公認会計士 太田 達也
企業再生のニーズの増大
景気が後退局面に入った現状において、今後企業が解散・清算をするか、企業再生により事業の継続を図っていくかの選択を迫られる場面が増加するものと思われます。事業の継続を断念せざるを得ないケースも生じる一方で、第二会社方式などの企業再生スキームを用いて、事業の継続を図っていく案件も確実に増加すると予想されます。
「第二会社方式」とは
企業再生のスキームとして、第二会社方式が広く活用されてきました。第二会社方式とは、財務内容が悪化している企業の収益性のある事業を会社分割または事業譲渡により切り分け、新設法人または既存の法人(第二会社)に承継させ、不採算事業や債務が残った移転元法人を、その後特別清算などを用いて整理することによる再生手法です。以下、新設分社型分割により、継続を図る事業を新設法人に移転する例を示します。
上記の分割後において、分割法人は対価として取得した分割承継法人株式をスポンサー企業への譲渡などにより現金化し、それを債務の弁済原資に充てるという手法をとります。スポンサー企業から見れば、簿外債務の承継リスクは特にないため、受け入れやすい面があります。債務の弁済後、分割法人は特別清算などにより整理されます。一方債権者から見ても、債権の貸し倒れに伴う損金算入メリットが期待できるため、受け入れられやすい面があります。
また、スポンサー企業に継続事業を事業譲渡し、その譲渡代金を債務の弁済に充てるという事業譲渡方式が使われる場合もあります。
なお、分割法人を整理するこのスキームにおいては、清算手続を円滑に終了させることができるように、分割法人に残す債務は、オーナー借入金や債権の切り捨てに同意している金融機関からの借入金のみとするのが通常です。債権の切り捨てに同意していない金融機関からの借入金を分割法人に残した場合は、金融機関が民法上の詐害行為取消請求権の行使をしてくることが想定されるからです。
分社型分割スキームに係る法人税法上の取扱い
上記のスキームに係る税務上の取扱いですが、分割法人の整理が予定されているため、分割法人と分割承継法人との間の支配関係の継続が見込まれていないことになります。そのため、同一の企業グループ内の適格分割に該当しないことになります(法法2条12号の11)。
また、分割法人の整理が予定されていることから、分割法人が取得した分割承継法人株式の継続保有が見込まれていないことになります。株式の継続保有要件を満たしていないため、共同事業を行うための適格分割にも該当しないことになります(法令4条の3第8項)。結果として、非適格分割により行われる場合が少なくありません。非適格分割や事業譲渡の場合、「資産調整勘定」の計上が可能です。すなわち、対価として交付を受けた分割承継法人株式の時価(または事業譲渡の対価の額)と分割により受け入れた資産・負債の時価純資産価額の差額が「資産調整勘定」または「負債調整勘定」のいずれかに計上されます(法法62条の8、法令123条の10)。資産調整勘定の場合、60カ月にわたって損金化していくことになるため(法法62条の8第4項、5項)、資産調整勘定の金額の基礎となる分割承継法人株式の時価(=事業の譲渡価額)の算定根拠の客観性が確保されている必要が特にあると考えられます。この点、第三者である専門家による事業価値算定、競争入札方式などにより客観性を担保する場合が見られます。
なお、会計上、のれんを計上できない場合であっても、資産調整勘定については損金経理要件が課せられていないため、損金算入することは可能です。
企業会計上の取扱い
会社分割後において、分割法人は整理されることが予定されており、また、分割法人が交付を受けた分割承継法人は外部のスポンサー企業に譲渡されることが予定されています。従って、分割法人と分割承継法人との間の支配関係が解消されることが分割当初から想定されるため、この点を重視すると分割承継法人株式をスポンサー企業に譲渡して得た現金はB事業の売却益と考えられるため、分割と株式の売却を一体の取引として処理するのが実態に合っていると考えます。ただし、分割を共通支配下の取引と、株式の売却と分けて処理することも考えられると思われます。
一方、事業譲渡方式による場合ですが、新設法人に対する事業譲渡の場合は、自己創設のれんを計上することは認められませんが、既存の法人であるスポンサー企業やスポンサー企業の関係会社に対して直接事業譲渡を行う場合は、有償取得のれんに該当するため、事業譲渡の対価の額から受け入れる資産・負債に係る時価純資産額を控除した額をのれんとして計上することが認められるものと考えられます。
消費税法上の取扱い
会社分割は、消費税法上の譲渡等に該当しないため、課税対象外取引となります。
一方、分割法人が分割承継法人株式をスポンサー企業に譲渡する取引は、株式の譲渡になり、当該株式の譲渡は非課税取引に該当します。株式の譲渡価額の5%について、課税売上割合の計算上非課税売上として考慮することになります(消法6条1項、消令48条5項)。
分割法人の仕入税額控除の計算に影響が生じ得ます。
移転元法人の解散・清算に係る税務上の留意点
移転元法人(分割の場合の分割法人、事業譲渡の場合の譲渡元法人)は解散し、清算中に債務免除を受けることになります。債務免除益が益金の額に算入されますが、清算中に終了する事業年度であるため、「残余財産がないと見込まれる」という要件を充足することにより、期限経過欠損金(期限切れ欠損金)を損金の額に算入することができ、課税が生じないように対応することは可能です(法法59条3項)。逆に、移転元法人において課税が生じ、納税義務を履行できない場合に、移転先法人に第二次納税義務が生じるケースがあり得るため、注意が必要です。
産業再生法の活用
第二会社方式を活用する場合に、移転先法人への営業の許認可等の承継、登録免許税や不動産取得税などの税負担、移転先法人についての金融支援などがデメリットとされています。これについては、「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」に基づき「中小企業承継事業再生計画」を作成して経済産業大臣の認定を受けた場合は、営業上必要な許認可等を承継できる特例、登録免許税及び不動産取得税の軽減措置、金融支援を活用することができます。その認定を受けるためには、一定の条件を充足する必要があります。
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