2019年3月期決算で用いる税効果会計における法定実効税率

2019年4月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

法定実効税率の計算

税効果会計における法定実効税率の計算は、利益に関連する金額を課税標準とする税金のみを考慮して行います。利益に関連する金額を課税標準とする税金は、①法人税、②法人住民税(法人税割)および③法人事業税(所得割)の3つです。

税効果会計は「成立日基準」を採用していますので、決算日において成立している税法等に基づいて法定実効税率を計算する必要があります。この点、2019年度税制改正において、法人事業税の一部について国税である特別法人事業税として徴収する改正が行われる予定ですので(執筆時点において未成立)、この内容を考慮する必要があります。

各税目の最新の税率の確認

法定実効税率は、一時差異等の解消する時に適用される税率を用いて計算することになります。2019年3月期決算においては、2019年3月31日現在において成立している税法等を考慮して計算することになります。以下、3つの各税目の税率を確認します。

1. 法人税率

2019年4月1日以降に解消する見込みの一時差異等については、法人税率23.2%で計算した法定実効税率を乗じることになります。法人税率の改正は今回予定されていませんので、23.2%で計算する点は確定といえます。

2. 法人住民税率(法人税割)

法人住民税(法人税割)および地方法人税の税率の適用スケジュールは、次のとおりです。

法人住民税および地方法人税の適用税率(標準税率)

  2016年4月1日から2019年9月30日
までの間に開始する事業年度
2019年10月1日以後に開始する事業年度
法人住民税 都道府県民税 3.2% 1.0%
市町村民税 9.7% 6.0%
地方法人税 4.4% 10.3%

一時差異等の解消時期に応じて、上記の税率で計算した法定実効税率を乗じることになります。ただし、合計税率は17.3%(標準税率)で変わらないため、法定実効税率に実質的に影響のない改正であると考えられます。後の計算例でも、その点が確認できます。なお、地方自治体によっては超過税率を採用していますので、自社の代表的な事業所に適用される税率を確認していただき、その税率で計算することになります。

3. 法人事業税率(所得割)

現在は、法人事業税の一部が地方法人特別税として徴収されていますが、2019年10月1日以後に開始する事業年度から、法人事業税の一部を特別法人事業税として徴収することとする改正が予定されています。本執筆段階では未成立ですが、2019年3月31日までに改正税法が国会で成立する可能性が非常に高いと思われますので、その改正動向を確認する必要があります。

外形標準課税適用法人の適用税率(標準税率)

  2016年4月1日から2019年9月30日
までの間に開始する事業年度
2019年10月1日以後に開始する事業年度
(改正予定)
事業税(所得割)
(年800万超の所得に適用される税率)
0.7% 1.0%
地方法人特別税 所得割(標準税率)×414.2%
特別法人事業税 所得割(標準税率)×260%

地方自治体の超過税率の改正動向

法定実効税率は、代表的な事業所に適用される税率に基づいて計算することが考えられ、代表的な事業所が所在する自治体が、法人住民税または法人事業税に超過税率を適用する場合は、その超過税率で計算することになると考えられます。

2019年度税制改正により、特別法人事業税が導入される見込みですが、国会での改正税法の成立状況だけではなく、超過税率を採用している都道府県については、その新しい標準税率に対応する超過税率の対応について確認する必要があります。現在までの対応からみると、超過割合を変更しない可能性が高いように思われますが、実際の確認が必要です。

仮に2019年3月31日までに超過税率に係る条例改正が行われなかった都道府県については、改正前の超過税率と標準税率の差分を改正後の標準税率にオンして、法定実効税率を計算する方法が考えられます(注)。

(注)企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」)48項、49項参照。

東京都かつ外形標準課税適用法人の場合の計算例

以下、東京都かつ外形標準課税適用法人の場合の法定実効税率の計算例を示します。東京都は、法人住民税率と法人事業税率について超過税率を適用しています。

1. 2019年4月1日から2020年3月31日までの間に解消する見込みの一時差異等に乗じる法定実効税率

1. 2019年4月1日から2020年3月31日までの間に解消する見込みの一時差異等に乗じる法定実効税率
2. 2020年4月1日以後に解消する見込みの一時差異等に乗じる法定実効税率

2019年10月1日以後に開始する事業年度から、地方法人特別税が廃止される一方で、法人事業税の一部が特別法人事業税として徴収される改正が見込まれます。また、法人住民税から地方法人税にウェイト・シフトが行われます。

なお、3月決算会社の場合は、2020年4月1日以後に開始する事業年度からということになります。

東京都は地方法人特別税が廃止され、法人事業税に復元された段階の法人事業税率を3.78%と過去に条例改正しています。ただし、2019年度税制改正による特別法人事業税導入以後の標準税率が1.0%となる予定であり、それに対する超過税率について今後の条例改正により対応が行われることになります。改正前の超過税率と標準税率の差分0.18%(3.78%-3.6%)をそのまま改正後の標準税率1.0%にオンする改正が行われる可能性が高いと思われますが、これについては条例改正の内容を実際に確認する必要があります。

また、2019年3月31日までに条例改正が成立しなかった場合は、改正前の超過税率と標準税率の差分0.18%を改正後の標準税率1.0%にオンして計算する方法が考えられます(税効果適用指針48項、49項)。

法人住民税については、地方法人税の税率引上げ後について、東京都は法人住民税の税率を10.4%と条例改正しているため、この税率で計算することになります。

次の計算内容は、2019年3月31日までに超過割合を同じくする条例改正が行われた場合および2019年3月31日までに条例改正が成立しなかった場合に共通して適用されると考えられます。

2. 2020年4月1日以後に解消する見込みの一時差異等に乗じる法定実効税率

上記のように、一時差異等の解消時期にかかわりなく、単一の法定実効税率が適用されます。1.と2.で法定実効税率が異なることとなるのは、超過割合を異にする内容の条例改正が2019年3月31日までに成立した場合のみですが、その可能性は非常に低いと思われます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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