公認会計士 太田 達也
税率変更による繰延税金資産・繰延税金負債の修正
法人税等について税率の変更があった場合には、過年度に計上された繰延税金資産および繰延税金負債を新たな税率に基づき再計算するものとすると定められています(税効果会計に係る会計基準・注解(6))。
また、法人税等について税率の変更があったこと等により繰延税金資産および繰延税金負債の金額を修正した場合には、修正差額を法人税等調整額に加減して処理します。ただし、評価換算差額等に係る繰延税金資産および繰延税金負債の金額を修正したときは、修正差額をその評価差額に加減して処理することになります(税効果会計に係る会計基準・注解(7))。
決算日までに税制改正が公布された場合の注記
平成27年度税制改正法案が、平成27年3月31日までに公布された場合は、平成27年3月期決算において繰延税金資産および繰延税金負債の修正が必要になります。税率の変更により繰延税金資産および繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨および修正額を注記することとされている点に留意が必要です(税効果会計に係る会計基準第四.3、財務諸表等規則8条の12第1項3号、連結財務諸表規則15条の5第1項3号)。
平成27年3月31日までに税制改正法案が公布された場合、平成27年3月期決算会社に今回の改正による変更税率が適用されるのは、公布日を含む事業年度の翌期以降になります。このため、繰延税金資産・繰延税金負債の金額の修正額として注記する額は、改正税法の公布日を含む事業年度の期末現在の一時差異および税務上の繰越欠損金の残高に新税率と旧税率との差額を乗じて算出することになると考えられます(会計制度委員会報告「個別財務諸表における税効果会計の実務指針」設例7の3および「税効果会計に関するQ&A」Q14参照)。
なお、会社法の計算書類については、会社計算規則に直接の規定はありませんが、株主等の利害関係者が会社の財産または損益の状態を正確に判断するために必要であると判断されるときは、その他の注記(会社計算規則116条)を根拠として、注記をすることになると考えられます。
期間定額基準から給付算定式基準に会計方針の変更をした場合の期首残高の修正との関係
適用初年度の期首から退職給付債務の期間帰属方法について期間定額基準から給付算定式基準に会計方針の変更をする場合は、その影響額が期首の利益剰余金の加減により処理されます(「退職給付に関する会計基準」37項)。その場合、適用初年度の期首の退職給付引当金の増減に伴う繰延税金資産の修正の相手勘定は利益剰余金で処理することになります。
一方、平成27年度税制改正が成立のうえ公布された場合、法定実効税率が下がることになり、繰延税金資産が変動します。この場合、先の利益剰余金を相手勘定として修正された繰延税金資産の税率変更による変動の相手勘定は、法人税等調整額になるのか、利益準備金になるのかという論点があります。
これについては、税率の変更による修正であり、期首の変動とは区別すべきと考えられるため、法人税等調整額が相手勘定となると考えられます。
「退職給付に係る調整累計額」に係る繰延税金資産の修正の処理
その他の包括利益累計額(連結)または評価・換算差額等(個別)に計上されている評価差額(それぞれ土地再評価差額金を含む)に係る繰延税金資産および繰延税金負債の金額が税率変更により修正された場合には、当該修正差額を連結財務諸表上はその他の包括利益として処理し、個別財務諸表上は評価・換算差額等に加減することになる点に留意する必要があります。
「退職給付に係る調整累計額」(その他の包括利益累計額)に係る繰延税金資産の修正差額については、連結財務諸表上はその他の包括利益として処理することになると考えられます。
連結手続上生じた一時差異に対する繰延税金資産の修正の処理
未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用を連結財務諸表上即時認識するときに、次のような連結修正仕訳により行うことになります。未認識項目の即時認識に係る改正は、連結財務諸表にのみ適用されるので、連結修正仕訳で対応することになります。
個別財務諸表上の退職給付引当金が60、連結財務諸表上の退職給付に係る負債が100であったものとし、また、繰延税金資産の回収可能性があり、法定実効税率を35%と仮定します。
(連結修正仕訳)
(その他の包括利益)
上記のケースにおいて、連結修正手続により「退職給付に係る調整累計額」に係る繰延税金資産が14追加計上されていますが、その追加計上額も含めた期末の「退職給付に係る調整累計額」に係る繰延税金資産の修正については、当該修正差額を連結財務諸表上はその他の包括利益として処理することになると考えられます。
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