外国税額控除 外国税額控除

2019年9月6日
カテゴリー 解説シリーズ

EY税理士法人 税理士 関 郷子

1. はじめに

日本の居住者である個人及び内国法人は、原則として国内及び国外を問わず、その発生した全て の所得に対して日本で課税されますが、その法人が外国で得た所得に対してはその外国においても一般的に課税が行われます。

外国税額控除制度は、日本のように全世界所得に対して課税を行う場合に、外国で課税された法人税(または源泉所得税)を日本の法人税から控除することによって、二重課税を排除するための制度です。

ここでは、内国法人における外国税額控除制度について説明することとします。

2. 外国税額控除制度の基本構造

法人税法上に規定される内国法人に対する外国税額控除額は以下のように算出されます。

① 控除対象外国法人税額
② 控除限度額
控除限度額 =当期の全世界所得に対する法人税額 × 当期の国外所得(注)/ 当期の全世界所得

(注)国外所得が当該事業年度の全世界所得金額の90%に相当する金額を超える場合には、全世界所得の90%に相当する金額が国外所得金額とされる。

③ 当期の外国税額控除額=①と②のいずれか小さい金額

3. 税額控除と損金算入

内国法人が納付することとなった外国法人税については、外国税額控除を適用しない場合には、損金算入方式を選択することができます。損金算入を選択した場合、納付した外国法人税は一般の経費と同様に取り扱って所得から控除されるため、二重課税を完全に排除することはできません。従って、理論的には外国税額控除を適用した方が有利であるといえますが、赤字により課税所得が発生せず、税額控除の適用を受けることができない場合や、控除限度額が不足している場合等、損金算入のほうが有利になるケースもあります。

外国税額控除と損金算入に関する簡単な例は下記の通りです。

外国税額控除と損金算入に関する簡単な例

なお、外国税額控除と損金算入の選択は全ての外国法人税について行うものであり、一部の外国法人税額については税額控除し、その他の外国法人税額については損金算入という選択はできません。また、外国税額控除は将来の3年間にわたって繰り越すこともできるため、いずれを選択するかは慎重に判断する必要があります。

4. 控除対象外国法人税

(1) 外国法人税の範囲

外国税額控除の対象となる外国法人税は、外国の法令に基づき外国又は地方公共団体により「法人の所得を課税標準として課される税」とされています。ただし、法人税法では、外国の税体系や徴収手続き等を考慮して、以下の表のとおり外国法人税を定義しています。

外国法人税に含まれるもの
外国法人税に含まれないもの

(2) 高率負担分の除外

控除対象外国法人税額は、所得に対する負担が高率な部分とされる部分を除いたものとされており、2019年8月現在この高率な部分とは35%を超える部分とされています。これは、日本における法人税(地方税を含む)の実効税率を35%程度とみて、原則的にはこの税率を超える高税率により外国法人税が課された場合には、二重課税の問題は生じないと考えられるため、外国税額控除の対象とする必要はないということから設けられた規定です。

なお、外国税額控除の対象から除外される高率な部分の金額については、法人税の所得金額の計算上、損金に算入されます。

(3) 租税条約に定める限度税率によって計算した税額を超える部分の金額

租税条約を締結している国において発生した国外源泉所得について、租税条約で定める限度税率を超えて外国法人税が課されるケースがありますが、限度税率を超える部分の金額(限度税率超過税額)については外国税額控除の対象となる外国法人税には含まれないこととされているため、控除対象外国法人税の計算上、除外する必要があります。

(4) まとめ

控除対象外国法人税額のワークフローをまとめると以下のとおりとなります。

控除対象外国法人税額のワークフロー

5. みなし外国税額控除

内国法人が開発途上国に進出を行った場合に、その開発途上国では自国への海外企業誘致のため優遇税制措置を認め租税を減免している場合があります。このような場合でも、外国税額控除の対象となる外国法人税額は、原則的には減免後の外国法人税額となるため、外国税額控除においては減免措置の効果はなく、開発途上国での優遇税制措置の目的が達成できないことになります。

そこで、開発途上国において減免された租税のうち、租税条約において定められたものについては減免された部分の納付があったものとみなして外国税額控除を適用する場合があり、このような制度をみなし税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)といいます。

なお、みなし外国税額控除が認められている例として、中国の使用料等に係る源泉所得税等がありますが、みなし税額控除は課税の公平性や中立性の観点から廃止・縮減の方向にあります。

6. 外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)に係る外国税額控除

外国子会社合算税制の適用に基づき外国関係会社の所得のうち一定の金額に相当する金額を、その親会社等である内国法人の所得とみなして合算課税を行った場合に、その外国関係会社が支払った外国法人税のうち、日本で合算された所得に対応する部分については、控除対象外国法人税額に含まれます。

7. 外国税額控除の適用時期

外国税額控除は、内国法人が外国法人税を納付することとなる日の属する事業年度において適用されます。ただし、継続適用を要件として、納付確定税額を納付ベースその他税務上合理的な基準に基づき費用として計上した日の属する事業年度において適用することも認められています。

ここでいう「外国法人税を納付することとなる日」は、外国の法令に基づいて判断されますが、不明確な場合には、日本の国税通則法に準じて納付確定日を決定することになります。

申告納税方式: 申告書の提出の日
(その日が法定申告期限前である場合にはその法定申告期限、更正または決定があった場合にはその更正または決定の日)
賦課課税方式: 賦課決定の通知日
源泉徴収方式: 源泉徴収の対象となった利子、配当、使用料等の支払日

8. 国外所得金額

(1) 国外所得金額とは

外国税額控除の控除限度額の基礎となる国外所得金額は、内国法人の各事業年度の国外源泉所得に係る所得の金額の合計額(ただし、その合計額がゼロを下回る場合にはゼロ)とされております。

国外所得は下記図の通り16種類の所得で構成されており、国外事業所等帰属所得(海外支店等国外事業所において発生した所得)とその他の国外源泉所得(例えば、海外からの利子、配当、使用料等の本店等で発生した所得)に区分されます。

なお、平成26年度税制改正による帰属主義への見直しに伴い、内国法人の海外支店(国外PE)が日本で得る国外PEに帰属すべき所得についても国外所得として認識することとなりました。

内国法人の外国税額控除における源泉所得の範囲(改正後)

(出典:国税庁ウェブサイト)

内国法人の外国税額控除制度

(出典:国税庁ウェブサイト)

(2) 国外事業所等帰属所得の計算方法

内国法人の国外事業所等帰属所得に係る所得の金額は、内国法人の国外事業所等を通じて行う事業に係る益金の額から損金の額を控除した金額とされます。これは、別段の定めがあるものを除いて、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算に関する法人税に関する法令の規定に応じて計算することとされています。

なお、内国法人の国外事業所等が複数ある場合には、当該国外事業所等ごとに国外事業所等帰属所得を認識して国外事業所等帰属所得の金額の計算を行うこととし、一つの外国に事業活動の拠点が複数ある場合には、その一つの外国の複数の事業活動の拠点全体を一の国外事業所等としてその認識及び計算を行うことに留意する必要があります。

また、販売費、一般管理費その他の費用で国外事業所等帰属所得に係る所得を生ずるべき業務とそれ以外の業務の双方に関連して生じたものの額(共通費用の額)があるときは、その共通費用の額は、収入金額、資産の価額、使用人の数、その他の基準のうち、これらの業務の内容及び費用の性質に照らし合わせて合理的と認められる基準により配分され、国外事業所等帰属所得に係る所得の金額を計算することとされています。

さらに、共通費用の額に含まれる負債の利子の額(共通利子の額)についても、内国法人の営む主たる事業により区分された方法で計算した金額を、国外事業所等帰属所得に係る所得の金額の計算上の損金の額として配賦されることとされています。

内国法人の外国税額控除制度における国外所得金額の計算イメージ

(出典:国税庁ウェブサイト)

(3) その他の国外源泉所得の計算方法

その他の国外源泉所得金額は、その他の国外源泉所得に係る所得のみについて各事業年度の所得に対する法人税を課するものとした場合に課税標準となるべきその事業年度の所得の金額に相当する金額とされています。つまり、これは現地における外国法人税の課税上その課税標準とされた所得の金額そのものではなく、当該事業年度において生じた国外源泉所得に係る所得の計算につき日本の税法に基づき計算した金額による、ということになります。

また、国外事業所等帰属所得の計算と同様、共通費用および共通利子についても、適切に配賦することが必要です。

(4) 非課税所得の調整

国外所得金額の基礎となる国外源泉所得の中に、非課税国外源泉所得がある場合には、非課税国外源泉所得に係る所得の金額を除外する必要があります。非課税国外源泉所得とは、例えば国外からの利子・配当・使用料等のうち、所得源泉地国等で課税されないもの、あるいは租税条約の規定により免税とされるもの等が該当します。

9. 地方法人税及び地方税における外国税額控除

内国法人における外国税額控除制度は、国税である法人税のみではなく、地方法人税及び地方税のうち法人住民税においてもその適用が認められています。

つまり、法人税の控除限度額を超える控除対象外国法人税は、地方法人税の控除限度額までの金額が地方法人税額から、さらに法人住民税の控除限度額までの金額は道府県民税(都民税を含む)及び市町村民税の法人税割額から控除することができます。

事業税については、国際的二重課税排除の方法として国外所得免除方式が採用されているため、外国税額控除制度の適用は認められていません。

地方法人税及び地方税における外国税額控除

10. 控除限度額と控除余裕額の繰越

外国税額控除を適用した場合、控除対象外国法人税額と控除限度額が一致することはまずありません。控除対象外国法人税額が控除限度額を上回り控除できない法人税額が残ってしまうか、控除対象外国法人税額が控除限度額を下回る場合には控除できる枠が余ることとなります。

法人税法では、前者のように控除対象外国法人税額が控除限度額を超える場合のその超過額を「控除限度超過額」とし、後者のように控除限度額が控除対象法人税額を超える場合のその控除限度額の枠のあまりの部分を「控除余裕額」といいます。

これらの「控除限度超過額」と「控除余裕額」の金額はいずれも3年間繰り越して使用することができます。

ただし、この制度は法人税と地方税(道府県民税及び市町村民税)において認められていますが、地方法人税については適用がありません。

11. 申告手続、文書化

外国税額控除の適用を受ける場合には、確定申告書に明細を記載し、一定の書類を保存する必要があります。

また、海外支店(国外PE)を有する内国法人は、その海外支店に帰属する外部取引や内部取引についてPE帰属外部取引及び内部取引に関する事項を記載した書類を作成しておく必要があります。

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