返品調整引当金・長期割賦販売等に係る延払基準の廃止と経過措置 ~会計処理との関係~

2018年3月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

返品調整引当金の廃止と経過措置

「収益認識に関する会計基準(案)」では、返品調整引当金の廃止が提案されています。新たな会計処理の内容については、前月の本コラムで取り上げさせていただきました。

平成30年度税制改正により、税務上も、返品調整引当金の廃止が提案されています。併せて経過措置も提案されています。すなわち、平成30年4月1日において返品調整引当金制度の対象事業を営む法人について、平成33年3月31日までに開始する各事業年度については現行どおりの損金算入限度額による引当てを認めるものとされ、平成33年4月1日から平成42年3月31日までの間に開始する各事業年度については現行法による損金算入限度額に対して1年ごとに10分の1ずつ縮小した額の引当てを認める等の経過措置が講じられる見込みです(改正法案附則25条)。

会計処理との関係

「収益認識に関する会計基準」は平成33年4月1日以後に開始する事業年度の期首から強制適用される予定です。仮に強制適用時期から適用する場合、平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度については、現行どおりの引当てが認められます。しかし、平成33年4月1日以後に最初に開始する事業年度から、会計上、返品調整引当金を計上することができなくなります。返品調整引当金の繰入による損金算入は、損金経理が要件とされていますので、経過措置による恩恵は現状では期待できないことになります。この点については、「収益認識に関する会計基準」の確定版を再度ご確認していただければと思います。

(注) この点については、政令により、柔軟な取扱いが置かれる見込みとなりました。損金経理をしていない場合でも、経過措置の適用が可能となる見込みです。今後公布される政令をご確認ください(3月9日時点で加筆)。

長期割賦販売等に係る延払基準の廃止と経過措置

平成30年度税制改正により、長期割賦販売等に係る延払基準の廃止が提案されています。併せて経過措置が講じられる見込みです。すなわち、平成30年4月1日前に長期割賦販売等に該当する資産の販売等を行った法人について、平成35年3月31日までに開始する各事業年度について現行の延払基準により収益の額および費用の額を計算することができることとするとともに、平成30年4月1日以後に終了する事業年度において延払基準の適用をやめた場合の繰延割賦利益額を10年均等で収益計上する等の経過措置を講ずるとされる見込みです(改正法案附則28条)。

要するに、平成35年3月31日までに開始する各事業年度について現行の延払基準により収益の額および費用の額を計算することができるとされる一方において、平成30年4月1日以後に終了する事業年度において延払基準の適用をやめた場合の繰延割賦利益額を10年均等で収益計上(未計上収益額は10年均等で益金の額に、未計上費用額は10年均等で損金の額に算入)するとされています。

「平成30年4月1日以後に終了する事業年度において」とされており、3月決算法人を前提としますと、平成31年3月期に適用をやめることもできるし、平成32年3月期、平成33年3月期、平成34年3月期または平成35年3月期のいずれかの事業年度に適用をやめることもできます。いつ適用をやめるかは、法人の任意となりますが、適用をやめた事業年度の終了時点で残っている繰延割賦利益額を、翌事業年度以後の各事業年度において10年均等で収益計上できることになります。

会計処理との関係

「収益認識に関する会計基準」を強制適用時期から適用する企業の場合、平成33年4月1日以後に開始する事業年度の期首から延払基準による経理を行うことができなくなります。原則として、適用初年度において変更後の会計処理を過去の財務諸表に遡及適用することになります。遡及適用した場合は、税効果を調整のうえ、適用初年度の期首の利益剰余金にその時点の繰延割賦利益額が加算されることになると考えられます。

税務上、適用初年度の前事業年度末の繰延割賦利益額については、10年間で均等に収益計上することになりますので、別表4上の加・減算により対応することが考えられます。その点、適用初年度の法人税申告書別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」にマイナスの調整が入り、その後の各事業年度の法人税申告書別表4に加・減算の調整が入ることで、別表5(1)の調整が縮小していくことになります。したがって、税効果会計における一時差異に該当すると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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