公認会計士 太田 達也
見積りの変更の会計処理
平成23年4月1日以後に開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び誤謬の訂正から「過年度遡及会計基準」が適用されています。この会計基準においては、過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合には、当期中における状況の変化により会計上の見積りの変更を行ったときの差額や実績が確定したときの見積金額との差額については、その変更のあった期、または実績が確定した期に、その性質により、営業損益または営業外損益として認識することとなるものとして整理されています(過年度遡及会計基準 55項)。
また、引当金の過不足が計上時の見積り誤りに起因する場合は、過去の誤謬に該当し、重要性が乏しいものでない限り、遡及適用(修正再表示)が必要となります。
貸倒引当金戻入益の取扱いの変更
「金融商品会計に関する実務指針」の改正により、貸倒引当金の取扱いが改正されています。過年度遡及会計基準と整合性を図るための改正です。すなわち、貸倒引当金の繰入額と取崩額を相殺し、繰入額の方が大きいときは、従来と同様に、営業費用または営業外費用に計上されますが、逆に取崩額の方が大きいときは、貸倒引当金戻入額を特別利益に計上せず、原則として営業費用または営業外費用から控除するか、または、営業外収益に計上するものとされました。
債権に対する貸倒引当金が不足している場合、明らかに過年度損益修正に相当すると認められるものを特別損失として計上する処理が従来認められていましたが、過年度遡及会計基準の適用の下では、その不足分が過去の誤謬に該当することになることからそのような処理は認められず、遡及適用(修正再表示)の対象になるものと考えられます。
資産除去債務の履行差額の取扱い
「資産除去債務に関する会計基準」では、除去債務を履行したときに、資産除去債務の残高と実際に支出した除去費用との差額が履行差額として計上されます。この履行差額は、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することを原則としつつ、当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合など、当該差額が異常な原因により生じたものである場合には、特別損益として処理するものとされています(資産除去債務に関する会計基準 58項)。
当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合など、異常な原因により生じた履行差額を特別損益として処理する取扱いは、過年度遡及会計基準との関係においてどのように整理するべきでしょうか。この問題については、過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づいて最善の見積りがなされている限り、過去の誤謬には該当しないものと考えられます。当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなることが、前期以前には想定されておらず、その結果当期に多額の履行差額が生じたのであれば、過去に遡及適用しないで、履行差額を特別損益に計上することになると考えられます。
前期以前に情報の入手が可能であった場合
当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなることが、過去の財務諸表作成時においてすでに判明していた場合はどうでしょうか。前期以前においてその情報が入手可能であった場合は、入手可能となった時点において会計上の見積りの変更をしておくべきだったものと考えられます。すなわち、見積りの変更による調整額を、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理しておくべきだったものと考えられます。入手可能な情報に基づいて最善の見積りがなされておらず、かつ、重要性があるときは、過去の財務諸表を修正再表示すべきものと思われます。
適用初年度に資産除去債務の存在を見落としていた場合
「資産除去債務に関する会計基準」は、平成22年4月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されています。適用2期目以降において、資産除去債務の存在を見落としていたことが発見されたものとします。その場合は、過年度遡及会計基準は、平成23年4月1日以後に開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び誤謬の訂正から適用されるので、重要性が乏しいものを除いて、過去の誤謬の訂正による修正再表示が必要になるものと考えられます。
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