過年度遡及会計基準を適用したときの税効果会計の処理 ~別表調整の問題だけではない!~

2011年12月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

過年度遡及会計基準に係る別表調整

過年度遡及会計基準を適用し、会計方針の変更に際して変更後の会計方針を過去に遡及適用したり、過去の誤謬の訂正による修正再表示をした場合、税務上の帳簿価額は元のままですから、別表調整が必要になります。

この点については、以前のこのコーナーでも取り上げています(「過年度遡及会計基準と税務との関係」)し、雑誌等においてもすでに執筆しています。国税庁からは、本年10月21日に『法人が「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を適用した場合の税務処理について』という標題のQ&Aも公表されています。

別表調整の必要性

過年度遡及会計基準に基づき遡及処理を行った事業年度の確定申告書に添付される計算書類は、会計方針の変更の遡及適用による累積的影響額が反映された各勘定科目の期首残高に基づいて作成されています。従って、前事業年度の決算書の計上額と当事業年度の決算書の期首繰越額との間の連続性が確保されていないことになります。これについては、法人税申告書の別表5(1)において、期首現在利益積立金額の箇所に貸借対照表科目の入り繰りを調整する必要があります。具体的には、資産(又は負債科目)と繰越損益金との間でプラス・マイナスの調整を入れることにより、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との対応関係が明確になるものと考えられます。

税効果会計の処理の必要性

具体的な設例で説明しましょう。棚卸資産の評価方法を変更した場合を例として、別表調整と税効果会計の処理を関連付けて説明します。

【設例】
棚卸資産の評価方法を変更した事業年度における別表5(1)の記載と税効果会計

正当な理由に基づき、当事業年度において棚卸資産の評価方法を総平均法から先入先出法に変更したものとします。過年度遡及会計基準を適用し、変更後の会計方針を過去に遡及適用します。会計上の期首繰越棚卸資産帳簿価額に遡及適用による累積的影響額が反映されるので、次のように会計方針変更前と会計方針変更後で会計上の帳簿価額が変わります。併せて期首繰越利益剰余金の数値についても、会計方針変更前と会計方針変更後で変わります。

なお、変更事業年度の開始の日の前日までに、所轄国税局(または所轄税務署)に、棚卸資産の評価方法の変更に係る変更承認申請書を提出し、承認を受けたものとします。

  会計方針変更前 会計方針変更後
期首繰越棚卸資産帳簿価額(会計) 500 600
期首繰越棚卸資産帳簿価額(税務) 500 500
期首繰越利益剰余金(会計) 1,200 1,300
期首現在利益積立金額(税務) 1,200 1,200

別表調整を行わなかったものとすると、別表5(1)は以下のとおりであるとします。


(期首残高調整前)

別表5(1)利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書

別表5(1)利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書

別表調整をすると、次のようになります。


(期首残高調整後)

別表4 所得の金額の計算に関する明細書

別表4 所得の金額の計算に関する明細書

別表5(1)利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書

別表5(1)利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書

別表5(1)上の「繰越損益金」は、会計上の「繰越利益剰余金」に一致させるのが基本ですから、遡及適用後の1,300と記載します。一方、空白欄に「棚卸資産(過年度遡及)」と記載し、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差額である△100と記載します。会計上の帳簿価額が600に対して税務上の帳簿価額が500であることを表しています。

税効果会計の具体的処理

棚卸資産の会計上の期首帳簿価額が税務上のそれよりも100大きいため、当期に当該棚卸資産を売却(処分)したときの会計上の譲渡損益が税務上のそれよりも100小さくなります。従って、別表4上で100の加算(留保)が必要になります。

このことは、期首時点の会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差額が将来加算一時差異であることを意味しています。仮に法定実効税率を40%とすると、40の繰延税金負債を計上することになります。

税効果会計の具体的処理 仕訳表

上記の仕訳のように、期首の日付で繰延税金負債を計上しますが、当期中に一時差異が解消されたので、繰延税金負債を取り崩しますが、このときの相手勘定は「法人税等調整額」となります。

なお、期首の在庫が期末に一部残った場合に、一時差異が当期中に全額解消されるのかどうかという点を問題にする向きがありますが、先入先出法に変更し、税務上の評価方法も同様の方法への変更が承認されているのであれば、期末在庫は最も新しく仕入れたものの帳簿価額で計算されるので、会計と税務で一致することが考えられます。従って、その場合は当期中に一時差異が全額解消されていることになります。

過去の誤謬の訂正の場合における税効果会計の処理の必要性

過去の誤謬の訂正の場合においても、会計上の資産又は負債科目の期首の帳簿価額が、誤謬の訂正による累積的影響額を反映することによって、変わります。税務上、過去の税務申告の過少申告に該当する場合で、修正申告を直ちに提出する場合は、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額が一致することも考えられます。

しかし、過大申告の場合は減額更正を受けるのが修正経理をした期の翌期になることも考えられ、一時差異が生じる場面が出てきます。永久差異のような例外ケースを除いて、税効果会計の適用が必要になることが考えられます。例えば過去の売上の過大計上のようなケースでは、過去の誤謬の訂正を行った結果、別表5(1)の期首現在利益積立金額の箇所に、「繰越損益金」マイナス、「売掛金(過年度遡及)」プラスの調整が入ります。この「売掛金(過年度遡及)」のプラスは減額更正のあった事業年度に消えるので、修正経理をした事業年度に将来減算一時差異が発生し、減額更正のあった事業年度に当該一時差異が解消すると考えることができます。

また、過年度の財務諸表における有税の引当金の計上漏れがあったような場合も、別表5(1)の期首現在利益積立金額の箇所に、「繰越損益金」マイナス、「○○引当金(過年度遡及)」プラスの調整が入ります。この「○○引当金(過年度遡及)」のプラスは引当金を取り崩した事業年度に認容により消えるので、修正経理をした事業年度に将来減算一時差異が発生し、引当金を取り崩した事業年度に当該一時差異が解消すると考えることができます。繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると判断される場合には、繰延税金資産を計上することになると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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