会計情報トピックス 山澤伸吾
企業会計基準委員会が平成28年6月17日に公表
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成28年6月17日に実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しています。
固定資産の減価償却に関して、日本公認会計士協会から公表されている監査上の取扱いにおいて、いわゆる税法基準による会計処理が一定の範囲で認められていますが、平成28年度税制改正において、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物の税務上の減価償却方法について定率法が廃止され、定額法のみとなっています。この税制改正に対応して、企業が会計上の減価償却方法を変更する場合、正当な理由に基づく自発的な会計方針の変更として扱うとすれば、変更の適時性と適切性を企業が判断することとなり、企業における作成実務に混乱が生じるとの意見が聞かれています。
そこでASBJにおいて、市場関係者からの要請により緊急の案件として、当該減価償却方法の変更に関する取扱いについて審議が行われました。今般、ASBJは緊急的な対応として、従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業が平成28年度税制改正に合わせて会計方針を変更する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものとしました。
なお、今回の対応は、抜本的な解決を図るために減価償却に関する会計基準の開発に着手することの合意形成に向けた取組みを速やかに行うことを前提として、取り扱う範囲を平成28年度税制改正に伴う建物附属設備及び構築物の減価償却方法の変更に限定した緊急的なものであり、今回に限られた対応とされています。
1. 本実務対応報告の概要
(1)取扱い
本実務対応報告において、以下の場合、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものとされています。
対象となる企業 | 従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業 |
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対象となる資産 |
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減価償却方法の変更 | 減価償却方法を定率法から定額法へ変更する場合 |
上記以外の減価償却方法の変更については、正当な理由に基づき自発的に行う会計方針の変更として取り扱うものとされています。
(2)適用初年度における注記
上記(1)に従って、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項、第19項及び第20項の定めにかかわらず、次の事項を注記することとされています。
- 会計方針の変更の内容として、法人税法の改正に伴い、本実務対応報告を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨
- 会計方針の変更による当期への影響額
2. 適用時期
本実務対応報告では、従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業が平成28年度税制改正に合わせて会計方針を変更する場合に適用されるものであることを踏まえ、適用時期は次のとおりとされています。
原則適用 | 本実務対応報告の公表日以後最初に終了する事業年度のみ(例えば、3月決算会社の場合には、平成29年3月31日に終了する事業年度のみ) |
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早期適用 | 平成28年4月1日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には、当該事業年度に適用可能(例えば、4月決算会社の場合には、平成28年4月30日に終了する事業年度) |
3. 公開草案から修正された主な点
- 建物附属設備、構築物又はその両方のすべての資産について定率法から定額法へ変更する場合に、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものとすることが明示されました。これは、公開草案に対して寄せられたコメントの中で、建物附属設備又は構築物について、一部の事業場については引き続き会計上は定率法を採用し、それ以外の事業場については定額法を採用する場合であっても、本実務対応報告を適用することが認められるかというコメントを踏まえた修正とされています(ASBJコメント対応「主なコメントの概要とそれらに対する対応」4)。
- 本実務対応報告の結論の背景において、平成28年4月1日以後、建物附属設備又は構築物を取得したかどうかにかかわらず、平成28年税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを意図している旨が明示されています。また、平成28年度税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合、建物附属設備又は構築物を取得していない場合も、上記の1.(2)の注記を記載することも明示されています。
なお、本稿は本実務対応報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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