会計情報トピックス 村上勇太
企業会計基準委員会が平成27年6月30日に公表
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成27年6月30日に「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下「修正国際基準」という。)を公表しています。
2013年6月に企業会計審議会より公表された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下「当面の方針」という。)において、国際会計基準(IFRS)の任意適用の積上げを図るための方策の一つとして、IFRSのエンドースメント手続を実施すべきことが記載されました。これを受けて、企業会計基準委員会に「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」が設置され、2013年8月から検討が行われてきました。
エンドースメント手続は、国際会計基準審議会(以下「IASB」という。)により公表された会計基準及び解釈指針について、我が国で受け入れ可能か否かを判断したうえで、必要に応じて、一部の会計基準等について「削除又は修正」して採択する仕組みです。現在、我が国においてIFRSの任意適用会社が使用している指定国際会計基準については、IASBにより公表された会計基準等の一部を指定しないことも可能な枠組みとなっていますが、現時点ではすべてが「指定」されており、結果として指定国際会計基準はIASBにより公表された会計基準等と同一なものとなっています。当面の方針では、ピュアなIFRSの適用は維持する必要があるとされており、修正国際基準(JMIS)は、日本の資本市場で認められる会計基準としては、日本基準、米国基準、指定国際会計基準に次ぐ四つ目の会計基準となります。
1. 修正国際基準の概要
(1)修正国際基準の構成
修正国際基準は、2012年12月31日現在でIASBにより公表されている会計基準等を対象にエンドースメント手続(以下「初度エンドースメント手続」という。)を行い、公表されたものであり、以下によって構成されます。
- 「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公表にあたって(以下「公表にあたって」という。)
- 修正国際基準の適用
- 企業会計基準委員会による修正会計基準第1号「のれんの会計処理」
- 企業会計基準委員会による修正会計基準第2号「その他の包括利益の会計処理」
修正国際基準(JMIS)は、IASB が公表した会計基準等を直接「削除又は修正」せず、「削除又は修正」した箇所について「企業会計基準委員会による修正会計基準」を公表する方式を採用していますが、これは以下の理由によるとされています(「公表にあたって」第14項-第16項)。
- 財務諸表利用者が「削除又は修正」の内容を容易に識別できるようになる。
- 「削除又は修正」を行った理由をより明瞭に示すために、主要な論点ごとに修正会計基準にまとめることが適切と考えられる。
- 修正国際基準がIFRS から派生したものであることがより明らかになると考えられる。
修正国際基準では、2012年12月31日現在でIASBにより公表されている会計基準等のうち、企業会計基準委員会による修正会計基準第1号「のれんの会計処理」及び同第2号「その他の包括利益の会計処理」による「削除又は修正」を提案しているもの以外については、「削除又は修正」を行うことなく採択しています。
(2)エンドースメント手続の意義(「公表にあたって」第9項-第12項)
エンドースメント手続の意義について、修正国際基準では、以下の事項が挙げられています。
- 我が国における会計基準に係る基本的な考え方と合わない場合及び実務上の困難さがある場合において、一部の会計基準等を「削除又は修正」して採択する仕組みを設けることにより、IFRS をより柔軟に受け入れることが可能となるとともに、「削除又は修正」する項目についての我が国の考え方を意見発信することが可能となると考えられる。
- IASB による検討過程において、IFRS の開発に対して我が国の考え方を適切に表明していくことにより、我が国において受け入れ可能な会計基準等の開発をIASB に促すことが期待される。
- エンドースメント手続における議論を通じて、我が国の市場関係者におけるIFRS への理解とより高品質な基準開発に向けた裾野の広い議論が深まることも期待される。
(3)「削除又は修正」の判断基準(「公表にあたって」第19項-第23項)
修正国際基準では、エンドースメント手続の実施においては、「削除又は修正」を必要最小限とすること、すなわち、可能な限り受け入れることとしたうえで、十分な検討を尽くし、我が国における会計基準に係る基本的な考え方及び実務上の困難さの観点からなお受け入れ難いとの結論に達したもののみを「削除又は修正」することが適切であるとの考え方が採られています。
(4)修正会計基準第1号「のれんの会計処理」
IFRSではIFRS第3号「企業結合」により、のれんの償却が禁止されています。これに対して修正国際基準では、のれんは投資原価の一部であり、企業結合後の成果に対応させて費用計上すべきものであるとの考え方に基づき、のれんの非償却処理について「削除又は修正」し、企業結合で取得したのれんは、耐用年数(上限は20年)にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。また、関連会社又は共同支配企業に対する投資に係るのれんについても、同じく耐用年数にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却するようにIAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の規定を「削除又は修正」します。一方、企業結合で取得した無形資産の識別などの関連する論点については、「削除又は修正」を必要最小限にするなどの理由により、「削除又は修正」を行っていません。
(5)修正会計基準第2号「その他の包括利益の会計処理」
IFRSでは、以下の項目について、その他の包括利益に計上した後に、当期純利益に組替調整(リサイクリング処理)しない会計処理(ノンリサイクリング処理)を採用しています。
- 「その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品への投資の公正価値の変動(IFRS第9号「金融商品」)」
- 「純損益を通じて公正価値で測定する金融負債の発行者自身の信用リスクに起因する公正価値の変動(IFRS第9号「金融商品」)」
- 「 確定給付負債又は資産(純額)の再測定(IAS第19号「従業員給付」)」
これに対して修正国際基準では、当期純利益の総合的な業績指標としての有用性が低下すると考え、上記の項目に関するノンリサイクリング処理について「削除又は修正」し、リサイクリング処理を行います。
ここで、その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品については、純損益の総合的な業績指標としての有用性を保つためには、その価値が相当程度下落したときに減損損失を認識することが必要であるとの考え方に基づき、IAS第39号「金融商品-認識及び測定」第61項の規定に基づく減損処理を導入しています。
一方、確定給付負債又は資産(純額)の再測定についてリサイクリング処理するように「削除又は修正」することに関連して、過去勤務費用及び利息純額アプローチについても検討が行われましたが、これらについては「削除又は修正」を行っていません。
また、有形固定資産及び無形資産の再評価モデルに係る再評価剰余金については、実体資本維持の概念に基づくものかどうか議論されているものであり、上記のその他の包括利益に認識する項目のノンリサイクリング処理とは異なる側面が見受けられるため、「削除又は修正」を行っていません。
(6)ガイダンスや教育文書の開発(「公表にあたって」第35項-第37項)
修正国際基準にはガイダンスや教育文書は含まれていません。
ガイダンスや教育文書については、指定国際会計基準に関する実務への影響を勘案し、検討する対象を指定国際会計基準と修正国際基準の双方とするかも含めて、今後さらに検討を行っていくこととされています。
2. 適用時期
修正国際基準は2016年3月31日以後終了する連結会計年度に係る連結財務諸表から適用することができます。四半期連結財務諸表に関しては、2016年4月1日以後開始する連結会計年度に係る四半期連結財務諸表から修正国際基準を適用することができます。
3. 公開草案から変更された主な点
今回公表された修正国際基準は、2014年7月31日公表の公開草案からの変更はほとんどありません。ただし今回の基準書においては、上記2.の適用時期が定められています。
なお、本稿は修正国際基準の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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