平成26年度税制改正が税効果会計に与える影響 ~生産性向上設備投資促進税制の創設、所得拡大促進税制の改正~

2014年4月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

<本稿は税制改正法案の公布前に執筆されたものです。なお、税制改正法案は3月31日に公布されました。>

生産性向上設備投資促進税制の創設及び所得拡大促進税制の改正

平成26年度税制改正により、生産性向上設備投資促進税制の創設(租税特別措置法案42条の12の5)、所得拡大促進税制の改正(租税特別措置法42条の12の4の改正)が行われることになりました。税制改正法案が本年2月4日に国会に提出されましたが、本年3月31日までに成立の上、公布される見込みです。税効果会計に影響を与える点に留意が必要です。

なお、本稿は、税制改正法案が平成26年3月31日までに公布されることを前提として記述している点をお断りしておきます。

生産性向上設備投資促進税制の創設による税効果会計への影響


1. 生産性向上設備投資促進税制の創設

生産性向上設備投資促進税制は、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物及びソフトウェアで、産業競争力強化法に規定する生産性向上設備に該当するもの(①先端設備及び②生産ラインやオペレーションの改善に資する設備1)のうち、一定の規模以上のものの取得等をして、その生産性向上設備を国内にあるその法人の事業の用に供した場合に、特別償却又は税額控除の選択適用が認められる特例税制です。①については、メーカーの所属する工業会の証明書が必要であり、②については経済産業局の確認書(公認会計士又は税理士の事前確認も必要)が必要となります。

また、産業競争力強化法の施行日である平成26年1月20日から平成28年3月31日までの間に取得等したものについては、即時償却の適用も認められるとする内容になっています。

2. 平成26年度税制改正による経過措置の内容

生産性向上設備投資促進税制に係る規定は、原則として、平成26年4月1日以後に終了する事業年度について適用されます。ただし、一定の経過措置が設けられる予定です。すなわち、平成26年4月1日前に終了する事業年度において産業競争力強化法の施行日(平成26年1月20日)から平成26年3月31日までの間に適用要件を満たす生産性向上設備の取得等をした場合には、平成26年4月1日を含む事業年度において、特別償却又は税額控除を適用することができるものとされます。例えば3月決算会社の場合、平成26年1月20日から平成26年3月31日までの間に生産性向上設備の取得等をした場合には、平成27年3月期において特別償却又は税額控除の適用を受けることができることになります。

3. 税効果会計への影響

平成26年4月1日前に終了する事業年度において、平成26年1月20日から平成26年3月31日までの間に生産性向上設備投資促進税制の適用要件を満たす生産性向上設備を取得等した場合で、かつ、平成26年4月1日を含む事業年度(3月決算会社の場合は平成27年3月期、2月決算会社の場合は平成27年2月期)に税額控除を適用する予定である場合には、翌期の税金を減額させる権利を確保したということになるため、平成26年4月1日前に終了する事業年度(3月決算会社の場合は平成26年3月期、2月決算会社の場合は平成26年2月期)において税効果会計の適用対象になります。

「一時差異に準ずるもの」(繰越欠損金と同様)として、繰延税金資産の回収可能性があると判断されるときはその税額控除相当額について繰延税金資産の計上をすることになると考えられます。翌期に課税所得の発生が見込まれ、税額控除の適用による税金の減額効果が合理的に見込まれる場合には、回収可能性があるものと判断されると考えられます。

なお、平成26年4月1日を含む事業年度において、税額控除ではなく特別償却(即時償却)を選択する予定である場合には、繰延税金資産を計上しないものと考えられます。特別償却は、減価償却制度を通じた課税の繰り延べに過ぎず、トータルでは税金の減額効果を有しないと考えられるからです。特別償却を適用するときは、適用した事業年度において将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上し、その翌事業年度以後の各事業年度において、将来加算一時差異の解消に伴い繰延税金負債を取り崩していきます。

所得拡大促進税制の改正による税効果会計への影響


1. 所得拡大促進税制の改正

平成26年度税制改正により、所得拡大促進税制の適用要件が緩和されることになる見込みです。改正前後の適用要件を比較すると、次のとおりです。

改正前の適用要件

① 当期の「雇用者給与等支給増加額」/「基準雇用者給与等支給額」 ≧ 5%
② 当期の「雇用者給与等支給額」 ≧ 前期の「雇用者給与等支給額」
③ 当期の「平均給与等支給額」 ≧ 前期の「平均給与等支給額」
(平均給与等支給額の対象給与等 → 日雇い労働者を除く国内雇用者への給与等)

改正後の適用要件

① 当期の「雇用者給与等支給増加額」/「基準雇用者給与等支給額」 ≧ 2% (注)
② 当期の「雇用者給与等支給額」 ≧ 前期の「雇用者給与等支給額」
③ 当期の「平均給与等支給額」 > 前期の「平均給与等支給額」
(平均給与等支給額の対象給与等 → 継続雇用者への給与等(適用年度及びその前年度の両方で支給を受けた国内雇用者への給与等)

(注)平成25年度及び平成26年度は2%、平成27年度は3%、平成28年度及び平成29年度は5%です。

上記①の要件が、平成25年度及び平成26年度については「2%以上」に、平成27年度については「3%以上」に緩和されることにより、適用対象法人数が増加することが考えられます。

2. 平成26年度税制改正による経過措置の内容

平成26年度税制改正による改正後の規定は、平成26年4月1日以後に終了する事業年度について適用されます。ただし、平成26年3月期について一定の経過措置が設けられる予定です。すなわち、法人が平成26年4月1日を含む事業年度で改正後の制度を適用する場合、経過事業年度2 について改正後の要件の全てを満たすときは、その経過事業年度について改正後の規定を適用して算出される税額控除相当額を、平成26年4月1日を含む事業年度で上乗せ(控除限度額も併せて上乗せ)できるものとされることになります。

3月決算会社が平成27年3月期に改正後の制度を適用する場合において、平成26年3月期において改正前の適用要件を満たすことができない場合、その平成26年3月期について改正後の適用要件が満たされている場合は、平成27年3月期において平成26年3月期に係る改正後の規定で算出される税額控除相当額を上乗せできます。

なお、平成26年3月期について改正後の要件が満たされている場合であっても、平成27年3月期について適用要件が満たせないときは、平成26年3月期の分を上乗せできません。すなわち平成27年3月期について改正後の要件が満たされているときに限って平成26年3月期の分を上乗せできる点に留意が必要です。

平成26年度税制改正が税効果会計に与える影響 図

3. 税効果会計への影響

3月決算会社において、平成26年3月期について改正前の要件が満たせず、改正後の要件を満たせる場合、かつ、平成27年3月期についても改正後の要件が満たせる場合、平成27年3月期において平成26年3月期に係る改正後の規定で算出される税額控除相当額を上乗せできるため、平成26年3月期においては翌期の税金の減額効果を生じる権利を確保していることになります。

平成27年3月期について改正後の要件を満たすことについて確実性が認められる場合は、翌期である平成27年3月期に税金の減額効果が認められることになります。一時差異に準ずる差異として、繰延税金資産の回収可能性を判断した上で、回収可能性があると判断されるときは、繰延税金資産を計上することになると考えられます。

ただし、繰延税金資産の計上に当たっては、平成27年3月期について改正後の要件を満たすことについての確実性が必要であると考えられます。例えば平成27年3月期の予算が取締役会で承認されており、その予算に含まれている給与等の支給額が適用要件を満たすことが確実である裏付け・証拠がある場合であって、かつ、平成27年3月期に課税所得が見込まれていて、税金の減額効果が生じることが合理的に見込まれるときは、繰延税金資産の計上を行うことが考えられます3

  1. 先端設備については最新モデル要件、旧モデル比生産性向上要件及び最低取得価額要件を満たすもの、生産ラインやオペレーションの改善に資する設備については生産性向上要件(投資計画に記載された投資利益率が一定割合以上)及び最低取得価額要件を満たすものであることが必要です。
  2. 経過事業年度とは、平成25年4月1日以後に開始し、平成26年4月1日前に終了する事業年度で改正前の制度の適用を受けることができない事業年度をいいます。すなわち、平成26年3月期で改正前の制度の適用を受けられないケースです。
  3. 改正後の三つの要件の一つ目の要件である「雇用者給与等支給増加額が基準雇用者給与等支給額に占める割合が2%以上であること」の「基準雇用者給与等支給額」は、3月決算会社の場合は平成25年3月期の支給額であるため、平成26年3月期について改正後の適用要件を満たす場合は、平成27年3月期についても適用要件を満たす可能性は高いと考えられますが、その裏付け・証拠が求められるものと考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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