一括償却資産を償却中に除却・売却した場合の会計と税務

2016年9月27日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

一括償却資産の税務処理と企業会計上の対応

取得価額20万円未満の減価償却資産については、税務上、一括償却資産として取り扱うことにより、事業の用に供した事業年度から3事業年度にわたって3分の1ずつ損金算入することができます。損金経理が要件とされていますので、会計上も費用処理することにより損金算入が認められます。

税務上は「できる規定」ですので、この取扱いを適用するかどうかは個々に選択できます。しかし、公認会計士または監査法人による監査を受けている企業、または、直接監査を受けていなくても連結子会社等として連結グループに属している企業の場合、企業会計上はこれらの処理の選択をすることにより損益が変わってくるため、基本的に処理方針を統一しておく必要があります。企業によっては、税法に合わせて、取得価額10万円未満について費用計上、10万円以上20万円未満について一括償却資産として3事業年度にわたって費用化、20万円以上について固定資産計上としている企業も多いですが、なかには取得価額20万円未満について費用計上するという方針を定めている企業もみられます(その場合は10万円以上20万円未満のものについて申告調整が必要になります)。

一括償却資産を償却中に除却・売却したときの取扱い

一括償却資産を償却中に除却または売却した場合、税務上は、あくまでも取得価額の3分の1ずつ損金算入するしかなく、未償却帳簿価額を全額損金算入することはできません(法基通7-1-13)。一括償却資産については、その全部または一部が消滅しても、その消滅による損失は認識することができないことになります。税務の規定において、償却限度額ではなく損金算入限度額という定め方になっていますから、償却中に除却または売却しても、損金算入限度額はあくまでも取得価額の3分の1相当額ということになります。

しかし、企業会計上は、除却または売却した以上、帳簿価額を残すべきではなく、未償却帳簿価額を全額費用に計上することになると考えられます。したがって、法人税申告書別表4において、除却(または売却)した事業年度は加算(留保)、翌事業年度は減算(留保)の申告調整を行うことになります。

申告調整の方法

申告調整の方法を具体例で説明します。

前提条件

取得価額18万円の減価償却資産(器具備品)を50個(総額900万円)購入し、事業の用に供しました。事業の用に供した事業年度において一括償却資産として取り扱い、初年度に会計上300万円費用計上し、税務上もそのまま認容されました。ところが、翌事業年度に事業計画の変更に伴い急きょ除却することになりました。除却した事業年度とその翌事業年度の申告調整その他の処理を示してください。

1. 除却した事業年度の処理

会計上は、この時点における未償却帳簿価額600万円を全額除却損として計上しました。一方、税務上はこのうちの300万円だけが損金算入されます。そこで、次の申告調整を行います。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

2. 除却した事業年度の翌事業年度の処理

会計上は、除却した事業年度に帳簿価額を全額費用として処理していますので、この事業年度において処理は何も発生しません。一方、税務上は、残った300万円について損金算入を行いますが、法人税申告書別表4の減算(留保)により損金算入します。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

税効果会計の適用対象

除却(または売却)した事業年度に法人税申告書別表4において加算(留保)の調整を入れますが、これは税効果会計における将来減算一時差異の発生に該当し、翌事業年度に減算(留保)の調整を入れますが、これはその将来減算一時差異の解消に該当します。

除却(または売却)した事業年度においては、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるときは繰延税金資産を計上し、翌事業年度に取り崩すことになります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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