公認会計士 太田 達也
期間帰属方法の見直し
「退職給付に関する会計基準」(退職給付会計基準)における退職給付債務(PBO)は、退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算する方法で算定します。この退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額をどのように計算するかが問題となります。
改正前は、いわゆる「期間定額基準」といい、退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法が原則とされていました。この期間定額基準は、退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額の割合として、退職時点までの勤務期間に対する期末時点までの勤務期間の割合を用いる方法です。
改正後は、退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額については、次のいずれかの方法を選択適用して計算するものとされ、いったん選択した方法は、原則として、継続適用することが必要となります(退職給付会計基準19項)。
期間定額基準 | 退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法 |
給付算定式基準 | 退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法 |
期間定額基準を選択する場合の検討課題
期間定額基準は、給付設計の内容に関わらず決算期末までの発生分を勤続年数比例により配分する方法であるため、シンプルで理解しやすい面があります。国際会計基準(IAS19号)は給付算定式基準のみを認めており、期間定額基準という選択肢は認めていませんが、期間定額基準を一律に否定する根拠がないことや、適用の明確さでより優れているという理由により日本の改正後の退職給付会計基準において選択肢として残された経緯があります。
国際会計基準(IFRS)の採用の是非については、現在企業会計審議会において審議中であり、その動向は流動的ですが、仮に採用が決定された場合でも十分な準備期間が設けられることが考えられます。
あくまで現在審議中ですが、将来において仮に連結にのみIFRSが適用されるような状況が生じた場合、平成26年4月1日以後に開始する連結会計年度において引き続き期間定額基準を採用していたときは、単体に期間定額基準、連結に給付算定式基準の方法でPBOを算出しなければならなくなる事態が生じるかもしれません。
給付算定式基準を選択する場合の検討課題
給付算定式基準によった場合、給付算定式に従った給付額が、勤務期間の前半においては少なく、勤務期間の後半に多くなるような給付算定式を採用している企業がほとんどです。
勤務期間の後期における給付算定式に従った給付額が、初期よりも著しく高水準となるとき(著しく後加重という)には、当該期間の給付額が定額で生じるとみなして補正した給付算定式に従わなければなりません(退職給付会計基準19項なお書)。これを均等補正といいますが、このような補正が必要となるのは、著しく後加重の場合に均等補正をしないと、費用配分が勤務期間の後期に著しく集中してしまう結果となるからです。
この著しく後加重であるかどうかの具体的な判断基準があるわけではありません(国際的な会計基準にも具体的な定めはありません)。均等補正の必要性の判断については、個々の事情を踏まえて検討しなければならないとされています(退職給付に関する会計基準の適用指針75項)。従って、給付算定式基準の選択に当たっては、著しく後加重であるかどうかの判断を個々の事情を踏まえて慎重に行い、均等補正の必要性を適切に判断する必要があります。また、定性的側面として退職給付に関する給付設計の考え方を再整理する必要もあると考えられます。
さらに、著しく後加重であると判断され、均等補正を行う場合は、給付設計は企業によってさまざまであるため、均等補正の方法について各社の実態に応じた判断が必要になることも考えられ、期間定額基準よりも複雑な実務問題が生じ得ます。
期間定額基準から給付算定式基準への変更の取扱い
改正前に期間定額基準を採用していた場合であっても、適用初年度の期首(=平成26年4月1日以後に最初に開始する事業年度の期首)において、給付算定式基準を選択することができます(退職給付会計基準38項)。その場合は、正当な理由の有無は関係ありません。適用初年度より後に変更する場合は、正当な理由が必要になり、かつ、遡及適用の対象になる点に留意する必要があります。
期間帰属方法の連結会社間での統一の要否
期間帰属方法の選択は、会計方針の選択適用に当たるため、本来は連結会社間で統一すべきであるが、財務諸表に与える影響や連結上の事務処理の経済性等を考慮し、必ずしも統一する必要はないものと考えられるとされています(退職給付に関する会計基準の適用指針77項)。
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