同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示し、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示するとされており(税効果会計基準2項)、改正前とこの取扱いは変わりません。同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、同じ固定区分のものについて、双方を相殺して表示することになります。
一律固定区分に表示される改正が行われたことに伴い、連結財務諸表上の表示について留意が必要です。連結財務諸表上、納税主体ごとに流動資産または流動負債に計上されている繰延税金資産および繰延税金負債を固定区分にいったん組み替えて、固定区分の中で繰延税金資産と繰延税金負債の相殺を行います。そのようにして作成された連結各社の個別貸借対照表を合算して、連結貸借対照表を作成することになると考えられます。
以下、具体例により、説明します。連結会社が親会社A社とその連結子会社B社の2社であったとします。
親会社A社
繰延税金資産 | 繰延税金負債 | |
---|---|---|
流動区分 | 95 | 20 |
固定区分 | - | 35 |
連結子会社B社
繰延税金資産 | 繰延税金負債 | |
---|---|---|
流動区分 | 40 | 15 |
固定区分 | - | 55 |
上記のケースにおいて、改正後のルールに基づいて組替えを行いますと、納税主体A社では投資その他の資産に繰延税金資産が40(95-(20+35))、納税主体B社では固定負債に繰延税金負債が30((15+55)-40)計上されて、連結貸借対照表上、繰延税金資産(投資その他の資産)に40、繰延税金負債(固定負債)に30が計上されます。
この点、改正前の連結貸借対照表上は、繰延税金資産(流動資産)が100((95-20)+(40-15))、繰延税金負債(固定負債)が90(35+55)表示されていたため、連結貸借対照表のみを参照してそのまま組み替えると、繰延税金資産(投資その他の資産)が100、繰延税金負債(固定負債)が90表示され、不適切な表示になってしまいます。
各納税主体の個別財務諸表について改正後の表示方法に組み替えたうえで、それらの個別財務諸表を合算して連結するという考え方になると考えられます。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。