合併における抱合せ株式に係る会計と税務

2017年1月5日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

抱合せ株式の法務

合併とは、2つ以上の会社が合併契約を締結して行うものであり、一方の当事会社が解散し、解散会社のあらゆる権利・義務が合併法人(吸収合併の場合)または新設法人(新設合併の場合)に包括的に承継される効果を持つ行為です。法律手続上は、合併契約に関する株主総会の承認決議(簡易合併の場合は取締役会の承認決議)と債権者保護手続(公告・催告)により行う必要があります。

合併法人が合併前に有する被合併法人株式を「抱合せ株式」といいますが、この抱合せ株式に対して合併対価である合併法人株式を割り当てることはできません。会社法749条1項3号および3項が、合併法人の有する被合併法人の株式に対して対価の割当てをすることができないと規定しており、そもそも対価を交付することが許されません。対価の交付を禁じているのは、大量の自己株式の原始取得となるからであると考えられます※1。そのため、抱合せ株式は、合併に伴い、消滅することになります。

※1 江頭憲治郎「株式会社法(第6版)」(有斐閣、2015年)、P263

抱合せ株式の会計処理

抱合せ株式の会計処理については、抱合せ株式の消滅を認識します。親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分し、親会社持分相当額と親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、「抱合せ株式消滅益」または「抱合せ株式消滅損」として特別損益に計上します(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」206項(2))。

抱合せ株式の税務処理

適格合併に該当する場合は、合併法人における資本金等の額を、被合併法人の最後事業年度(合併の日の前日の属する事業年度)終了の時の資本金等の額と同額増加させます(法令8条1項5号)。一方、合併法人において、合併直前の抱合せ株式の帳簿価額相当額について、資本金等の額を減算します(同条1項5号イ)。

合併法人が抱合せ株式を有するときは、トータルでみると、抱合せ株式の帳簿価額相当額と被合併法人の最後事業年度終了の時の資本金等の額の大小関係によって、合併法人の資本金等の額が増加する場合と減少する場合の2通りに分かれます。

抱合せ株式の税務処理 図表1

設例(吸収合併に伴う抱合せ株式の処理)

前提条件

当社は、数年前にA社株式を取得しました。現在A社株式の100%を所有しています。帳簿価額は株式取得時の時価に見合った100,000千円です。

当社は、このたび100%子会社であるA社を吸収合併します。税務上、適格合併に該当するものとします。そのときの会計処理と税務処理を示してください。

抱合せ株式の税務処理 図表2

解答

1. 会計処理

共通支配下の取引に該当しますので、子会社の資産および負債を帳簿価額により受け入れます(なお、連結財務諸表上の帳簿価額と一致しているものとします)。また、子会社の株主資本のうちの親会社持分相当額と親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額30,000千円を、抱合せ株式消滅損として特別損失に計上します。

抱合せ株式の税務処理 図表3
2. 税務処理

適格合併に該当するため、子会社の資産および負債を帳簿価額により引き継ぎます。また、子会社の最後事業年度終了の時の資本金等の額10,000千円について資本金等の額を増加する一方、抱合せ株式の帳簿価額について資本金等の額を減少します。なお、子会社の利益積立金額60,000千円をそのまま引き継ぎます。

抱合せ株式の税務処理 図表4
3. 申告調整

会計上の抱合せ株式消滅損は、税務上は損金不算入となるため、別表四で加算します。また、別表五(一)の利益積立金額ですが、会計上抱合せ株式消滅損を計上していますので、繰越損益金の欄が減少しています。トータルでみると、合併による利益積立金額の引継額である60,000千円増加することになります。一方、資本金等の額はトータルで90,000千円減少することになります。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書 Ⅰ

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書 Ⅱ

なお、平成27年度地方税法の改正前は、資本金等の額が90,000千円減少することにより、合併法人の均等割が下がるケースがあり得ましたが、改正後は、法人住民税均等割の税率区分の基準となる資本金等の額が資本金と資本準備金の合計額を下回るときは、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は資本金と資本準備金の合計額とする旨の規定が新設されたため(地法52条4項)、均等割は下がりません。外形標準課税の資本割についても、同様です(地法72条の21第2項)。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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