即時償却の会計処理 ~「生産性向上設備投資促進税制」の創設で増加が予想される即時償却の処理~

2014年6月2日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

生産性向上設備投資促進税制の創設

平成26年度税制改正により、生産性向上設備投資促進税制(措法42条の12の5)が創設されました。生産性向上設備投資促進税制とは、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物、建物附属設備、構築物およびソフトウエアで、産業競争力強化法に規定する生産性向上設備に該当するもの(①先端設備および②生産ラインやオペレーションの改善に資する設備)のうち、一定の規模以上のものの取得(または製作もしくは建設)をして、その生産性向上設備を国内にあるその法人の事業の用に供した場合(貸付けの用に供した場合を除く)に、特別償却または税額控除の選択適用が認められる特例税制です(措法42条の12の5第1項)。現在最も注目されている特例税制といえます。

取得・事業供用の時期により、次のように取扱いが定められています。

取得等・事業供用の時期 平成26年1月20日から平成28年3月31日 平成28年4月1日から平成29年3月31日
特別償却の場合 即時償却 取得価額の50%の特別償却
(建物・構築物の場合は25%)
税額控除の場合 取得価額の5%の税額控除
(建物・構築物の場合は3%)
取得価額の4%の税額控除
(建物・構築物の場合は2%)

(注)税額控除額は、当期の法人税額の20%が上限とされています。

なお、特別償却または税額控除の選択適用については、法人内でいずれかに統一する必要はなく、対象設備ごとに選択できると考えられます。

即時償却の意義

平成26年1月20日から平成28年3月31日までの間に取得等および事業供用した生産性向上設備に係る特別償却限度額は、その生産性向上設備の取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額です(措法42条の12の5第2項)。ということは、普通償却限度額と特別償却限度額を合わせると、取得価額の全額について損金算入できるということになります。これを即時償却と言います。

即時償却の会計処理

生産性向上設備投資促進税制の適用により今回初めて即時償却を適用する企業も少なくないと思います。税額控除を選択した場合には、法人税、住民税及び事業税から税額控除額を控除するだけであり、会計上の論点は生じませんが、即時償却を選択したときの会計処理が論点となります。

即時償却は、特別償却の特例として位置づけられていますので、償却費として損金経理する方法(直接減額方式)または特別償却準備金を積み立てる方法(剰余金の処分方式)のいずれかの処理によって損金算入が認められることになります。

企業会計上は、直接減額方式により取得価額の全額を費用計上すると適正な期間損益計算を歪めることになるため、剰余金の処分方式によることが適切です。監査法人の監査を受けている法人、連結グループに属している連結子会社等は、基本的に剰余金の処分方式によることになります。

剰余金の処分方式に係る会計処理

剰余金の処分方式とは、即時償却を適用する事業年度において、決算手続として(利益剰余金の減少により)特別償却準備金を積み立て、その事業年度の申告書別表4において減算調整を入れることにより損金算入を行う処理です。
以下、剰余金の処分方式によった場合の会計処理の具体例を示します。

前提条件
取得した設備: 太陽光発電設備
取得価額: 80,000,000円
(取得・事業供用は事業年度(X1期)の期首月であったものとします。)
減価償却方法: 定率法(200%定率法)
用途: 自動車部品製造設備の電気供給(自家発電設備として使用)
なお、税効果会計を適用しているものとし、法定実効税率を35%とします。
解答

耐用年数ですが、耐用年数省令別表第二「23輸送用機械器具製造業用設備」の9年が適用されます。200%定率法の償却率は、0.222です。
(仮に売電事業として事業の用に供する場合は、耐用年数省令別表第二「31 電気業用設備」の「その他の設備」の「主として金属製のもの」の17年が適用されます。)

1. 即時償却を適用した事業年度(X1期)の会計処理

(1) 減価償却費の計上

普通償却限度額に相当する17,760,000円(80,000,000円×0.222)については、減価償却費として計上します。

X1期(期首)

X1期(期首)

X1期(期末)

X1期(期末)

(注)80,000,000×0.222=17,760,000

(2) 特別償却準備金の積立て

80,000,000円マイナス17,760,000円である62,240,000円について剰余金の処分方式により損金算入します。
また、税効果会計の処理を併せて行う必要があります。すなわち、特別償却準備金は、翌事業年度以後の一定年数で取崩しの上益金算入(別表4で加算)しますので、特別償却準備金を積み立てた事業年度において生じた将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上します。

X1期(期末)

X1期(期末)

(注)62,240,000×0.65=40,456,000
(注)62,240,000×0.35=21,784,000

2. 翌事業年度(X2期)の処理

X2期(期末)

X2期(期末)

(注)(80,000,000-17,760,000)×0.222=13,817,280

法人が積み立てた特別償却準備金の額は、特別償却対象資産ごとにその積立てをした事業年度の翌事業年度から、特別償却対象資産の法定耐用年数に応じて、法定耐用年数が10年以上のものは7年間、5年以上10年未満のものは5年間、それ以外のものは法定耐用年数に相当する期間に均分して益金の額に算入することとされています(措法52条の3第5項)。従って、法定耐用年数が9年の場合は、5年間で取り崩すことになります。

本ケースでは、特別償却準備金を5年間にわたって取り崩しますが、益金算入による将来加算一時差異の解消に伴い、繰延税金負債も5年間で取り崩していきます。

X2期(期末)

X2期(期末)

(注)40,456,000×1/5=8,091,200

X2期(期末)仕訳表2

(注)21,784,000×1/5=4,356,800

※ 先端設備については最新モデル要件、旧モデル比生産性向上要件および最低取得価額要件を満たすものであり、工業会の証明書が必要です。生産ラインやオペレーションの改善に資する設備については生産性向上要件(投資計画に記載された投資利益率が一定割合以上)および最低取得価額要件を満たすものであり、経済産業局の確認書が(会社規模にかかわらず、公認会計士または税理士の事前確認も)必要です。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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