会計情報トピックス 吉田剛
企業会計基準委員会が平成23年2月25日に公表
平成23年2月25日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より「金融商品会計基準(金融負債の分類及び測定)の見直しに関する検討状況の整理」(以下、「検討状況の整理」という。)が公表されています。
この検討状況の整理は、平成21年5月にASBJより公表された「金融商品会計の見直しに関する論点の整理」で示された論点のうち、公正価値オプションや複合金融商品の区分処理を含め、金融負債の分類及び測定に関して、その後の検討状況等を踏まえ、会計基準等の公開草案に近い形でその方向性を示すものとなっています。いずれの論点も、平成22年10月に改訂された国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」(以下、「IFRS第9号」という。)とのコンバージェンスが強く意識された内容となっています。
なお、平成23年4月25日(月)までがコメント募集期間とされています。
1. 目的(検討状況の整理第1項など)
検討状況の整理は、金融商品会計基準の現行基準の見直しプロジェクトの一環として、主に金融負債の分類及び測定に関する部分について、必要な内容を整理することを目的としているものとされています。
なお、我が国の金融商品に係る会計基準の体系は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」を中心に、同じくASBJから公表されている企業会計基準適用指針、実務対応報告が数多く公表されていますが、実務上の論点は、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に定められる事項が多くあります。最終的な会計基準の見直しの際に、同実務指針の一部改訂を提言するか、あるいは(退職給付会計のように)全面的に新たな体系として見直しを行うか否かは決定されていないと記載されています(検討状況の整理第4項)。
2. 検討状況の整理で示された論点
(1)金融負債の分類及び測定の基本的なモデル(検討状況の整理第11項など)
金融負債の分類及び測定の基本的なモデルとして、平成22年10月に改訂されたIFRS第9号を基礎に、原則として、当初認識後償却原価で測定するものとして分類し、その後の分類変更を認めないとすることが提案されています。
ただし、売買目的の金融負債及び一定のデリバティブ(ヘッジ会計が適用されるもの以外など)については、公正価値で測定し、評価差額を純損益に認識する分類とすることが示されています。また、金融保証契約や市場金利よりも低い金利を貸出条件とする貸出コミットメントは、企業会計原則注解(注18)(引当金に係る定め)による金額か、前受収益として測定される金額のいずれか高い金額で測定することが考えられるとされています。
(2)公正価値オプション(検討状況の整理第12項など)
検討状況の整理では、金融負債についても(*1)、公正価値オプション(金融負債の当初認識時に公正価値評価(評価差額は当期純利益に反映)する分類に指定すること)の適用を認める提案がなされています。
すなわち、現行IAS第39号「金融商品:分類及び測定」やIFRS第9号で認められる公正価値オプションについて、以下のいずれかの条件を満たすことを条件として、当該オプションを経営者に与えることが提案されています。
- 会計上のミスマッチが取り除かれるか大幅に削減される
- 金融負債のグループ等が公正価値をベースに管理され業績評価されており、当該情報が企業の経営者に対して提供されていること
(*1)金融資産については、平成22年8月に公表された「金融商品会計基準(金融資産の分類及び測定)の見直しに関する検討状況の整理」(以下「金融資産検討状況の整理」という。)で公正価値オプションを認める提案がすでになされています。
(3)払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合商品の取扱い(検討状況の整理第13項から第18項など)
払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合商品については、原則として一体処理することが提案されています。ただし、組込デリバティブの経済的性格及びリスクが、主契約の経済的性格及びリスクと密接に関連していないこと等の要件を満たす場合には、区分処理することが考えられるとされています。
なお、現行基準(企業会計基準第12号「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理」第4項)で認められている、管理上組込デリバティブを区分している場合に、会計処理上も区分処理を認めるとする定めの取扱いについては、以下の2つの考え方が示されています。
【案1】 特段の定めを設けず、区分処理の要件を満たした場合にのみ区分処理を認める
【案2】 現行基準と同様、区分処理を認める
(4)信用リスクの変動に起因する公正価値の変動額の取扱い(検討状況の整理第22項から第24項など)
公正価値オプションの指定を受けた金融負債については、一定の場合を除き、金融負債の公正価値の変動のうち、自己の信用リスクの変動に起因する公正価値の変動額をその他の包括利益として認識する一方、それ以外の原因による公正価値の変動額を純損益として認識することが提案されています。
また、その他の包括利益(累計額)に計上された評価差額について、満期前に金融負債の消滅が認識される場合、当該その他の包括利益累計額について、以下の2つの考え方が示されています。
【案A】 リサイクリングを行わない案(*2)
【案B】 リサイクリングを行う案
(*2)リサイクリング(組替調整=その他の包括利益累計額を売却時等に純損益に振り替える会計処理)を行わない会計処理は、平成22年8月に公表された金融資産検討状況の整理において、評価差額をその他の包括利益で認識するものとした資本性金融商品の売却時等の会計処理としても、2つの考え方のうちの1つとして示されています(金融資産検討状況の整理第31項 案A)。
(5)その他
検討状況の整理の末尾には、「参考」として複合商品の区分に関する分析が示されています。また、「付録」として、IFRS第9号と我が国の現行会計基準の項目別比較表が掲げられています。
3. 適用時期
検討状況の整理において、改正後会計基準等の適用時期は特に示されていません。
なお、現行基準の見直しに関して、平成22年8月に金融資産検討状況の整理が公表されていますが、これらで示された論点に加え、減損やヘッジ会計に係る論点も含めた金融商品会計基準全体の見直しについては、平成23年下期に公開草案を公表する予定であるとされています。
なお、本稿は検討状況の整理の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。