会計監理レポート 吉田剛
企業会計基準委員会が平成21年5月29日に公表
企業会計基準委員会(ASBJ)は平成21年5月29日に、「金融商品会計の見直しに関する論点の整理」(以下、論点整理)を公表しました。
論点整理では、現行の金融商品会計の見直しに関する論点について検討を行った結果が示されており、コメント提出者への21項目の質問とともに公表されています。対象となる論点は、大きく分けて三つ(金融商品会計の範囲、金融商品の測定およびヘッジ会計)となっており、また、平成21年7月29日(水)までがコメント募集期間とされています。
1. 目的(論点整理第1項および第2項)
この論点整理は、国際会計基準審議会(IASB)における金融商品会計に関する長期プロジェクトのうち、「現行基準の置換え」プロジェクトに呼応するものであり、平成23年を念頭に置いたわが国の会計基準の見直しの可能性について、議論の整理を図ることを目的とするものです。
2. 背景(論点整理第3項から第11項)
ASBJがIASBと共同で公表した「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取り組みへの合意)を踏まえ、IASBにおいて迅速な対応が図られている金融商品会計における現行基準の置き換えに呼応して、わが国においても平成23年6月末を目標とするコンバージェンスの検討対象に含められる可能性が大きいと考えられます。このため、IASBにおける本年中の議論が、今後の金融商品会計の枠組みにとって重要であり、IASBからこの9月または10月に公表される予定(※)の公開草案に対するコメント等を通じて意見発信を行っていく予定とされています。また、わが国の金融商品に関する会計基準等に関して、どのような論点についてどのように見直しを進めるべきか、整理が必要であると考えられます。
(※)本論点整理の公表議決の後、5月22日にIASBより公表されたプロジェクト状況のアップデートにおいて、公開草案を7月中に公表し、平成21年12月決算に適用可能なタイミングで基準書を公表するスケジュールが示されています。
3. 論点1 金融商品会計の範囲(論点整理第14項~第36項)
論点 |
現行日本基準における取り扱いや国際的な会計基準との差異など |
今後の方向性 |
[論点1-1] 金融商品の定義等について |
日本基準とIFRSとでは、金融商品の定義等に大きな差異は認められない。 |
今後の議論の中でこの論点を取り上げる優先順位は高くないと考えられる。 |
[論点1-2] デリバティブの定義について |
日本基準では、デリバティブを商品名の列挙によって示し、金融商品実務指針においてその特徴を補っている。 また、IFRSでは日本基準と異なり、デリバティブの特徴に「純額決済性」を含めていない。 |
現行の金融商品会計基準における商品名による定義から、特徴に焦点を当てた定義とすることが適当と考えられる。 また、「純額決済性」について、その実質的な影響が乏しいのであれば、議論の優先順位は高くないと考えられる。 |
4. 論点2 金融商品の測定(論点整理第37項~第132項)
論点 |
現行日本基準における取り扱いや国際的な会計基準との差異など |
今後の方向性 |
[論点2-1] 測定区分の見直し |
日本基準は、基本的な考え方において、国際的な会計基準とほぼ同等と考えられるが、IASBのディスカッション・ペーパー(DP)やその後の議論を受けて、今後、現行の測定区分の削減または内容の見直しが行われる可能性がある。 また、国際的な会計基準における動向等として、測定区分の削減による簡素化が一つの目標とされている。 なお、IFRSでは、金融商品の分類区分として「貸付金及び債権」という分類が設けられている。 |
公正価値で測定するか否かの規準や、一部の測定区分について具体的な見直しの可能性を整理している。 また、売却可能金融資産(その他有価証券)を縮小または削除する考え方についても、保有目的(経営者の意図)および金融商品の属性を考慮しつつ検討しているが、引き続き検討していくことが適当と考えられる。 なお、「貸付金及び債権」という分類を日本基準に設けるかどうかについても、論点として取り上げる必要があるか引き続き検討することが考えられる。 |
[論点2-2] 公正価値オプション (一定の金融商品に対して、その当初認識時に公正価値評価(評価差額は当期純利益に反映)する分類に指定すること) |
国際的な会計基準では、公正価値オプションが認められているが、肯定的見解、否定的見解の双方があり、その存続自体も明確になっていない。 |
国際的な会計基準における動向を見極めつつ、論点として取り上げる必要があるかどうか検討することが考えられる。 |
[論点2-3] 保有目的区分の変更 |
わが国における当面の取り扱いとして、実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」により、一部の保有目的区分の変更が認められている。 | [論点2-1]において、測定区分(保有目的区分)が現行どおり継続した場合に、実務対応報告第26号の取り扱いを維持すべきかどうか、当面の取り扱いを継続的な取り扱いとすべきかどうか、今後検討する。 さらに、その他有価証券から満期保有目的債券への変更について、「稀な場合」以外にまで拡張するかどうか、引き続き検討することが適当と考えられる。 |
[論点2-4] 減損処理の取り扱い |
わが国における減損処理は、収益性の著しい低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を切り下げる処理と整理されている。 日本基準では、金融資産の価値の下落を財務諸表に反映する処理のうち、直接控除を行うものが減損処理と考えられている。一方、IFRSでは直接控除と間接控除に表示以上の違いはなく、また国際的な会計基準をめぐる議論では、損失の戻し入れの要否も検討されている。 |
有価証券の減損については、減損処理の意味、認識要件、測定、ならびに子会社株式および関連会社株式の減損の取り扱いについて検討している。 減損損失の戻し入れについて、減損の意味や減損損失の認識要件とあわせて検討することが適当と考えられる。また、減損処理後の受取利息の認識について、論点として取り上げる必要があるか、引き続き検討することが考えられる。 |
[論点2-5] 複合金融商品の区分処理 |
日本基準における組込デリバティブの区分処理の要否は、そのリスクが現物の金融資産・負債に及ぶかどうかにより判断される。 一方、国際的な会計基準では、主契約とデリバティブ部分の経済的性格やリスクの関連性により判断される。 |
組込デリバティブの区分処理の要件について、コンバージェンスの観点も踏まえ、論点として取り上げる必要があるか、引き続き検討することが考えられる。 |
5. 論点3 ヘッジ会計(論点整理第133項~第231項)
論点 |
現行日本基準における取り扱いや国際的な会計基準との差異など |
今後の方向性 |
[論点3-1] ヘッジ会計の意義 |
ヘッジ会計の意義等については、日本基準と国際的な会計基準との間で大きな差異は認められない。 |
今後の検討の中でこの論点を取り上げる優先順位は高くないと考えられる。 |
[論点3-2] ヘッジ会計の方法について |
公正価値ヘッジの会計処理に関して、IASBのDPでその見直しの可能性が示唆されている。 また、日本基準においては、金利スワップの特例処理や為替予約等の振当処理といった合成商品会計が認められている。 |
公正価値ヘッジに関するIASBのDPにおける見直しの提案(①公正価値オプションの適用拡大②繰延ヘッジ会計の適用)について、引き続き意見発信を含む検討を行うことが適当と考えられる。 また、合成商品会計については、ヘッジ手段とヘッジ対象の一体的取り扱いの合理性を中心に、実務への影響等を踏まえて検討することが適当と考えられる。 |
[論点3-3] ヘッジ会計の簡素化の可能性 |
IASBのDPにおいて、ヘッジ会計の簡素化が取り上げられている。 | ①文書化、②有効性、③ヘッジ指定の解除および④部分ヘッジの取り扱いに関して、とりわけ②・③について簡素化の可能性を検討していくことが考えられる。 |
[論点3-4] 包括ヘッジ |
IASBのDPでは、簡素化の可能性の一つとして、包括ヘッジの取り扱いに触れている。 | 現行の包括ヘッジの要件を整理し、改善すべき事項や簡素化への対応を検討しているが、包括ヘッジの緩和については、論点として取り上げるかどうか、引き続き検討していくことが考えられる。 |
[論点3-5] ヘッジ会計に関連する開示 |
日本基準における定性的な開示は、国際的な会計基準と類似しているが、定量的な開示についてはいまだ相違が見られる。 | 開示の拡充の必要性について検討しているが、定量的な開示に関する説明の充実を検討することが適当と考えられる。 |
6. コメント提出者への質問(論点整理第13項)
この論点整理では、コメント提出者の便宜のため、各論点について質問が掲げられています。このような形式は、IASBから公表される論点整理(ディスカッション・ペーパー)や公開草案(エクスポージャー・ドラフト)で従来、採用されていたものです。なお、コメントは質問項目に限られるものではなく、また質問のすべてについて回答する必要は必ずしもないものとされています。
以下では、質問項目を抜粋して記載しますが、すべての質問項目をご覧になりたい方は、論点整理本文をご参照ください。
(論点整理で掲げられている質問の抜粋)
(4)売却可能金融資産(その他有価証券)の分類を縮小又は削除する可能性についてどのように考えますか。それは金融商品会計の複雑性の解消にどのように役立ちますか。
(11)減損損失の認識及び測定としてどのような方法が適切と考えますか。
(16)金利スワップの特例処理や為替予約等の振当処理のようなヘッジ会計における合成商品会計は見直す必要がありますか。
(18)ヘッジ会計における文書化、有効性、ヘッジ指定解除、部分ヘッジについて、簡素化やその他の観点も踏まえ、どのような改善が適切と考えますか。
本稿は「『金融商品会計の見直しに関する論点の整理』の公表」の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。