欠損てん補と利益剰余金のマイナスとの関係

2016年10月18日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

その他資本剰余金による欠損てん補

欠損てん補を行うために資本金を減少し、資本金の減少によって生じたその他資本剰余金により利益剰余金のマイナスをてん補することがあります。欠損てん補といい、法人の規模を問わずよくみられる取引です。このとき、会計上は、次の仕訳を切ります。

(会計上の仕訳)

(会計上の仕訳)

この欠損てん補は、「負の残高になった利益剰余金を、将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないと考えられる。」(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」61項)という理由により、企業会計原則が禁じている資本剰余金と利益剰余金の混同には当たらないと解されています。

会社法上の手続

資本金の減少により、その他資本剰余金に計上する手続は、会社法447条(資本金の額の減少)の規定が根拠になります。一方、欠損てん補は剰余金間の振替を行う場合の手続である会社法452条に規定する剰余金の処分の手続によります。

ただし、欠損てん補のために資本金の減少を行う場合は、資本金の減少と剰余金の処分(欠損てん補)の効力発生日を同じ日とし、金額も同じ額とするケースが多く、その場合はその他資本剰余金をスルーしている実態になります。次の株主総会議事録(抜粋)は、効力発生日および金額が同じであった場合の例です。

株主総会議事録(抜粋)

第1号議案 資本金の額の減少の件
議長は、本日の議案たる資本金の額の減少の件につき、その提案理由を詳細に説明し、その審議を求めたところ、満場一致をもって、次のとおり承認可決された。

  1. 減少する資本金の額 金40,000,000円
  2. 効力発生日 平成○○年○月○日

第2号議案 剰余金の処分の件
第1号議案における資本金の額の減少により生じる剰余金について、平成○○年○月○○日現在の欠損のてん補に充てるため、下記のとおり処分したい旨を説明し、その理由を詳細に説明し、その審議を求めたところ、満場一致をもって、次のとおり承認可決された。

  1. 増加する剰余金の項目 その他利益剰余金
  2. 減少する剰余金の項目 その他資本剰余金
  3. 処分する各剰余金の項目に係る額 金40,000,000円
  4. 効力発生日

処分の効力は、第1号議案における資本金の額の減少の効力発生日に生じるものとする。

税務上の取扱い

資本金を減少し、それによって生じたその他資本剰余金を欠損てん補に充てた場合であっても、株主に対する払戻しは何もなく、貸借対照表の純資産の株主資本の中で振替が行われているに過ぎないため、法人税法上は何もなかったものとして取り扱われます。すなわち、法人税法上の資本金等の額および利益積立金額には変動はなく、所得にも影響はありません。法人税申告書の別表5(1)上で申告調整を行うことになります。調整の方法については、拙著「純資産の部」完全解説(第4版)の「第2編 会計・税務編」の「第5章 剰余金の配当を伴わない減資(無償減資)の会計・税務」をご参照いただければ幸いです。

一方、法人住民税均等割の取扱いには留意が必要です。平成27年度税制改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額の算定上、資本金または資本準備金の減少によって発生したその他資本剰余金による欠損てん補額を減算すると規定されましたので(地方税法23条1項4号の5)、均等割が下がる可能性が生じます。これは、外形標準課税の資本割の課税標準となる額について平成22年度税制改正のときに新設された規定と同じ内容の規定が法人住民税均等割に新設されたものです。

いつの時点の利益剰余金のマイナスの額が基準となるか

利益剰余金のマイナスの範囲でその他資本剰余金から振替充当する場合は、資本剰余金と利益剰余金の混同に当たりませんが、この場合の利益剰余金のマイナスはいつの時点の額を基準とするのでしょうか。これは、確定した決算におけるマイナスの額をいうものと考えられます。したがって、臨時株主総会で欠損てん補を決議する場合は、直近の定時株主総会で承認された貸借対照表上の利益剰余金のマイナスが上限になると考えられます。

また、定時株主総会で欠損てん補を決議する場合は、同じ定時株主総会で承認された貸借対照表上の利益剰余金のマイナスが上限になるものと考えられます。この場合、計算書類の承認に係る議案を資本金の額の減少に係る議案および剰余金の処分に係る議案よりも先順位の議案として、その計算書類の承認によって確定した貸借対照表上の利益剰余金のマイナスを上限に剰余金の処分を決議することになると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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