公認会計士 太田 達也
貸倒引当金の段階的廃止
税務上の貸倒引当金制度については、①中小法人等1 ②銀行、保険その他これらに類する法人及び③売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金銭債権を有する法人等に限り認められるものとされ、これら以外の法人については、平成24年度(平成24年4月1日以後に最初に開始する事業年度)から平成26年度(平成26年4月1日以後に最初に開始する事業年度)までの事業年度にわたって4分の1ずつ縮減の上、廃止されるものとされました。平成24年度は4分の3、平成25年度は4分の2、平成26年度は4分の1の引当てが認められます。
本改正については、一括評価金銭債権及び個別評価金銭債権のいずれにも適用されます。
また、上記の②銀行、保険その他これらに類する法人及び③売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金銭債権を有する法人等については、法令の規定により、その具体的な内容を確認する必要があります。②に掲げる法人及び③に掲げる法人の有する一定の債権については、貸倒引当金の繰入が従来どおり認められますが、具体的には下記に掲げるとおりです。
- 「中小法人等」とは、資本金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある法人以外で、資本金の額が1億円以下である普通法人、資本または出資を有しない普通法人、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等です(法法52条1項1号)。
銀行、保険その他これらに類する法人(法法52条1項2号、法令96条4項)
(1) 銀行
(2) 保険会社
(3) 無尽会社
(4) 証券金融会社
(5) 長期信用銀行
(6) 長期信用銀行持株会社
(7) 銀行持株会社
(8) 貸金業法施行令1条の2第3号または5号に掲げるもの(金融庁長官指定の短資会社またはコール資金の貸付けを行う登録投資法人)
(9) 保険持株会社
(10)少額短期保険業者
(11)少額短期保険持株会社
(12)法務大臣の許可を受けた債権回収会社
(13)株式会社商工組合中央金庫
(14)株式会社日本政策投資銀行
(15)株式会社企業再生支援機構
(16)株式会社東日本大震災事業者再生支援機構
(17)外国保険会社等及び保険業法の免許特定法人の引受社員
リース債権を有する法人その他の金融に関する取引に係る金銭債権を有する法人として政令で定める法人(政令で定める金銭債権に限定)(法法52条1項3号、法令96条5項、法規25条の4の2)
法人 | 貸倒引当金の繰入が認められる債権 |
---|---|
リース資産の売買があったものとされる場合の当該リース資産の対価の額に係る金銭債権を有する法人 | 左記の金銭債権 |
第一種金融商品取引業者 | 信用取引に付随する金銭の貸付けに係る債権 |
質屋 | 質屋営業法14条の帳簿に記載された質契約に係る金銭債権 |
登録包括信用購入あっせん業者 | 基礎特定信用情報として指定信用情報機関に提供される事項である金銭債権 |
登録個別信用購入あっせん業者 | |
銀行の子会社、保険会社の子会社、貯金業務もしくは共済業務を行う農業協同組合の子会社、貯金業務を行う農業協同組合連合会の子会社、信用金庫の子会社、信用金庫連合会の子会社、長期信用銀行の子会社、長期信用銀行持株会社の子会社、労働金庫の子会社、労働金庫連合会の子会社、銀行持株会社の子会社、保険持株会社の子会社、農林中央金庫の子会社または株式会社商工組合中央金庫の子会社で金融関連業務を営むもの | 商業、工業、サービス業その他の事業を行う者から買い取った金銭債権でその法人の金銭債権の取得または譲渡に係る業務として買い取った金銭債権(ファクタリング業務として買い取った金銭債権) |
貸金業者 |
|
信用保証業を行う法人 | 信用保証業に係る保証債務の履行により生じた金銭債権 |
リース取引に係る金銭債権の繰入対象額
リース取引に係る金銭債権は、法人の規模、業種等にかかわらず、繰入対象になります。また、リース取引に係る金銭債権に対する繰入対象額は、従来どおりリース料の未経過分とされています。
「リース取引に関する会計基準」では、貸手側の企業では、所有権移転ファイナンス・リース取引については「リース債権」、所有権移転外ファイナンス・リース取引については「リース投資資産」を貸借対照表に計上するものとされています。リース債権またはリース投資資産として貸借対照表に計上される金額は、未経過リース料に係る原価相当分(元本相当額)であり、貸倒引当金の繰入対象額と異なる点に留意が必要です。
この点、リース取引に係る金銭債権に対して貸倒引当金を繰り入れる法人は、注記に関する内容も申告書と併せて添付し、注記を省略した場合には、リース取引に関する何らかの明細書等で明らかにすることが考えられます。
また、リース取引に関する規定損害金も、貸倒引当金の繰入対象となります(法基通11-2-1の3)。すなわち、期末における未収の規定損害金は、貸倒引当金の繰入対象となります。未経過リース料と同額でない場合であっても、従前と同様に、未収の規定損害金の額が貸倒引当金の繰入対象となります。
貸倒引当金に係る経過措置または新法の選択
平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度を経過措置事業年度といいます。この経過措置の適用をそのまま受ける場合は、平成24年4月1日以後に最初に開始する事業年度から、繰入限度額が4分の1ずつ段階的に縮減していくことになります。
しかし、この経過措置の適用を受けるか、新法の適用を受けるかを法人が選択できるものとされています。「売買があったものとされるリース資産の対価の額に係る金銭債権を有する法人等」については、一定の金銭債権について従来どおり繰入が認められるため、経過措置の適用を受けるか、新法の適用を受けるかによって有利不利が発生するものと考えられます。
この点については、一括評価金銭債権については事業年度ごとに選択でき、個別評価金銭債権については金銭債権ごとに選択できるとされている点に留意が必要です(改正法附則13条2項、3項)。
一括評価金銭債権 | 事業年度ごとに、経過措置と新法との選択可 |
個別評価金銭債権 | 金銭債権ごとに、経過措置と新法との選択可 |
税効果会計への影響
会計上の貸倒引当金繰入額が税務上の繰入限度額を上回る超過額は、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。一定の法人や一定の法人の有する金銭債権を除いて、税務上の繰入限度額が段階的に縮減していくことになるので、通常は将来減算一時差異の額も段階的に増加していくことになります。平成27年度(平成27年4月1日以後に最初に開始する事業年度)以後の各事業年度において、税務上の貸倒引当金が廃止される段階においては、会計上の貸倒引当金の繰入額の全額が将来減算一時差異になります。
監査委員会報告第66号においては、「貸倒引当金等のように、将来発生が見込まれる損失を合理的に見積ったものであるが、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難な場合には、過去の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等により、合理的にスケジューリングが行われている限り、スケジューリングが不能な一時差異とは取り扱わない」とされています。今回の税制改正後においても、各会計期間の期末時点における将来減算一時差異について、過去の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングを行うことは問題ないと考えられます。
貸倒実績率への変更
一部の連結子会社等においては、税務上の法定繰入率が貸倒実績率を上回り、かつ、特に弊害がないという前提で、法定繰入率を用いている例があるようです。そのような企業においては、今後税務上の貸倒引当金の繰入限度額が段階的に縮減していくことになるため、貸倒実績率への変更を検討する必要があります。
なお、資本金が5億円以上の法人による完全支配関係がある法人でない限り、中小法人等については従来どおりとされているため、今回の改正による影響は生じないものと考えられます。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。