収益認識基準(案)における工事契約に係る会計処理

2017年10月2日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

一定の期間にわたり充足される履行義務と一時点で充足される履行義務

「収益認識に関する会計基準(案)」(以下、「基準案」)では、企業は、約束した財又はサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足したときに(又は充足するにつれて)、収益認識をしなければならないとされています。

一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積もり、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します。進捗度を合理的に見積もることができる場合にのみ、一定の期間にわたり充足される履行義務について進捗度に基づき収益を認識します。一方、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、当該履行義務は一時点で充足され収益が一時点で認識されます。

工事契約に当てはめると、一定の期間にわたり充足される履行義務と判断されるものについては工事進行基準を適用し、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではないものについては工事完成基準が適用されます。

一定の期間にわたり充足される履行義務と判断される要件

次の①から③のいずれかに該当する場合には、資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識することが要求されます(基準案35項)。

① 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること※1(主にサービスの提供。例えば清掃サービス、輸送サービス、経理処理等の請負サービス等)

② 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること(例えば顧客が所有する土地で行われる建物建築工事契約)

③ 次の要件のいずれも満たすこと(例えばコンサルティングサービス、ソフトウェアの制作、建物建築工事)

(ⅰ) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じ、あるいはその価値が増加すること

(ⅱ) 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

※1 仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に、企業が現在までに完了した作業を大幅にやり直す必要がないときは、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するものとされます(収益認識に関する会計基準の適用指針(案)9項)。

工事契約に係る判断のポイント

先の①の要件については、企業の提供する建設資材や工事建設サービスの提供が未完成の建物の一部(仕掛品)として形成されていきますが、未完成の建物を顧客が消費することはできません。この要件を満たすことはないと考えられます。

②の要件については、工事が進行するにつれて未完成の建物(仕掛品)が増大していきます。顧客が所有する土地で行われる建物建築工事契約の場合、一般的に、顧客は企業の履行から生じる仕掛品を支配するため、要件に該当すると考えられます。

③の要件については、企業が現在までに履行を完了した部分の補償を受ける権利があるかどうかがポイントになります。企業の土地の上に建設した顧客仕様の建物の仕掛品を、企業が転用して便益を受けることは困難であり、履行を完了した部分の補償を受ける権利があると考えられます。ただし、企業に当該権利があるかどうかについては、その契約に適用される法律関係を考慮する必要があります。その点、契約書上、顧客からの契約解除の場合の支払条件(補償の条項)を明確にしておくべきであると考えられます。

原価回収基準が適用される場合

一定の期間にわたり充足される履行義務であると判断されたものとします。ただし、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができなかったとします。履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができる時まで、回収することが見込まれる費用の額で収益を認識する必要があります(基準案42項)。現行の日本基準では認められていない、いわゆる「原価回収基準」が定められています。全額回収できると見込まれる場合は、次のように売上と原価が同額計上されます。

仕訳表1

(全額回収できると見込まれる場合)

仕訳表2

ただし、一定の期間にわたり充足される履行義務について、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、当該契約の初期段階に収益を認識せず、当該進捗度を合理的に見積もることができる時から収益を認識することができるとする代替的な取扱いが定められています(適用指針案98項)。

実行予算の作成には一定の時間がかかりますので、契約の初期段階に作成が間に合わなくても、この代替的な取扱いを適用することにより、原価回収基準を適用しないことが認められます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

この記事に関連するテーマ別一覧

収益認識 その他

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ