資産除去債務に係る見積り変更の会計処理 ~税効果会計との関係を含む~

2013年6月3日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

資産除去債務に係る見積り変更

資産除去債務は、有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものがあるときに計上します。その場合、将来の除去支出額を見積り、それを現在価値に割り引いた金額で資産除去債務を負債に計上し、それと同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加える会計処理を行います(資産除去債務会計基準3項(1)、7項前段)。

資産除去債務は、平成22年4月1日以後開始する事業年度から強制適用されていますが、いったん計上した資産除去債務について、その後、見積りの変更を行う事例が見られます。賃借建物の原状回復義務について資産除去債務を計上していた会社が、その後、移転を決定したことにより見積り変更を行った事例などが確認されています。

会計上の見積りの変更

資産除去債務に係る見積り変更は、過年度遡及会計基準が定めている「会計上の見積りの変更」に該当します。すなわち、「会計上の見積りの変更」とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいいます(過年度遡及会計基準4項(7))。

「新たに入手可能となった情報に基づいて」という点がポイントであり、資産除去債務をいったん計上しても、その後に新たに入手可能となった情報に基づいて見積りの変更を行うべきケースがあり得るため、決算の都度、見積り変更の要否をチェックする必要があります。

資産除去債務に係る見積り変更が必要となるケースの具体例

資産除去債務に係る見積り変更が必要となる例を以下に示します。

第一に、賃借建物に係る原状回復義務について資産除去債務を計上していたとします。除去の履行時期については、賃借建物からの具体的な退去の時期が定まっていなかったため、賃借建物の経済的耐用年数を見積り、その経過時点で除去を履行すると合理的に見積っていたものとします。ところが、事業計画の見直しにより、当該賃借建物からの移転が決定されたものとします。その場合は、移転の決定により、除去の履行時期の見積り変更が必要になると考えられます。また、除去費用についても、より合理的な見積りが可能となることも考えられます。

第二に、定期借地権契約に係る原状回復義務について、定期借地権の契約期間の終了時に除去が履行されるものと合理的に見積って資産除去債務を計上していたものとします。ところが、定期借地権の対象土地の上物の店舗の採算が好調であり、地主との間で定期借地権契約の再締結を交渉した結果、再締結することが合意されたものとします。その場合、契約の再締結を前提として、新たな契約の期間終了時に除去が行われるものとして見積り変更を行う必要が生じると考えられます。再締結後の契約期間中に、店舗の建替えや改修が見込まれていたとしても、それは自発的な計画に基づくものであると考えられるため、契約期間中に見込まれる当該建物の解体費用や改修費用は資産除去債務の対象に含まれないと考えられます。資産除去債務の対象となるのは、あくまでも定期借地権契約の終了時の原状回復費用であると考えられます。

資産除去債務に係る見積り変更の会計処理

割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更による調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します(資産除去債務会計基準10項前段)。

割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じ、当該キャッシュ・フローが増加する場合、その時点の割引率を適用します。逆に、当該キャッシュ・フローが減少する場合には、負債計上時の割引率を適用します。なお、過去に割引前の将来キャッシュ・フローの見積りが増加した場合で、減少部分に適用すべき割引率を特定できないときは、加重平均した割引率を適用することになります(資産除去債務会計基準11項)。

例えば当初は10年後に除去が行われるものと見積っていたところ、移転の決定により3年後に除去が行われることに見積り変更する必要が生じたものとします。10年後の除去支出額(見積額)を現在価値に割り引いた金額が1,000、3年後の除去支出額(見積額)を現在価値に割り引いた金額を1,200とします。この場合は、増加額200について資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加算します。

仕訳表1

除去の履行時期の見直しにおいて用いる割引率の取扱い

上記の会計処理は、除去の履行時期を見直すときに、予想除去時期の繰上げによる現在価値の増加を資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加算することになりますが、このときの割引計算に用いる割引率の取扱いについての明文の定めがないことが問題になります(資産除去債務会計基準11項は将来キャッシュ・フローの金額に重要な見積りの変更が生じた場合の取扱いであって、除去の履行時期の見直しについて定めたものではありません)。

この点、いったん計上した資産除去債務について、その後用いる割引率については変更をせずに負債計上時の割引率を用いる方法によるとされている(資産除去債務会計基準49項)こととの整合性から、割引率は当初のものを用いて予想除去時期の繰上げによる現在価値の増加を計算する処理は認められると考えられます。

申告調整及び税効果会計の適用

前項の例では、見積り変更による調整額200を資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加算していますが、この場合は法人税申告書の別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」において、有形固定資産についてはマイナス200、資産除去債務についてはプラス200の調整を入れ、税務上はそのような処理がなかったものとして打ち消す調整を行います(当初の計上について有形固定資産及び資産除去債務に係る別表5(1)の調整が残っていると考えられるため、その行にプラス・マイナスを追加する調整をするものと考えられます)。

この別表5(1)に追加する調整は、新たに発生する資産、又は負債科目に係る会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額の差異であり、税効果会計の一時差異に該当します。有形固定資産の帳簿価額に加算した額は将来加算一時差異に該当し、資産除去債務の帳簿価額に加算した額は将来減算一時差異に該当します。

資産除去債務に係る将来減算一時差異については、繰延税金資産の回収可能性を判断しなければなりません。移転の決定等で除去の履行時期が早まる場合は、スケジューリングにおいてもそれを考慮することになります。仮に繰延税金資産の回収可能性があると判断された場合は、次の仕訳が必要になります(法定実効税率を35%と仮定します)。

仕訳表2

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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