「我が国の引当金に関する研究資料」のポイント

2013年7月2日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計情報トピックス 会計監理部
武澤玲子・岡田眞理子

日本公認会計士協会から平成25年6月24日付で公表

平成25年6月24日付けで、日本公認会計士協会から会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料」(以下「本研究資料」という。)が公表されました。以下では、そのポイントについて解説します。

1. 本研究資料の位置づけ

本研究資料は、我が国に引当金に関する包括的な会計基準が設定されていない状況の下で、会員が引当金の計上基準を検討する上での一助となるような資料としてこれまでの検討経過を記載したものですが、会計基準ではないため、実務を拘束するものではない点にご留意ください。
また、国際財務報告基準(IFRSs)に照らした考察も行われていますが、我が国の引当金の考察を深めるために行ったものであり、IFRSsの解釈を示すものではなく、あくまでも現時点における一つの考え方を示したものにすぎないとされています。
なお、本研究資料は、引当金の計上基準に関する現時点での考え方の一つを示しているものであり、コメントの募集は行われていません。

2. 本研究資料のポイント

(1)具体的事例の考察

以下の内容の引当金についてケースごとにそれぞれ、具体的事例と会計処理の考え方を示しています。また、参考としてIFRSsの基準等に照らした考察を行っています。

① 従業員・役員への給付(従業員への退職給付引当金を除く)

ケース

会計処理の考え方

1:賞与引当金
  • 支給日に在籍することが賞与支給の条件となっている場合、賞与支給の全部又は一部が当期末までの従業員の勤務に起因しているか否か、及び賞与支給の可能性等を検討して引当金を認識することになると考えられる
  • 決算賞与については支給理由、支給額の算定方法、支給時期などを総合的に勘案
  • 期末日をまたぐ一定期間の成果に基づいて支給額が算定される賞与については、当期末までの実績を踏まえた成果の達成可能性を合理的に見積もった上で、支給対象期間に対応して当期の負担に属する金額を引当金として計上することになると考えられる
2:役員賞与引当金
  • 当期の職務に係る役員賞与を期末日後の株主総会の決議事項とする場合であっても、当期の職務に係る額について引当金を計上する(「役員賞与に関する会計基準」第13項)
3:役員退職慰労引当金
  • 将来の役員退職慰労金の支給の全部又は一部が当期末までの役員による職務に起因しており、支給の可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合には、引当金を認識することになると考えられる

② 収益認識に関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

4:製品保証引当金
  • 製商品の修理や交換に無償で応じる契約に基づいて負担する費用は、金額を合理的に見積もることができる場合、製商品の販売時に引当金を認識することになると考えられる
5:返品調整引当金
  • 将来の返品が予想され、過去からの商慣習や口頭等の事実上の合意によって返品の額を合理的に見積ることができる場合、販売時点で収益及び返品調整引当金を認識することになると考えられる
6:売上値引引当金・売上割戻引当金
  • 過去からの商慣習や口頭等の事実上の合意によって売上値引額や売上割戻額を考慮した売上金額を合理的に見積もることができる場合、収益及び売上値引引当金・売上割戻引当金を認識することになると考えられる
7:ポイント引当金
  • 商品やサービスと交換可能なポイントの付与が約款や広く周知された撤回不能な方針等に基づいている場合、通常、ポイントの付与時に引当金を認識することになると考えられる

③ 不利な契約に関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

8:工事損失・受注損失引当金
  • 工事損失の発生可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる場合には、引当金を認識する(「工事契約に関する会計基準」第19項)
9:買付契約に関連する引当金
  • 当期以前の契約締結及び当期末までの環境変化に起因し、損失の発生可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる場合、引当金を認識することになると考えられる
10:転貸損失引当金
  • 当期以前に締結した解約不能の賃借契約による転貸損失の発生可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる場合、引当金を認識することになると考えられる

④ 訴訟・法令違反等に関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

11:訴訟損失引当金
  • 監査報告書日までに敗訴又は支払いを伴う和解が確定した場合や、裁判のいずれかの段階で敗訴した場合には、期末日において引当金を認識することになると考えられる
12:独占禁止法等の違反に関連する引当金
  • 当期以前の事象に起因して課徴金等が発生する可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合には、引当金を認識することになると考えられる
13:リコール損失引当金
  • 企業会計原則注解【注18】(以下「注解18」とする。)の要件を満たす場合には、法令に基づく回収か企業の自主的な判断による回収かに関わらず引当金を認識すると考えられる

⑤ 債務保証に関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

14:債務保証損失引当金
  • 主たる債務者の財政状態の悪化等により、保証人が保証債務を履行し、その履行に伴う求償権が回収不能となる可能性が高い場合で、損失を合理的に見積もることができる場合には、引当金を計上する必要がある(監査・保証実務委員会実務指針第61号4.(1))

⑥ 将来の費用又は損失に関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

15:修繕・特別修繕引当金
  • 注解18の要件を満たす場合には、法律に基づく点検か否か、大型設備の修繕か否かに関わらず引当金を認識することになると考えられる
16:将来の営業損失
  • 過去の不利な契約の締結により生じる損失を除き、将来の営業損失は引当金の認識要件を満たさないと考えられる

⑦ 環境対策及びリサイクルに関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

17:環境対策引当金、環境安全対策引当金
  • 損失の発生する可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる場合には、法的義務がなくても引当金を認識することになると考えられる
18:リサイクル費用引当金・再資源化費用等引当金
  • 金額を合理的に見積ることができる場合には引当金を認識することになると考えられる

⑧ リストラクチャリングに関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

19:事業構造改善引当金、事業撤退損失引当金、事業整理損失引当金等
  • リストラクチャリングに伴い発生する費用又は損失については、原則として、固定資産の減損損失、投資有価証券の減損、貸倒引当金、未払退職金等のそれぞれの会計基準を適用して会計処理し、表示することになると考えられるが、それ以外の費用又は損失の引当金の認識時期は、注解18の要件を満たした時点になると考えられる
20:本社移転損失引当金、移転費用引当金、店舗閉鎖損失引当金等
  • 移転又は閉鎖の方針を決定しただけで期末日までに移転が行われていない場合には、一般的には引当金の認識要件を満たしている場合は多くないものと考えられる
21:リストラクチャリングに伴う割増退職金等
  • 早期退職制度に係る割増退職金が引当金の要件を満たすかどうかについては、期末日までのリストラクチャリング計画の進捗状況に応じて、慎重な判断が必要になる
  •  リストラクチャリング計画を経営者が決定したのみの段階では、一般的に引当金の認識要件を満たさないと考えられる

⑨ 業界特有の引当金

ケース

会計処理の考え方

22:利息返還損失引当金
  • 利息返還の請求があるが和解に至っていないものがある場合、又は、請求はないが今後返還の請求が見込まれる場合は引当金を計上することになる

⑩ 負債の認識の中止に関連する引当金

ケース

会計処理の考え方

23:睡眠預金に対する引当金
  • 負債計上を中止し、収益に計上した場合、将来の返還(支払)リスクに対する備えとして注解18の引当金計上の要否を検討する必要がある
24:商品券・旅行券等に対する引当金
  • 負債計上を中止し、収益に計上した場合、将来の使用に対する備えとして注解18の引当金計上の要否を検討する必要がある

⑪ その他

ケース

会計処理の考え方

25:株主優待引当金
  • 期末日以前に株主優待の内容が株主に公表されている場合、基準日時点で引当金を認識することになると考えられる
26:災害損失引当金
  • 当期以前に発生した災害を直接の原因とする費用については引当金を認識することになると考えられる
    (例) 固定資産、棚卸資産の撤去・取壊、廃棄費用(撤去・取壊以外に選択肢がない場合)、原状回復や修繕費(資本的支出となる額を除く)
  • 災害の発生との因果関係が必ずしも直接的とはいえない項目は引当金の要件を満たさないのが一般的と考えられる
    (例) 災害を受けて期末日後に本社等を移転する場合の移転費用、取引先や従業員に対する見舞金、復旧支援費用、返品受け入れに要する費用
  • 受取保険金が確定した場合、保険金による補填分を差し引いて引当金を測定、又は補填分を資産計上する処理のいずれの方法もあると考えられる

(2)引当金の開示

引当金の開示規則として詳細な定めはなく、具体的な事例においても、定型的な記述が多く、訴訟や偶発事象の開示においても内容を詳細に記述した事例は多くないとしています。その上で、我が国における引当金の開示が財務諸表利用者にとって十分なものとなっているかについて、あらためて検討されることを期待するとされています。

(3)付録. 我が国の会計基準とIAS37との比較

引当金の認識、測定及び表示について、我が国の現状とIAS37の取扱いの比較を行っています。

なお、本稿は本研究資料の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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