公認会計士 太田 達也
適格スピンオフ税制の創設
平成29年度税制改正により、企業組織再編税制の拡充が行われる予定です。①特定の事業を新設分割型分割により切り出す方法と、②特定の事業を新設分社型分割により切り出し、対価として交付を受けた新設会社株式(100%子会社株式)を現物配当(税法上の現物分配)により手離す方法とがあります。今回の税制改正は、このいずれにも一定の対応がされることになります。
企業グループ内にとどめておきたくない事業やシナジーの見込めない事業をグループから切り離すことが行いやすくなるため、事業の選択と集中を進めるうえでの有効な活用が期待されます。
新設分割型分割により切り出す方法
特定の事業を新設分割型分割により切り出して、新設会社が発行する株式をA社の各株主に交付します。もっとも会社法上は、新設会社株式がいったんA社に交付されて、それが同時にA社の各株主に剰余金の配当(現物配当)として交付されるという整理になります。
ここではA社には支配株主が存在しないという前提です。したがって、A社の株主と新設会社との間にも支配関係は生じません。
この場合、A社と新設会社との間には分割当初から支配関係がないため、現行法では非適格分割型分割に該当することから、A社における資産の移転に係る譲渡益課税の問題やA社の株主に対するみなし配当課税の問題などがネックとなりました。
平成29年度税制改正後は、次の要件を満たす場合には、適格分割に該当すると改められる予定です。
① 分割法人が分割前に他の者による支配関係がないものであり、分割承継法人が分割後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること
② 分割法人の分割事業の主要な資産および負債が分割承継法人に移転していること
③ 分割法人の分割事業の従業者のおおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること
④ 分割法人の分割事業が分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること
⑤ 分割法人の役員または重要な使用人が分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること
⑥ 分割の対価として、新設法人の株式のみが交付されること
⑦ 新設法人の株式が分割法人の各株主に対して持株数に応じて交付されること(按分型分割であること)
なお、会計処理は、会社分割と現物配当の2つの取引ととらえることになり、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」の263項に従い、A社は移転事業に係る株主資本相当額に基づいて子会社株式の取得原価をとらえ(したがって、移転損益は認識しない)、現物配当についてはその子会社株式の取得原価により株主資本を変動させる処理になると考えられます。
変動させる株主資本の内訳については、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額になると考えられます。
100%子会社株式のスピンオフ
平成29年度税制改正により、100%子会社株式の現物分配で、次の①から⑤の要件を満たすものは、適格現物分配とされる予定です。
① 現物分配法人が現物分配前に他の者による支配関係がないものであり、子法人が現物分配後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること。
② 子法人の従業者のおおむね80%以上がその業務に引き続き従事することが見込まれていること。
③ 子法人の主要な事業が引き続き行われることが見込まれていること。
④ 子法人の特定役員のすべてがその現物分配に伴って退任をするものでないこと。
⑤ 現物分配により現物分配法人の株主の持株数に応じて子法人株式のみが交付されるものであること。
適格現物分配に該当する場合は、現物分配法人は帳簿価額により子会社株式を譲渡したものとして処理しますので、譲渡損益は計上されません。また、子会社株式を受け取る株主側においても、課税関係は生じません。
なお、会計処理ですが、保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合は、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額すると定められています(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」10項ただし書き(2))。損益は認識しないことになります。
また、減額するその他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)については、取締役会等の会社の意思決定機関で定められた結果に従うこととするとされています(同適用指針10項なお書き)。
仮にその他利益剰余金を減額する旨を定めて剰余金の配当をした場合は、次のように子会社株式の帳簿価額についてその他利益剰余金を減額する処理を行います。
税務上は、この場合利益積立金額の減少となりますので、会計と税務で一致することになります。
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