賃上げ・投資促進税制における設備投資要件の判定について

2019年3月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

賃上げ・投資促進税制の創設

旧所得拡大促進税制が平成30年3月31日の適用期限をもって終了し、それに代わるべき税制として「賃上げ等の促進に係る税制」(措法42条の12の5)が創設されました。平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度について適用されます。

「中小企業者等以外の法人および中小企業者等に共通した取扱い」と「中小企業者等にのみ適用される取扱い」の二つから成っています。「中小企業者等以外の法人および中小企業者等に共通した取扱い」については、賃上げに係る要件だけではなく、設備投資に係る要件が付加されている点がポイントです。一方の「中小企業者等にのみ適用される取扱い」は、賃上げに係る要件のみであり、設備投資に係る要件は課されていません。

設備投資に係る要件

この特例税制の適用にあたっては、設備投資に係る要件が分かりにくく、この内容を十分に理解・整理することが最大のポイントかと思われます。設備投資に係る要件は、次のとおりです。

<設備投資に係る要件>

 国内設備投資額 ≧ 当期償却費総額 × 90%

以下、国内設備投資額および当期償却費総額のそれぞれについて、そのポイントと留意点を詳しく解説します。

国内設備投資額の内容

「国内設備投資額」とは、法人が適用年度において取得等(取得または製作もしくは建設をいい、合併、分割、贈与、交換、現物出資または現物分配による取得その他政令で定める取得を除きます※1)をした国内資産(国内にある当該法人の事業の用に供する機械及び装置その他の資産で政令で定めるものをいいます)で当該適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額をいいます(措法42条の12の5第3項8号)。

機械及び装置その他の資産で政令で定めるものとは、建物、建物附属設備、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具、器具備品、無形固定資産、生物が該当します。時の経過により価値の減少しないものは除かれるので、非減価償却資産となる美術品等も対象外であると考えられます。国内資産に該当するかどうかは、その資産が法人の事業の用に供される場所が国内であるかどうかにより判定しますが、無形固定資産が事業の用に供される場所については、措通42の12の5-6を参照してください。

適用年度終了の日までに取得等したものは対象になり、事業の用に供されているかどうかは問いません。すなわち、法人の有する資産が適用年度終了の日において当該法人の事業の用に供されていない場合であっても、その後国内において当該法人の事業の用に供されることが見込まれるときには、当該資産は国内資産に該当するものとされます(措通42の12の5-7)。

また、新品のものや国内で生産されたものに限定されていませんが、建設仮勘定は、建物等の資産として取得等されるまで、該当しません。国内の事業の用に供されることが必要であるため、適用年度終了の日において国内の事業の用に供する見込みがまったくないものは該当しないことになります。また、生産等設備に限定されないため、本店の建物、事務用機器、福利厚生施設等も該当します。

なお、税法上の売買があったものとされるリース取引に係る契約により取得した国内資産の取得価額を含みます。

※1 合併等による取得が除かれているのは、国内設備の更新には結びつかない取得と考えられるためです。

当期償却費総額の内容

「当期償却費総額」とは、法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額の合計額をいいますが、特別償却準備金として積み立てた金額を含み、前期から繰り越された償却超過額の認容額を除きます(措法42条の12の5第3項9号)※2

特別償却準備金の積立額については、剰余金の処分方式により積み立てた金額も含まれる点に留意する必要があります。税効果会計の適用により、繰延税金負債を計上している場合でも、税法上の積立額は特別償却準備金の会計上の積立額と繰延税金負債の計上額を合算した金額であると考えられます。

償却費として損金経理した金額ですので、税務上の損金算入額に限定されていません。前期から繰り越された償却超過額の認容額を除くのも、償却超過額はその発生事業年度に損金経理されていますので、発生事業年度の当期償却費総額に算入されるため、その認容額を除外しないと二重に算入されることになるためです。

国内設備投資額 当期償却費総額
適用年度において取得等をした国内資産で当該適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額
  • 新品、中古を問わない
  • 輸入製品でも、国内の事業の用に供されるものは対象
  • 期末日現在、建設仮勘定になっているものは対象外
  • 生産等設備に限定しない
  • ファイナンス・リースは、原則として対象(オペレーティング・リースは対象外)
その有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額の合計額
  • 特別償却準備金として積み立てた金額を含む
  • 前期から繰り越された償却超過額の認容額を除く
  • その有する減価償却資産につき償却費として損金経理した金額であるため、国内資産か海外資産かは問わない

※2 適用年度中に取得等したものに限られることも、適用年度中に譲渡等したものを除くこともありません。

法人税基本通達7-5-1との関係

法人税基本通達7-5-1では、償却費以外の科目で損金経理した場合であっても、法人税法上、償却費として損金経理した金額として取り扱うものをいくつか挙げています。主なものを挙げると、次のとおりです。

  • 修繕費として経理した金額のうち、資本的支出に該当するものとして損金不算入となったもの
  • 減価償却資産に係る評価損または除却損で、損金不算入とされたもの(減損損失を含みます)
  • 少額な減価償却資産(おおむね60万円以下)または耐用年数が3年以下の減価償却資産の取得価額を消耗品費等として損金経理した金額
  • 減価償却資産の取得価額に算入すべき付随費用の額のうち原価外処理した金額
  • ソフトウエアの取得価額に算入すべき金額を研究開発費として損金経理をした金額

原則として、当期償却費総額の集計対象となる「償却費として損金経理をした金額」には、法人税基本通達7-5-1または7-5-2の取扱いにより償却費として損金経理をした金額に該当するものとされる金額が含まれます(措通42の12の5-11)。ただし、法人が継続して、これらの金額につきこの「償却費として損金経理をした金額」に含めないこととして計算している場合には、国内設備投資額の計算からもこれらの金額に相当する金額を含めないこととしているときに限り、この計算が認められます(措通42の12の5-11ただし書)。法人が含めるかどうかを選択できるという意味です。この通達の本文を適用するのか、ただし書を適用するのかを慎重に判断する必要があると考えられます。

例えば、少額減価償却資産を消耗品費等の科目で損金経理している場合、本来は、国内設備投資額および当期償却費総額の双方にその金額が算入されることになりますが、ただし書の取扱いを継続適用することにより、国内設備投資額および当期償却費総額の双方から、その金額を除外することが認められます。また、売買があったものとされるリース取引について賃貸借処理している場合に、賃借料として損金経理した金額は償却費として損金経理した金額として取り扱われますが、これについてもただし書を継続適用する場合は、除外することが認められます。さらに、減損会計基準の適用により計上される減損損失についても、継続適用を条件として、当期償却費総額に含めない取扱いが認められます。

実務負担の観点から、また、減損損失を当期償却費総額から除外できる点からも、ただし書を選択する会社が多くなるものと予想されます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

この記事に関連するテーマ別一覧

税金・税効果

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ