公認会計士 太田 達也
過去の誤謬の訂正と税務との関係
過去の誤謬と過去の税務申告における所得計算との関係については、(1)過少申告のケース、(2)過大申告のケース、(3)誤りがないケースの三つに分かれ、表1のように整理することができます。
表1 過去の誤謬の訂正と税務との関係
過年度の税務申告における所得計算 | 具体例 | 税務対応 |
---|---|---|
(1)過少申告のケース | 売上の計上漏れ、費用の過大計上 | 修正申告 |
(2)過大申告のケース | 売上の過大計上、費用の過少計上 | 更正の請求 |
(3)誤りがないケース | 有税の減損損失の計上漏れまたは計上不足、有税の引当金の計上漏れまたは計上不足 | 必要なし |
過少申告のケース
過少申告に当たる場合、税務上、修正申告を行うことになります。会計上は重要性が乏しい場合を除いて、誤謬の訂正を行い、遡及し訂正したものとして累積的影響額を算定し、それを(会社法上)当期の期首残高に反映します。一方、税務上は修正申告を行うことにより、過年度の課税所得計算を是正(増額)することになります。
一見すると、会計と税務が一致するように思われますが、所得の過少計上に対応してその所得に見合った未払法人税等を実効税率相当額認識することになりますので、未払法人税等のうちの事業税部分について将来減算一時差異が認識されるものと考えられます。この点について、週刊税務通信のNo.3203(平成24年3月5日)の拙稿記事では、次の内容を解説しています。
前提条件
税務調査により、前期の棚卸資産(製品)に計上すべきものが誤って売上原価に計上されていることが指摘されました。金額は800であり、会計上は当該誤謬に重要性があるものと判断され、過去に遡及して訂正し、訂正による累積的影響額を当期の期首残高に反映することになりました。
会計上は、次のように誤謬の訂正を行うものと考えられます。
(修正内容)
(1)前期の売上原価過大計上(製品の過小計上)の修正
(2)前期に計上が不足していた未払法人税等を計上(実効税率を40%とする)※
(3)(1)及び(2)の修正に伴う当期首の利益剰余金の修正
なお、会計帳簿は(会社法上の)計算書類の基礎となるものであるから、会計帳簿には次の仕訳を当期の期首の日付で行うことも考えられます。
この未払法人税等のうちの事業税部分は、翌期(=当期)に修正申告の上、納付する段階で損金算入されるため、将来減算一時差異に該当するものと考えられます。繰延税金資産の回収可能性があると判断された場合は、次の追加仕訳が必要になるものと考えられます。(仮に未払事業税が100、法定実効税率を40%であったと仮定します。)
(期首)
(期末)
過大申告のケース
過去の誤謬が過去の税務申告における所得計算の誤りに該当する場合で、かつ、それが過大申告に当たるケースにおいては、更正の請求を行い、過大に納付した法人税等の還付が受けられるように対応することになります。
更正の請求が認められ、還付を受けることが確実になった段階において、還付法人税等の会計処理をどのように行うのかが問題となります。次の設例で具体的な処理を検討します。
【設例】
過去の誤謬が過去の税務申告における過大申告に該当する場合
当期の計算書類作成過程の中で、過去の計算書類における売上の過大計上30,000が発見されました(現在まで修正していません)。会計上、重要性があると判断されたため、過年度遡及会計基準に従って、過去に遡及して訂正することとなりました。税務上は、減額更正が受けられるように、更正の請求手続を行うものとします。
なお、訂正を行わなかったとした場合の当期首の繰越利益剰余金は100,000であったとします。
(期首残高調整前)
別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
(期首残高調整後)
別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
過年度遡及会計基準を適用した場合、前期損益修正損を特別損失に計上することは認められません。期首の売掛金及び繰越利益剰余金を減額する処理が必要になります。そこで、上記のような調整を行うことにより、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との関係が明確になると考えられます(税務上の売掛金の帳簿価額は減額前の金額)。
会計上は、過年度に遡及して訂正しているため、期首の繰越利益剰余金は100,000から70,000に修正されています。一方、税務上は、更正を受けるまで、売掛金の帳簿価額も利益積立金額の残高も何ら変わっていないことを表しています。減額更正を請求していますが、減額更正がされない限り、調整が残る形になるものと考えられます。
売上の過大計上に対応して、法人税等(税金費用)も実効税率を乗じた相当額が過大に計上されていたことになります。更正の通知を受けるなど、過大法人税等の還付を受けることが確実になった段階で、次の会計処理が必要になると考えられます(実効税率を40%とします)。
(更正を受けることが確実になった事業年度の期首)
相手勘定は、法人税等還付税額ではなく、繰越利益剰余金になるものと考えられます。過去の誤謬に起因して過去の法人税等が過大計上になっていたことに対する修正の性格ですので、当期の損益に影響させないで、剰余金の増減により処理すべきものと考えられるからです。
また、未収法人税等のうち、事業税部分については、還付を受けた段階で益金の額に算入されることになるため(注)、将来加算一時差異に該当するものと考えられます。期首の日付で繰延税金負債を計上し、還付を受けた事業年度でそれを取り崩すことになると考えられます。
(注)過去において過大に納付した事業税は、その時点では損金算入されています。それが還付された時点では益金算入されます。
未収法人税等のうちの事業税が300であったとし、法定実効税率を40%とします。
(更正を受けることが確実になった事業年度の期首)
(還付を受けた事業年度)
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