公認会計士 太田 達也
生産等設備投資促進税制の創設
平成25年度税制改正により、生産等設備投資促進税制が導入されました。生産等設備を取得等して、国内の事業の用に供する場合において、その1又は2以上の生産等設備を構成する減価償却資産(以下、生産等資産)の期末時点の取得価額の合計額が一定額を超えるときに、その生産等資産を構成する資産のうち機械装置の取得価額に対して一定割合を乗じた額について特別償却又は税額控除のいずれかを選択適用できるものとする内容です(措法42条の12の2)。当該事業年度において国内における生産等設備への投資額を増加させている法人は、適用要件を満たしているかどうかの確認を必ず行う必要があります。
特別償却を選択する場合
先の特例税制は、特別償却又は税額控除のいずれかを選択適用できるとされるもので、税額控除の適用について資本金基準が設けられていないので、大企業でも税額控除の適用が受けられます。税額控除を適用する場合は、法人税申告書の別表6(18)の明細書に控除税額その他の事項を記載し、別表1(1)上で控除を行うことになるので、会計上の論点はあまり生じません。
一方、特別償却を適用する場合、それは減価償却制度を通じた課税の繰延制度にすぎず、企業会計上は損益に影響させないようにしなければなりません。特別償却準備金を積み立てる会計処理が必要になりますし、それが税効果会計の将来加算一時差異に該当するので、会計上の論点が発生します。本稿では、特別償却準備金の会計処理を中心に解説します。
特別償却準備金の手続と会計処理
剰余金の処分(会社法452条)により特別償却準備金を積み立てます。会社法上は、決算手続として期末日の日付で剰余金の処分により積み立てるので、特別償却を適用する事業年度の貸借対照表及び株主資本等変動計算書に反映されます(企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」25項)。
なお、決算手続として行う特別償却準備金の積立て及び取崩については、株主総会の承認決議は不要とされています(会社計算規則153条2項)。
税務上の取扱い及び税効果会計の適用
特別償却を適用した事業年度の法人税申告書別表4において減算(留保)の申告調整が行われることにより、課税所得が圧縮されます。
特別償却の適用により、税務上は損金算入ができますが、翌事業年度以後の各事業年度において一定の期間で益金算入されるので、別表4の加算(留保)の調整が必要となります(注)。従って、特別償却が適用された事業年度において将来加算一時差異が発生し、それが翌期以降の益金算入により段階的に解消していくことになります。
(注)法人が積み立てた特別償却準備金の額は、特別償却対象資産ごとにその積立てをした事業年度の翌事業年度から、特別償却対象資産の法定耐用年数に応じて、法定耐用年数が10年以上のものは7年間、5年以上10年未満のものは5年間、それ以外のものは法定耐用年数に相当する期間に均分して益金の額に算入することとされています(措法52条の3第5項)。
以上の処理内容を仕訳で表すと、次のようになります。税務上の特別償却限度額を1,400とし、法定実効税率を40%とします。また、翌期以降の取崩期間を7年とします。
決算日の日付で次の仕訳が起きます。
1. 特別償却を適用した事業年度
2. 翌期以降の各事業年度
このケースでは、将来加算一時差異が1,400発生し、それが翌期以降の各事業年度において200ずつ解消することになります。
申告調整方法
別表4及び別表5(1)に、次のように申告調整を行います。なお、特別償却の付表(6)「国内の設備投資額が増加した場合の機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」を併せて記載する必要がありますが、ここでは捨象しています。
1. 特別償却を適用した事業年度
別表4 所得の金額の計算に関する明細書
別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
2. 翌期以降の各事業年度
別表4 所得の金額の計算に関する明細書
別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
なお、特別償却準備金の積立額は、税務上はあくまでも1,400として取り扱われますが、税効果会計を適用した場合の申告要件として、確定申告書に税務上の特別償却準備金の積立額及び取崩額を明らかにするために、会計上の特別償却準備金の額と繰延税金資産の額の内訳を示す一定の明細表を添付する必要がある点に留意する必要があります(日本公認会計士協会・会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」の別紙「積立金方式による諸準備金等の種類別の明細表」ご参照)。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。