公認会計士 加藤圭介・鈴木真策・武澤玲子
この平成30年3月期決算においては、改正実務対応報告18号、PFI取扱い、開示府令の改正、マイナス金利適用時期取扱いが原則適用となります。また、税効果会計基準一部改正、有償ストック・オプション取扱い、仮想通貨取扱いを早期適用することができます。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、平成30年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
Q1税効果会計基準一部改正の早期適用
Q2税効果会計基準一部改正等の表示のみの早期適用
Q3税効果会計基準一部改正の早期適用と未適用の会計基準の注記
Q4税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報
Q5税効果会計基準一部改正に関する会社法計算書類の取扱い
Q6米国の税制改革の影響
Q7マイナス金利適用時期取扱いの概要
Q8実務対応報告18号等の適用範囲
Q9実務対応報告18号等の留意点
Q10開示改正の影響
Q11権利確定条件付き有償新株予約権数の確定及びその見直しによる会計処理
Q12未公開企業における取扱い
Q13新株予約権の権利確定が見込めなくなった場合の会計処理
Q14有償新株予約権取扱いの経過措置と注記
Q15有償新株予約権取扱いを遡及適用した場合の表示
Q16仮想通貨取扱いの適用範囲
Q17仮想通貨利用者の会計処理と開示
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
税効果会計編
Q1. 税効果会計基準一部改正の早期適用
税効果会計基準一部改正等を早期適用することは可能でしょうか。また、早期適用した場合、平成30年3月期では会計方針の変更になるのでしょうか。
A1.
税効果会計基準一部改正等は、繰延税金資産の回収可能性に関する定めを除く、日本公認会計士協会の税効果会計に関する実務指針の定めを基本的に踏襲しつつ、表示及び注記事項、一部の会計処理について、必要と考えられる見直しが行われています。適用時期は平成30年4月1日以後開始する年度の期首からとされていますが、表示及び注記事項については、平成30年3月31日以後最初に終了する年度の年度末から早期適用できることとされています(税効果会計一部改正6項)。
このため、平成30年3月期においては、表示及び注記事項に関する、次の事項のみ早期適用することが可能です。
- 繰延税金資産及び繰延税金負債の表示(すべての繰延税金資産は投資その他の資産、繰延税金負債は固定負債に分類)
- 繰延税金資産に関する注記事項の追加(追加される事項については<図表>参照。連結財務諸表作成会社の個別財務諸表では評価性引当額の内訳に関する数値情報のみ追加)
図表 追加される注記事項
項目 | 数値情報(注) | 定性的な情報 |
---|---|---|
評価性引当額の内訳に関する情報 |
|
評価性引当額(合計額)に重要な変動が生じている場合における、当該変動の内容 |
税務上の繰越欠損金に関する情報 | 繰越期限別に税務上の繰越欠損金に係る次の金額
|
税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由 |
(注)繰延税金資産の発生原因別の注記として記載されている税務上の繰越欠損金の金額が重要であるときに記載
これらの表示及び注記事項に関する変更は表示方法の変更とされており、会計方針の変更にはなりません(税効果会計基準一部改正59項)。なお、表示方法の変更については、比較情報においては財務諸表の組替えが求められますが(過年度遡及会計基準14項)、注記事項においては経過措置として、評価性引当額の合計額を除き、適用初年度の比較情報を記載しないことができるとされています(税効果会計基準一部改正7項)。
Q2. 税効果会計基準一部改正等の表示のみの早期適用
税効果会計基準一部改正等を平成30年3月期に早期適用する際、表示に関する改正(繰延税金資産及び繰延税金負債の計上区分)についてのみ早期適用し、注記については来期から適用することは認められるでしょうか。
A2.
税効果会計基準一部改正を早期適用する場合、税効果会計基準一部改正をすべて適用することとしており、部分的に適用することは想定していないとされています((「企業会計基準公開草案第60号『税効果会計に係る会計基準の一部改正(案)』等に対するコメント」の「5.主なコメントの概要とその対応」35)「コメントへの対応」参照))。このため、平成30年3月期に表示に関する改正を早期適用する場合には、注記の追加に関する改正も同時に早期適用することが求められます。
Q3. 税効果会計基準一部改正の早期適用と未適用の会計基準の注記
税効果会計基準一部改正で開示に関する定めを早期適用した場合、当期末時点において、会計基準の一部のみが未適用となりますが、未適用の会計基準の注記は不要と考えてよいでしょうか。
A3.
翌期首から適用となる税効果に関する会計処理の見直しについては、未適用の会計基準等に関する注記が必要となると考えられます。
すでに公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、未適用の会計基準等に関する注記として、一定の事項を注記しなければならないとされています(過年度遡及会計基準12項)。このとき、今回のケースのように、一部分だけが先行的に適用となり、他方に未適用部分があるような場合の取扱いは明示されていません。未適用の会計基準等に関する注記は投資意思決定に有用な会計基準等の適用に係る影響を開示する趣旨であることから(過年度遡及会計基準51項)、重要性に応じて、当該注記を記載する必要があるものと考えられます。
なお、未適用の会計基準等に関する注記のうち、影響に関する事項(過年度遡及会計基準12項(3))の記載に関しては、定量的に把握している場合にはその金額を記載するものとされている点に留意が必要です(財規ガイドライン8の3の3-1-3、連結財規ガイドライン14の4)。
Q4. 税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報
税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報は、何年ごとに分類して記載するのでしょうか。
A4.
税効果会計基準一部改正では、繰越欠損金の繰越期限別の数値情報を記載する場合の年度の区切り方について、特段定められていません。これは、企業における税務上の繰越欠損金の発生状況は様々であり、また、在外子会社の税制は多様であるため、繰越期間の年数や有無は様々であると考えられることを考慮し、年度の区切り方については、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるためとされています(税効果会計基準一部改正42項)。このため、税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報の記載にあたっては、それぞれの企業における税務上の繰越欠損金の状況に応じて、年度の区切り方を検討することになると考えられます。
Q5. 税効果会計基準一部改正に関する会社法計算書類の取扱い
税効果会計基準一部改正のうち、開示(表示及び注記事項)を早期適用する場合において、会社法計算書類においても注記事項の追加は必要でしょうか。
A5.
平成30年3月26日に、税効果会計基準一部改正を反映した会社計算規則の改正が公布されました。この改正は繰延税金資産及び繰延税金負債の表示に関するものであり、繰延税金資産に関する注記事項の追加は含まれていません。このため、会社法計算書類においては、「評価性引当額の内訳に関する情報」及び「税務上の繰越欠損金に関する情報の注記」は必要ではないと考えられます。
ただし、当該事項が会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断される場合には、会社法計算書類においても、「評価性引当額の内訳に関する情報」及び「税務上の繰越欠損金に関する情報の注記」を追加情報として記載することも考えられます(会社計算規則116条)。
米国の税制改革編
Q6. 米国の税制改革の影響
米国の税制改革に関連し、12月決算の米国子会社を有しており、当該子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合、平成30年3月期の税効果及び開示への影響はどうなるでしょうか。
A6.
平成29年12月20日に米国の税制改革法案が米国の下院及び上院の委員会にて可決され、同年12月22日に大統領の署名により成立しました。改正税法のうち、税効果会計に影響する主な事項は、図表のとおりです。
図表 税効果会計に影響する改正税法の主な内容
項目 | 現行 | 改正税法 |
---|---|---|
連邦法人税率 | 15%、25%、34%、35%の累進税率 | 21% |
税務上の繰越欠損金 | 繰戻2年、繰延20年 | 繰越期限廃止、繰戻制度撤廃 平成30年(2018年)以降発生する繰越欠損金の相殺は課税所得の80%までとする |
米国外子会社からの配当への課税 | 全世界課税・外国税額控除制度 | 米国法人が10%以上を保有する外国子会社からの配当を益金不算入とする |
① 平成30年3月期における会計処理
ⅰ 税率の変更
米国に連結子会社や持分法適用関連会社(以下、「連結子会社等」という。)がある場合、改正税法成立後には、改正後の税率で税効果の会計処理を行うことになります。3月決算の会社において、米国の連結子会社等の決算日が12月末であり、当該連結子会社等の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合、平成30年3月期においては、連結子会社等の決算日に改正税法が成立しているため、当該連結子会社等の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、改正税法に規定される税率(21%)となります。
ⅱ 繰越欠損金の取扱い
従来、繰越欠損金の使用期限は20年とされていましたが、改正税法では、平成30年(2018年)以降生じた繰越欠損金の課税所得との相殺を課税所得の80%までとするとともに、使用期限が撤廃されています。このため、繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断に影響が生じると考えられます。
ⅲ 米国外子会社からの配当への課税
改正税法では、米国法人が10%以上を保有する米国外子会社からの配当を益金不算入とすることとされています。税効果会計においては、子会社及び関連会社の留保利益について、繰延税金負債を計上することが求められますが、米国子会社等が米国以外の子会社等に出資している場合、当該投資に係る繰延税金負債について、取崩しが生じる可能性があります。
② SAB118号の取扱い
平成29年12月22日に、SECのスタッフ会計公報(Staff Accounting Bulletin)118号(以下、「SAB118号」という。)が公表されました。SAB118号では、公開企業において、税制改正の制定日を含む会計期間に税制改正の影響に関する会計処理を完了するために必要な詳細情報を入手できず、合理的な見積りもできない場合には、一定の注記を行うことで、改正法が制定される直前の税法によることができるとされています。また、平成30年1月11日にFASBから公表された非公開企業に関するSAB118号の適用に係るQ&Aでは、非公開企業がSAB118号を適用したときは、米国基準に準拠しているとされています。
このため、実務対応報告18号等の当面の取扱いに基づき、米国会計基準に準拠した在外子会社等の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合、SAB118号に基づく会計処理をした財務諸表は、そのまま取り込むことになると考えられます。
③ 開示への影響
ⅰ 税率の変更に伴う注記事項
税率の変更により繰延税金資産(負債)の金額が修正されたときは、その旨及び影響額を注記する必要があることとされています(税効果会計基準 第四 3、財規8条の12第1項3号、連結財規15条の5第1項3号)。会計処理上、繰延税金資産(負債)の金額の修正は、当期首の金額に対して行われることとされていますが(個別税効果実務指針19項) 、影響額の注記は、期末時点の一時差異等をベースに算出することになる点に留意が必要です。
また、会社計算規則上は、税率変更に係る注記の明文規定はないため、必要に応じて、追加情報として記載を検討することになると考えられます。
ⅱ SAB118号に関する注記事項
実務対応報告第 18 号の当面の取扱いは、「在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱いを定める」ものであり、連結財務諸表における表示及び開示については、原則として、「連結財務諸表に関する会計基準」等に従うものとされています(「実務対応報告公開草案第44号『連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)』に対するコメント」の「5.主なコメントの概要とその対応」2)表示及び開示に関する取扱い「コメントへの対応」参照)。
このため、今回の米国税制改革の影響を完全に反映できなかった場合、SAB118号に基づき要求される注記事項は日本基準で求められる注記事項ではありませんが、米国基準における適正な開示を必須とした暫定措置であることを鑑み、重要性が認められるのであれば、追加情報として開示することになると考えられます。
マイナス金利編
Q7. マイナス金利適用時期取扱いの概要
マイナス金利適用時期取扱いが公表されましたが、平成29年3月期の取扱いからの変更の有無を教えてください。
A7.
マイナス金利の取扱いについては、平成29年3月に公表されたマイナス金利取扱いにより、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合には、以下のいずれかの方法によることとされていました。
- 利回りの下限としてゼロを利用する方法
- マイナスの利回りをそのまま利用する方法
上記の取扱いは、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限定して適用されていましたが、今般、公表されたマイナス金利適用時期取扱いにより、平成29年3月31日に終了する事業年度から「当該取扱いを変更する必要がないとASBJが認める当面の間」、当該取扱いが引き続き適用されます。
マイナス金利適用時期取扱いは、公表日(平成30年3月13日)以後適用されます。
なお、退職給付以外の割引率の取扱い及びマイナス金利下での金利スワップの特例処理の適用可否については、「平成29年3月期の決算上の留意事項」のQ5及びQ6をご参照ください。
実務対応報告18号編
Q8. 実務対応報告18号等の適用範囲
国内子会社等が作成した指定国際会計基準等を適用した連結財務諸表を一定の修正項目を除き親会社又は投資会社の連結決算手続上利用することができるのは、どのような場合でしょうか。
A8.
平成29年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から、国内子会社又は国内関連会社(以下、「国内子会社等」という。)が指定国際会計基準又は修正国際基準(以下、「指定国際会計基準等」という。)に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合には、当面の間、実務対応報告18号及び実務対応報告24号の対象範囲に含め、それらを連結決算手続上利用できるようになりました。
なお、在外子会社及び在外関連会社の財務諸表については、IFRS又は米国会計基準に準拠して作成されている場合が対象になりますが、国内子会社等の場合は、米国会計基準に準拠している場合は対象にならないことに留意が必要です。
また、当該取扱いは国内子会社等が有価証券報告書を提出している場合に限定されるため、指定国際会計基準等に準拠した連結財務諸表を任意に作成している場合は対象にならないことにも留意が必要です。
Q9.実務対応報告18号等の留意点
実務対応報告18号等の当面の取扱いを適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社等の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合、準拠しているIFRSや米国会計基準の改訂が行われたときには、連結財務諸表上も会計方針の変更として取り扱う必要がありますか。
A9.
実務対応報告18号等の当面の取扱いを適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社及び持分法適用会社(以下、「連結子会社等」という。)の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合において、連結子会社等の財務諸表が適用しているIFRSや米国会計基準の改訂が行われたときには、連結財務諸表においても会計方針の変更として取り扱われ、重要性に応じて会計方針の変更の注記の要否を検討する必要があります。また、IFRSや米国会計基準において公表済で未適用の会計基準がある場合にも、その重要性を踏まえて注記の要否を検討する必要があります。
IFRS及び米国会計基準における主な改訂としては以下のものがありますが、影響度合いの把握などの準備が必要と考えられます。
開示府令編
Q10. 開示府令改正の影響
開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実に関する開示府令の改正が公布されましたが、有価証券報告書に与える具体的な影響はどのようなものでしょうか。
A10.
平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、制度開示の開示内容の自由度を高め、例えば、有価証券報告書と会社法に基づく事業報告等との開示内容の共通化や、欧米に見られるような両者の一体的な書類としての開示などをより容易にすること、有価証券報告書の経営方針・経営成績等の分析等の非財務情報の開示を充実することなどを提案していました。この提案を受けて、平成30年1月26日に企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正が公布され、平成30年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。この改正のうち、有価証券報告書と事業報告等の開示内容の共通化及び有価証券報告書の開示の合理化に関連するものは次のとおりです。
① 「大株主の状況」における株式所有割合の算定の基礎となる発行済株式
従来、自己株式を含めて算定していたものを、自己株式を控除して算定することに変更されました。この結果、有価証券報告書と事業報告の記載内容が共通化されることになります。
② 新株予約権等の記載の合理化
「新株予約権等の状況」、「ライツプランの内容」及び「ストック・オプション制度の内容」の項目の「新株予約権等の状況」への統合、「新株予約権の状況」の現行様式の表の撤廃、ストック・オプションについて財務諸表注記(日本基準の場合)の記載の参照を可能とすること、「新株予約権等の状況」において有価証券報告書提出日の前月末現在の記載について、事業年度末の情報から変更がなければ変更ない旨の記載のみとする改正が行われました。
③ 「大株主の状況」の記載時点
株主総会日程の柔軟化のため、「大株主の状況」の記載時点について、事業年度末から原則として議決権行使基準日に変更されます。
また、今回の改正のうち、非財務情報の開示の充実に関連するものは次のとおりです。
④ 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合した上で、記載内容の整理が行われます。また、経営成績等の状況の分析・検討の記載を充実させる観点から、事業全体及びセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因についての経営者の視点による認識及び分析、経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているかの記載が求められることになります。
なお、平成30年3月30日に、財務会計基準機構(FASF)から「有価証券報告書の開示に関する事項-『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取り組み-」 が公表され、有価証券報告書と事業報告等の記載の共通化を図るうえでの留意点や記載事例が示されました。また、同日付けで、金融庁・法務省から公表された「『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた対応について」 においては、「有価証券報告書の開示に関する事項」に掲げられた「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」の内容は、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられる旨が記載されています。
有償ストック・オプション編
Q11. 権利確定条件付き有償新株予約権数の算定及びその見直しによる会計処理
有償新株予約権取扱いにおいては、失効の見込みは権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しないとされています。業績条件の達成可能性が高まり、付与当初に見込んだ失効の見込数に変動が生じた期の会計処理を教えてください。
A11.
権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額は、公正な評価単価に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定します(有償新株予約権取扱い5項(3))。
公正な評価単価は付与日において算定し、失効の見込みについては権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しません。また、付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積り数に重要な変動が生じた場合、これに伴い権利確定条件付き有償新株予約権数を見直すこととされ、この場合、失効数の見直しによる影響は、見直しを行った期の損益として計上することになります。
したがって、権利確定条件付き有償新株予約権を付与した当初には業績条件の達成可能性が低いと判断していたが、その後業績条件の達成可能性が高まった場合には、失効数の見込数が減少することから、当該期に費用計上総額の見直しがなされることになります。
以上を簡単な設例で示すと以下のとおりとなります。
前提条件
A社(3月31日決算)は、従業員5名に対し、平成30年7月1日に以下の条件のストック・オプション(権利確定条件付き有償新株予約権)を付与し、金銭が払い込まれた。
① ストック・オプション数 1人当たり100千個(合計500千個)
② ストック・オプションの権利確定日 平成32年6月30日
③ 権利確定条件 ⅰ 平成30年7月から平成32年6月までの累計営業利益が20億円を超えることを要する、ⅱ 権利確定日において従業員の地位にあることを要する
④ 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価 100円/個
⑤ 新株予約権の払込金額の合計額 2,500千円
⑥ 付与日における勤務条件を考慮した失効見込みはゼロ、業績条件を考慮した失効見込みは475千個(権利確定見込み25千個)であり、平成32年3月末において、業績条件の達成が合理的に見込まれる状況となった
会計処理(単位:百万円)
① 払込日/付与日(平成30年7月1日)
ストック・オプション(新株予約権)の付与に伴う従業員等からの払込金額(2.5)(5円/個×500千個)を、純資産の部に計上する。
(借)現金預金 | 2.5 | (貸)新株予約権 | 2.5 |
② 平成31年3月期
仕訳なし |
(注)株式報酬費用 ゼロ=(公正な評価単価100円/個×25千個-払込金額2.5百万円)×(9か月÷24か月)
③ 平成32年3月期
(借)株式報酬費用 | 41.6 |
(貸)新株予約権 | 41.6 |
(注)41.6百万円=(公正な評価単価100円/個×権利確定すると見込まれる見直し後の数500千個-払込金額2.5百万円)×(21か月÷24か月)
④ 平成33年3月期
(借)株式報酬費用 | 5.9 | (貸)新株予約権 | 5.9 |
(注)5.9百万円=(公正な評価単価100円/個×権利確定すると見込まれる見直し後の数500千個-払込金額2.5百万円)-41.6百万円
Q12. 未公開企業における取扱い
未公開企業が、従業員等に権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合の公正な評価単価に本源的価値を使用することは可能でしょうか。
A12.
従業員等に対して、有償新株予約権取扱いの対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、ストック・オプション会計基準2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと定められました(有償新株予約権取扱い4項)。
ここで、有償新株予約権取扱いにおいては、未公開企業について、公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができるか否かが明確にされていないことから、有償ストック・オプションについてもストック・オプション会計基準13項の未公開企業における取扱いが適用できるか否かが論点となります。
この点、有償新株予約権取扱い8項においては、「本実務対応報告に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針の定めに従う。」と定められていることから、未公開企業が従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した場合、ストック・オプション会計基準13項に定める未公開企業における取扱いが適用されることになると考えられます(有償ストック・オプションコメント対応27)。
Q13. 新株予約権の権利確定が見込めなくなった場合の会計処理
権利確定条件として業績条件が付与されています。当期に、明らかに業績の達成が見込めなくなった場合、業績の確定前に失効の会計処理を行うのでしょうか。
A13.
有償新株予約権取扱い5項(6)では、新株予約権として計上した払込金額は、権利不確定による失効に対応する部分を利益として計上することが定められていますが、当該利益の計上時点について、業績条件の達成見込みがないと判断された時点で計上するのか、業績条件を達成しないことが確定した時点で計上するのかが明らかにはされていません。
この点、ストック・オプション会計基準2項に定義されている用語が使われている場合、当該用語の定義に従うとされています(有償新株予約権取扱い3項)。ストック・オプション会計基準2項(13)においては、権利不確定による失効について「権利確定条件が達成されなかったことによる失効」とされており、「『失効』とは、ストック・オプションが付与されたものの、権利行使されないことが確定することをいう」とされていることから、業績条件を満たさないことが確定した時点を指すものと考えられます(有償ストック・オプションコメント対応24)。
したがって、新株予約権として計上した払込金額は、明らかに業績の達成が見込めなくなった場合においても、業績条件の確定前に失効の会計処理を行うことはなく、業績条件を満たさないことが確定した時点で失効の会計処理を行うことに留意が必要です。
他方、有償新株予約権に業績条件が付されている場合に、各会計期間において費用計上し、対応する金額として計上された新株予約権については、業績条件の達成が明らかに見込めなくなった期において戻入処理されることになります。
すなわち、業績条件の達成可能性は有償新株予約権数に反映させるため、業績条件の達成が見込めなくなった場合には、有償新株予約権数はゼロとなります。その結果、公正な評価単価から払込金額を差し引いた金額に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定する費用計上額もゼロとなることから、見直し直前までに費用計上し、対応する金額として計上された新株予約権の金額は、見直しを行った期において戻し入れられることになります。
Q14. 有償新株予約権取扱いの経過措置と注記
有償新株予約権取扱いを適用した場合の経過措置と開示上の取扱いを教えてください。
A14.
有償新株予約権取扱いは、平成30年4月1日以後原則適用することとされ、同取扱いの公表日(平成30年1月12日)以後早期適用することができるものとされています(有償新株予約権取扱い10項(1))。
また、有償新株予約権取扱いの適用にあたっては、遡及適用を原則としていますが、経過的な取扱いとして、有償新株予約権取扱いの適用日より前に従業員等に対して有償新株予約権を付与した取引については、従来採用していた会計処理を継続することができることとされています。ただし、この場合、情報の有用性を補うために当該取引について以下の事項を注記する必要があることに留意が必要です(有償新株予約権取扱い10項(3))。
- 権利確定条件付き有償新株予約権の概要(各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等))。
ただし、付与日における公正な評価単価については、記載を要しない。 - 採用している会計処理の概要
なお、適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合又は従来採用していた会計処理を継続する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています(有償新株予約権取扱い10項(4))。
Q15. 有償新株予約権取扱いを遡及適用した場合の表示
有償新株予約権取扱い10項(2)に基づき、同取扱いを遡及適用した場合、過去分の影響額は(連結)株主資本等変動計算書において、どの科目でどのように表示されるでしょうか。
A15.
有償新株予約権取扱いを早期適用し、原則どおり、有償新株予約権取扱いの適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引について遡及適用した場合の払込資本の増加額は、その他資本剰余金に計上するものとされています(有償新株予約権取扱い10項(2))。有償新株予約権取扱いを遡及適用するにあたり、公表日より前に当該新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行している場合、新たな会計方針に基づき新株予約権として計上された額のうち、権利行使に対応する部分が払込資本に振り替えられます。この点、会計方針の変更により、新たな会計方針を遡及適用した場合であっても、新株予約権の行使があった場合の「資本金等増加限度額」(会社計算規則13条1項)の基礎となる「行使時における新株予約権の帳簿価額」(会社計算規則17条1項1号)を修正するものではないことから、当該払込資本の増加額は、その他資本剰余金として処理されます(有償新株予約権取扱い37項)。
新たな会計方針が遡及適用される場合、表示期間(会社法の場合は当期、有価証券報告書の場合は前当期)より前の期間に係る遡及適用による累積的影響額は、表示される最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映されます(過年度遡及会計基準6項、7項)。このため、有償新株予約権取扱いを遡及適用した場合、図表のとおり、表示される最も古い期間の(連結)株主資本等変動計算書において、前述の遡及適用に伴う払込資本の増加額を「会計方針の変更による累積的影響額」として(その他)資本剰余金に区分表示して表示することになります(株主資本等変動計算書会計基準5項なお書き)。
図表 有償新株予約権取扱いを遡及適用した場合の連結株主資本等変動計算書の表示例
仮想通貨取扱い編
Q16. 仮想通貨取扱いの適用範囲
仮想通貨取扱いの適用範囲を教えてください。
A16.
仮想通貨取扱いは、自己(自己の関係会社を含む。)の発行したものを除く、資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」という。)に規定するすべての仮想通貨を対象としますが(仮想通貨取扱い3項)、仮想通貨の会計処理及び開示に関して必要最小限の項目のみを定めたものであり、すべての取引を適用対象としているわけではありません。
① 仮想通貨取扱いの適用対象となる「仮想通貨」の定義
資金決済法における仮想通貨の定義を整理すると以下の3つの要件を満たすものとなります。
- 物品購入の代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができるもの(これと相互に交換できるものを含む。)
- 電子的に記録された財産的価値であり、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
- 法定通貨(円、ドルなど)及び通貨建資産(預金、金銭債権など)に該当しないもの
上記に含まれない、前払式支払手段発行者が発行するいわゆる「プリペイドカード」や、ポイント・サービスにおける「ポイント」は、資金決済法上の仮想通貨に該当しないものとされています(仮想通貨取扱い25項)。また、金融商品取引法に定める有価証券に定義に含まれるものは、仮想通貨に該当しないとされています(第359回企業会計基準委員会 審議事項(6)-2 6項、8項~12項)。なお、いわゆる仮想通貨が資金決済法上の仮想通貨に該当するか否かは、個別事例ごとに取引の実態に即して実質的に判断するとされています(仮想通貨取扱い25項)。
② 仮想通貨取扱いの適用対象となる取引
仮想通貨取扱いの対象となる会計処理及び表示は、以下の取引に係るものに限られています。
- 仮想通貨の利用者における、仮想通貨の取得・保有・売却
- 仮想通貨交換業者における、仮想通貨の取得・保有・売却、顧客から仮想通貨を預かる行為
なお、仮想業者交換業者とは次の業務を行う者として登録を受けた者をいいます(資金決済法2条7項、63条の2)。
ⅰ 仮想通貨の売買(法定通貨との交換)又は他の仮想通貨の交換(利用者の売買の相手方となって直接販売等を行う販売所の業務)仮想通貨の利用者における、仮想通貨の取得・保有・売却
ⅱ ⅰの行為の媒介、取次ぎ又は代理(利用者同士の売買の場を提供する取引所の業務)仮想通貨交換業者における、仮想通貨の取得・保有・売却、顧客から仮想通貨を預かる行為
ⅲ ⅰ、ⅱの行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること(アカウントやウォレットを提供して金銭や仮想通貨を保管する業務)
自己(自己の関係会社を含む。)の発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)については、仮想通貨取扱いの範囲から除外されています(仮想通貨取扱い3項ただし書き、26項)。
なお、いわゆるマイニング(採掘)などにより取得した仮想通貨は、通常、自己(自己の関係会社を含む。)以外の者により発行されているため、適用対象に含まれます(仮想通貨取扱い26項)。
Q17. 仮想通貨利用者の会計処理と開示
仮想通貨利用者が仮想通貨を保有する場合の会計処理と開示の概要を教えてください。
A17.
仮想通貨取扱いは、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用されますが、公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することができます。
① 会計処理
仮想通貨取扱いにおける、仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理は図表の通りです(仮想通貨取扱い5項~7項)
図表 仮想通貨利用者の会計処理
活発な市場が 存在する場合 |
活発な市場が 存在しない場合 |
|
---|---|---|
貸借対照表価額 | 市場価格に基づく価額 | 取得原価 処分見込価額(※)<取得原価の場合は処分見込価額 |
貸借対照表価額と帳簿価額との差額の処理 | 当期の損益 | 処分見込価額(※)<取得原価の場合、その差額は当期の損失 |
(※)ゼロ又は備忘価額を含みます。
② 「活発な市場が存在する場合」
「活発な市場が存在する場合」とは、保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいいます(仮想通貨取扱い8項)。
活発な市場が存在する仮想通貨が、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理します。活発な市場が存在しない仮想通貨となった後の期末評価は、活発な市場が存在しない仮想通貨として行います(仮想通貨取扱い11項)。また、活発な市場が存在しない仮想通貨が、その後、活発な市場が存在する仮想通貨となった場合、その後の期末評価は、活発な市場が存在する仮想通貨として行うことになります(仮想通貨取扱い12項)。
③ 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格
活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価は、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格を用いることとされています(仮想通貨取扱い9項)。
④ 仮想通貨の売却損益の認識時点
仮想通貨の売却損益は、当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識します(仮想通貨取扱い13項)。
⑤ 表示
仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示することとされています(仮想通貨取扱い16項)。
⑥ 注記
仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、次の事項を注記することとされています(仮想通貨取扱い17項本文)。
ⅰ 仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
ⅱ 仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額
ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができます(仮想通貨取扱い17項また書き)。