会計監理レポート
1. はじめに
平成21年3月27日に法務省令第七号が公布され、会社計算規則が改正されました。以下に改正内容の概要を記載します。
2. 会社計算規則の改正概要
(1)会社計算規則第2条第3項の定義の新設および定義の修正
① 会社計算規則第2条第3項の定義で新設された定義
② 会社計算規則第2条第3項の定義で修正された主な定義
- 満期保有目的の債券
改正前会社計算規則第2条第3項第二十八号の満期保有目的の債券の定義について、かっこ書きで「満期まで所有する意図をもって取得したものに限る。」と規定していたのを、改正後第二十七号では、かっこが削除されました。
この改正は、満期保有目的の債券の定義に関し、債券の取得後に満期保有目的への変更が許容されるものについても時価評価をすることができる場合に該当しない場合(第5条第6項第二号かっこ書き参照)があることを明確化するものです。 - 新設合併取得会社
(2)改正企業結合会計基準等の公表に伴う改正
① 組織再編等におけるのれん、特別勘定および株主資本等に係る規定の改正
改正案公表時に同時に公表された「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案の概要」では、企業結合会計基準等における持分プーリング法の廃止等の国際的な会計基準とのコンバージェンスに対応するために所要の改正を行うとともに、関連規定の合理化およびこれに伴う形式的整備に係る改正であり、コンバージェンスに対応する部分を除き、のれん、株式等に係る特別勘定および株主資本等の計算に関する規律の実質は、現行の会社計算規則と異なるものではないが、改正案では規定の合理化の観点から会計上当然に定まるものであるのれんおよび特別勘定の額ならびに組織再編等によって変動する株主資本等の総額に関する部分につき、基本的な事項のみを規定することとするものであると述べられています。
- のれんに関する規定の改正
会社計算規則第11条を改正し、改正前会社計算規則第12条から第29条が削除されました。 - 株式および持分に係る特別勘定に関する規定の改正
改正前会社計算規則第30条から第35条が削除され、第12条が改正されました。 - 吸収合併の規定の改正
- 吸収型再編対価の全部または一部が吸収合併存続会社の株式または持分である場合における吸収合併存続会社の株主資本等の変動額
改正前会社計算規則第58条の規定が改正後第35条で改正されました。 - 株主資本等を引き継ぐ場合における吸収合併存続会社の株主資本等の変動額
改正前会社計算規則第59条の規定が改正後第36条で改正されました。
- 吸収型再編対価の全部または一部が吸収合併存続会社の株式または持分である場合における吸収合併存続会社の株主資本等の変動額
- 吸収分割
- 吸収型再編対価の全部または一部が吸収分割承継会社の株式または持分である場合における吸収分割承継会社の株主資本等の変動額
改正前会社計算規則第63条の規定が改正後第37条で改正されました。 - 株主資本等を引き継ぐ場合における吸収分割承継会社の株主資本等の変動額
改正前会社計算規則第64条の規定が改正後第38条で改正されました。
- 吸収型再編対価の全部または一部が吸収分割承継会社の株式または持分である場合における吸収分割承継会社の株主資本等の変動額
- 株式交換
改正前会社計算規則第68条および第69条の規定が改正後第39条で改正されました。 - 持分会社に関する特則
改正前会社計算規則第70条の持分会社に関する特則について削除されました。 - 新設合併
- 支配取得に該当する場合における新設合併設立会社の株主資本等
改正前会社計算規則第76条の規定が改正後第45条で改正されました。 - 共通支配下関係にある場合における新設合併設立会社の株主資本等
改正前会社計算規則第77条の規定が改正後第46条で改正されました。 - 株主資本等を引き継ぐ場合における新設合併設立会社の株主資本等
改正前会社計算規則第78条の規定が改正後第47条で改正されました。 - その他の場合における新設合併設立会社の株主資本等
改正前会社計算規則第79条の規定が改正後第48条で改正されました。
- 支配取得に該当する場合における新設合併設立会社の株主資本等
- 新設分割
- 単独新設分割の場合における新設分割設立会社の株主資本等
改正前会社計算規則第80条の規定が改正後第49条で改正されました。 - 株主資本等を引き継ぐ場合における新設分割設立会社の株主資本等
改正前会社計算規則第81条の規定が改正後第50条で改正されました。
- 単独新設分割の場合における新設分割設立会社の株主資本等
- 株式移転
改正前会社計算規則第83条の規定が改正後第52条で改正されました。 - 持分会社に関する特則
改正前会社計算規則第84条の持分会社に関する特則について削除されました。
② 募集株式の発行および新株予約権の行使等に伴う資本金等増加限度額ならびに設立時の株主資本等に係る規定の改正
改正案公表時に同時に公表された「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案の概要」では、募集株式の発行および新株予約権の行使に伴う資本金等増加限度額ならびに設立時の株主資本等の計算に係る規定について、その実質には変更はないものの、金銭を出資する場合と金銭以外の財産を出資する場合とに区分すること等により規定の構造を明確化するとともに、規定の合理化を行うものであると述べられています。
- 募集株式を引き受ける者の募集を行う場合
改正前会社計算規則第37条の規定が改正後第14条で改正されました。 - 新株予約権の行使があった場合
改正前会社計算規則第40条の規定が改正後第17条で改正されました。 - 株式会社の設立時の株主資本
改正前会社計算規則第74条の規定が改正後第43条で改正されました。 - 持分会社の設立時の社員資本
改正前会社計算規則第75条の規定が改正後第44条で改正されました。
(3)財務諸表規則等の改正に伴う整備
平成20年6月6日、同年8月7日および同年12月12日にそれぞれ公布された内閣府令(平成20年内閣府令第36号、同第50号および同第80号)等による財務諸表等の用語、様式および作成方法に関する規則等(以下、財務諸表規則等)の改正に対応するため、会社計算規則の関連規定を整備する改正です(改正後会社計算規則第75条、第77条、第93条、第98条、第102条、第109条、第110条、第111条等)。
① 負債の部の区分
改正前会社計算規則第107条の規定が改正後第75条に移設され、同条第2項第一号ヌ、第二号トで、資産除去債務に関する規定が新設されました。
② たな卸資産および工事損失引当金の表示
改正後第77条で、「たな卸資産及び工事損失引当金の表示」に関する規定が新設されました。
③ 少数株主損益調整前当期純利益の表示
改正後第93条第1項第三号で、少数株主損益調整前当期純利益の表示に関する規定が新設されました。
④ 注記表
- 金融商品に関する注記
改正後第98条第1項第八号および改正後第109条で、「金融商品に関する注記」に関する規定が新設されました。
連結注記表を作成する場合には、個別注記表に記載することは要しないとされています(同条第2項)。 - 賃貸等不動産に関する注記
改正後第98条第1項第九号および改正後第110条で、「賃貸等不動産に関する注記」に関する規定が新設されました。
連結注記表を作成する場合には、個別注記表に記載することは要しないとされています(同条第2項)。 - 持分法損益等に関する注記
改正後第98条第1項第十号および第111条で「持分法損益等に関する注記」に関する規定が新設されました。
また、「持分法損益等に関する注記」については、金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない会社以外の会社については、注記を要しないとされています(改正後会社計算規則第98条第2項第三号)。なお、連結注記表には、「持分法損益等に関する注記」を要しないものとされています(同項第四号)。 - 開示対象特別目的会社がある場合の注記(改正後第102条第1項第一号ホ)
改正後第102条第1項第一号ホで「開示対象特別目的会社」がある場合に、連結の範囲に関する事項として注記を求める規定が新設されました。
(4)株式会社が資本金の額を増加する場合の原資を資本準備金およびその他資本剰余金に限定しないものとする改正
改正前会社計算規則第48条第1項第一号の準備金のかっこ書き(「資本準備金に限る」との規定)および第二号の剰余金のかっこ書き(「その他資本剰余金に限る」との規定)が改正後第25条で削除されました。
3. 施行日
本改正省令は平成21年4月1日から施行されます(附則第1条)。
4. 経過措置
① 計算関係書類に関する経過措置
資産除去債務および少数株主損益調整前当期純利益の表示(附則第8条第1項)
この省令による改正後の会社計算規則(以下、新会社計算規則)第2条第3項第五十六号(資産除去債務)、第75条第2項第一号ヌ(流動負債に表示される資産除去債務)および同項第二号ト(固定負債に表示される資産除去債務)ならびに第93条第1項第三号(少数株主損益調整前当期純利益の表示)の規定は、平成22年4月1日前に開始する事業年度に係る計算関係書類については、適用しないとされています。ただし、同日前に開始する事業年度に係る計算関係書類のうち、施行日以後に作成されるものについては、これらのすべての規定により作成することができるとされています。また、「これらのすべての規定」とは、資産除去債務であれば、これに関するすべての規定との意味であり、資産除去債務と少数株主損益調整前当期純利益の表示とを同時に適用することを求めている意味ではないと解されています。
なお、「資産除去債務に関する会計基準」は平成22年4月1日以後開始する事業年度から適用され、平成22年3月31日以前に開始する事業年度から適用することもでき、上記の経過措置の規定は同会計基準の適用時期と実質的に整合しています。
「連結財務諸表に関する会計基準」の「少数株主損益調整前当期純利益」の表示に関する定めは、平成22年4月1日以後開始する連結会計年度から適用され、平成21年4月1日以後に開始する連結会計年度から適用することもできると定められています。
工事契約およびたな卸資産および工事損失引当金の表示(附則第8条第2項)
新会社計算規則第2条第3項第五十七号(工事契約)および第77条(たな卸資産および工事損失引当金の表示)の規定は、施行日前に開始する事業年度に係る計算関係書類については、適用しないとされています。ただし、施行日前に開始する事業年度に係る計算関係書類のうち、施行日以後に作成されるものについては、これらのすべての規定により作成することができるとされています。なお、「工事契約に関する会計基準」は、同会計基準公表日(平成19年12月27日)後、平成21年3月31日以前に開始する事業年度から適用され、上記の経過措置の規定は同会計基準の適用時期と実質的に整合しています。
金融商品および賃貸等不動産(附則第8条第3項)
新会社計算規則第2条第3項第五十八号(金融商品)および第五十九号(賃貸等不動産)、第98条第1項第八号(金融商品に関する注記)および第九号(賃貸等不動産に関する注記)、第109条(金融商品に関する注記)ならびに第110条(賃貸等不動産に関する注記)の規定は、平成22年3月31日前に終了する事業年度に係る計算関係書類については、適用しないとされています。ただし、同日前に終了する事業年度に係る計算関係書類のうち、施行日以後に作成されるものについては、これらのすべての規定により作成することができるとされています。また、「これらのすべての規定」とは、金融商品であれば、これに関するすべての規定との意味であり、金融商品の開示に関する改正と賃貸等不動産の開示に関する改正とを同時に適用することを求めている意味ではないと解されています。
なお、「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」は、平成22年3月31日以後に終了する事業年度末に係る財務諸表から適用され、当該事業年度以前の事業年度の期首から適用することもでき、上記の経過措置の規定は同会計基準の適用時期と実質的に整合しています。
「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」は平成22年3月31日以後に終了する事業年度末に係る財務諸表から適用され、当該事業年度以前の事業年度の期首から適用することもでき、上記の経過措置の規定は同会計基準の適用時期と実質的に整合しています。
持分法損益等に関する注記(附則第8条第4項)
新会社計算規則第98条第1項第十号(持分法損益等に関する注記)、第102条第一号ホ(開示対象特別目的会社に関する注記)および第111条(持分法損益等に関する注記)の規定は、平成20年4月1日前に開始する事業年度に係る計算関係書類については、適用しないとされています。従って、平成21年3月末決算について、適用されます。
部分時価評価法廃止関係(附則第8条第5項)
平成22年4月1日前に開始する事業年度に係る連結計算書類のうち、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記については、連結子会社の資産および負債の評価に関する事項を含むものとするとされています。「連結財務諸表に関する会計基準」の「部分時価評価法」廃止に関する定めは、平成22年4月1日以後開始する連結会計年度から適用され、平成21年4月1日以後に開始する連結会計年度から適用することもできます。
「連結財務諸表に関する会計基準」を早期適用する場合であっても、上記の会社計算規則の経過措置の規定によれば、「連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項」に、変更後の「連結子会社の資産及び負債の評価に関する事項」(全面時価評価法を採用している旨)を記載することとなります。
② 募集株式の発行等に際しての計算に関する経過措置
施行日前に会社法第199条第2項に規定する募集事項の決定があった場合における株式の発行または自己株式の処分に際しての計算については、なお従前の例によるとされています(附則第9条第1項)。
また、施行日前に新株予約権の行使があった場合における株式の発行または自己株式の処分に際しての計算については、なお従前の例によるとされています(附則第9条第2項)。
③ 吸収合併等に際しての計算に関する経過措置
施行日前に吸収合併契約、新設合併契約、吸収分割契約または株式交換契約が締結された吸収合併、新設合併、吸収分割または株式交換に際しての計算については、なお従前の例によるとされています(附則第10条第1項)。
また、施行日前に新設分割計画または株式移転計画が作成された場合における新設分割または株式移転に際しての計算については、なお従前の例によるとされています(附則第10条第2項)。
④ 会社の設立に際しての計算に関する経過措置
施行日前に定款の認証を受けた定款に係る株式会社の設立に際しての計算については、なお従前の例によるとされています(附則第11条第1項)。
また、施行日前に作成された定款に係る持分会社の設立に際しての計算については、なお従前の例によるとされています(附則第11条第2項)