分散型金融(DeFi)は各業界にどんなパラダイムシフトをもたらすか

執筆者
Greg Damalas

Senior Manager, Capital Markets, Ernst & Young LLP

Transformation leader focused on the most pressing issues and innovations within banking and capital markets. Traveler. Music enthusiast. Avid skier.

Aaron Stafford

Manager, Technology Consulting, Ernst & Young LLP

Transformation leader focused on helping businesses understand, assess and adopt blockchain technology and distributed ledger systems. Avid reader. Traveler. Golf enthusiast.

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EY Japan フィンテックリーダー/ブロックチェーン・コンサルティング・ビジネスリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジックインパクト パートナー

長年にわたる戦略コンサルティングの経験を持つ。何事も前向きに、強い心をもって対応することを心がけている。

5 分 2021年12月21日

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DeFiは、従来の金融サービスのあり方を根本から変える金融サービスです。

要点
  • DeFiは、台頭するデジタルエコノミーの発展において最も影響力のある取り組みの1つである
  • DeFiは、金融仲介のあり方に変革を迫るものである
  • 企業は、DeFiがもたらすオポチュニティとビジネスリスクを見極める必要がある
Local Perspective IconEY Japanの視点

日本においても複数のDeFi事業者が出現しています。金融庁では「デジタル・分散型金融への対応のあり方などに関する研究会」を設置し、業界団体も発足するなど、日本のDeFiはグローバルに追随する動きを見せています。

その一方で、金融活動作業部会(FATF)による第4次対日相互審査報告書にて、日本は重点フォローアップ国となっており、日本政府のみならず、民間事業者はその対応に追われることとなります。

また、日本ではこれまでに大規模な暗号資産流出事件が数度起こっており、2021年8月には海外のDeFiにおいて約6億米ドル相当の流出事件が発生しています。

これまで、金融庁は外国為替証拠金取引や暗号資産など、新たな金融ビジネスの市場形成の進度に合わせて規制をかけてきました。しかし、DeFiの急激な伸張と被害の甚大さが顕在化しつつある今日、規制が早期にかけられる可能性もあり、DeFi事業者はビジネスモデルの確立をしつつも、マネーロンダリング/テロ資金供与対策、サイバーセキュリティ対策を余儀なくされています。また、DeFiに接続する金融機関にとっても、こうした対策が重要な確認事項となると考えられます。

 

EY Japanの視点

荻生 泰之
EY Japan フィンテックリーダー/ブロックチェーン・コンサルティング・ビジネスリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジックインパクト パートナー

昨今のデジタル資産業界における進化のスピードには目覚ましいものがあります。こうした状況を背景に、金融機関は、暗号資産の売買やカストディのサービスに乗り出すとともに、DeFiの台頭を受け、この新しいサービスへの対応のあり方を模索しています。DeFiの成長は、今のところ、デジタルネイティブの企業やベンチャーキャピタリスト、個人投資家などによるところが大きいというのが実情です。従来型の金融機関がDeFiに参入すれば、金融業界の発展とDeFiの利用促進において重要な取り組みとなり、より広範な金融システムと既存の金融仲介機能のあり方にさまざまな影響が及ぶことが想定されます。

DeFiは、オープンソースのプロトコルを用い、インターネットを介した分散型モデルで運用されるため、金融機関がこれまで提供してきた金融仲介サービスとは異なり、既存の中央集権型金融インフラに変革を迫るものです。

そのため、DeFiは現行の金融サービスや金融のビジネスモデルには脅威となりますが、同時にシステムやサービスの強化・成長につながるさまざまなオポチュニティをもたらします。

分散型という新たな金融仲介システムに対する金融機関の対応のあり方は、台頭するデジタルエコノミーにおける金融機関の役割に後々まで影響を及ぼすことになると思われます。

金融機関や企業のDeFiへの対応のあり方が、金融システムの進化を決定付けます。

DeFiとは

DeFiは、中央集権型の金融機関への依存度を低減できる新しい金融システムの総称です。DeFiにおけるアプリケーションやプロトコルは「分散型アプリケーション(DApps)」と呼ばれ、パブリックブロックチェーンのネットワーク上に構築され動作します。DeFiでは通常、オープンソースで相互互換性のある、インターネットベースのプロトコルスタックが実装され、イーサリアムなどのパブリックブロックチェーン上に構築されたスマートコントラクトを活用して金融サービスを提供します。

パブリックブロックチェーン上で動作するスマートコントラクトは、DeFiの重要なコンポーネントです。スマートコントラクトとは、ブロックチェーンプラットフォーム上に格納されたコードであり、あらかじめ定義された契約条件が満たされた際に、仲介者を介さずに自律的に契約内容を実行する仕組みです。スマートコントラクトはいったん実行されると、後から変更することはできません。ソースコードと実行されたトランザクションの記録はブロックチェーン上で公開され、誰でも閲覧することができます。

スマートコントラクトの活用事例として、2当事者間で一定金額の通貨を別の通貨に交換するなどの通貨取引が挙げられます。当事者双方が交換したい通貨のデータを入力するとスマートコントラクトのコードがそれを検証し、取引が実行されます。その際に、取引の仲介役となる第三者は必要ありません。複数のスマートコントラクトが連携している場合、さまざまな実行機能を利用することができます。多くの場合、アプリケーションはこうした複数のスマートコントラクトの連携により動作します。

DeFiサービスについては、そのほとんどが現行の金融システムに見られる既存サービスに類似したものですが、以前は、こうした模倣ですら実現可能ではありませんでした。歴史的に見て、暗号資産は価格変動が激し過ぎるため、一般的な金融取引には適していなかったということが背景にあります。こうした問題の解決策として誕生したのが「ステーブルコイン」です。ステーブルコインには、複雑なアルゴリズムを使用して市場価値を保つ暗号資産(例:DAI)と中央集権化された信用力のあるエンティティが発行する法定通貨(例:USDC)などに連動した市場価値を保つ暗号資産があります。伝統的通貨の特性(価格の安定性、法定通貨としての機能)を再現する能力と、DeFiアプリケーションとの互換性を考慮すると、ステーブルコインは既存金融システムと同様に、より洗練された金融商品の流通を活性化する基盤となるコンポーネントとして機能すると思われます。

DeFiの重要性

この分散型モデルを仲介機関を必要とする現行のさまざまな金融取引(担保付融資、有利子預金、投資ポートフォリオ管理など)に適用した場合、既存の金融システムと仲介業者への影響は非常に大きなものになると予想されます。

従来型の金融システムと比較した場合、DeFiであれば、個人投資家は今まで以上に自身の資産管理に関与できるため、金融仲介機関に頼らずとも資産をどのように投資・運用するか自身で自由に決められます。もちろん、個人投資家が投資に関するアドバイスを必要としなくなるわけでも、従来型の金融機関が時代遅れになるわけでもありませんが、金融システムを取り巻く個人投資家と金融機関の関係性や金融上の意思決定プロセスは、今後、一変する可能性があります。

さらに、DeFiはB2B取引にも影響を与えることが想定されます。金融機関がブロックチェーンエコシステムへ参入し、デリバティブや証券などの金融資産のトークン化も広まりつつあることを踏まえると、スマートコントラクトを活用した分散型アプリケーションは、今後、金融機関の仲介役を果たすこともあり得ます。例えば、証券取引の清算をDTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)を介して行うのではなく、インターネット上のスマートコントラクトを活用して証券をトークン化すれば、オープンな市場で瞬時にトランザクションを処理できます。

DeFiが金融市場にディスラプションをもたらすと考えられるもう一つの領域は、パブリックブロックチェーン上での実世界の資産のトークン化です。これが実現すれば、商業用不動産などこれまで流動性が低いと見なされてきた資産は、パブリックブロックチェーン上で取引可能な小口化されたトークンとして表現されるようになり、企業の資産の流動性が高まります。さらに、このトークンは担保として計上できるだけでなく、DeFiプロトコル上の投資プールに預けることも可能です。さらに、トークン化は、既存のサプライチェーンにも適用され、スマートコントラクトを活用したよりオープンな市場を実現します。こうした市場では、パブリックブロックチェーン上でプライバシーを保護する技術を利用してトランザクションが実行され、取引価格は、市況によって決定されます。

DeFiがもたらすオポチュニティ

DeFiによるイノベーションはまだ初期段階にあるため、DeFiエコシステムの発展には金融機関の果たす役割が重要となります。例えば、金融機関は既存のDeFiエコシステムやインフラを活用することで、新しいサービスや商品の提供、業務効率の向上などが可能になり、収益面のオポチュニティが期待されます。さらに、この新たな金融エコシステムの進化とともに、金融機関がさまざまな変化に適応し、その変化を積極的に取り込み続ければ、金融機関は大きな成長機会をも得ることができるでしょう。

金融機関は、分散型金融アプリケーションを活用してプロセスを自動化および強化できるかどうか見極める必要があります。

分散型金融アプリケーションが従来型のプロセスや当事者にもたらし得る変化のシナリオは以下の通りです。

  • ビットコインを他の暗号資産へ変換するなどのデジタル資産取引は、インターネット上のオープンな市場で処理されます。これまで銀行や決済サービスプロバイダーが実行していたプロセスは集約され、スマートコントラクトのコードに置き換えられるため、トランザクションは自律的に実行されます。
  • 従来の金融システムでは、銀行が預金を融資や投資に運用しますが、DeFiでは、スマートコントラクトが預金を管理し、利息払いや貸し出し・借り入れは事前に定義された条件に基づいて自律的に実行されます。金利はその時の需要によって自動的に変化します。
  • デリバティブ取引は、法人または個人が契約を締結し、清算機関や仲介機関を通じて決済されるというプロセスが一般的ですが、DeFiのサービスでは、スマートコントラクトを活用してオープンな市場でトランザクションが実行されるようになります。
  • サプライチェーンにおける取引や金融取引では、物理的資産や金融資産のトークン化により、市場の正確性、効率性、透明性が向上します。

 

DeFiの参加者とDeFiに預けられている資産は今後も増加していくことが想定され、金融機関のDeFiへの関心はますます高まっていくものと思われます。DeFiアプリケーションとどのように向き合い、それをどの程度取り込んでいくのかは、リスクアペタイトや既存のケイパビリティによって金融機関ごとに異なるかもしれませんが、どの金融機関もデジタルエコノミーの到来から目を背けることはできないでしょう。

DeFiが抱えるリスク

どんなテクノロジーもイノベーションも初期段階には克服すべきさまざまな課題がつきものです。DeFiも例外ではなく、規制面の不確実性、スケーラビリティ、セキュリティ、テクノロジー関連のリスク(ソフトウエアのバグやハッキング)、分散型アプリケーションのガバナンスなど、さまざまな懸念材料があります。

DeFiにおける最大の懸念は、AML(マネーロンダリング対策)/KYC(本人確認)の領域で、双方に関するガイダンスやフレームワークはいまだ十分に整備されていません。金融活動作業部会(FATF)は、発表したガイダンス案で、DeFiアプリケーションを利用する金融機関が考慮すべきAML/KYC要件を明確に示そうとしていますが、明確にすべき重要な要素をすべて網羅しているわけではありません。DeFiサービスの独自性と複雑性を踏まえると、法的規制の明確化には時間がかかると思われます。

もう1つの大きな懸念は、サイバーセキュリティに関するリスクです。暗号資産関連のハッキングのほとんどは、悪意のある第三者によるスマートコントラクトのソースコードに潜む脆弱性の悪用や、利用者が自由に他者の資産を吸い上げたり引き出したりできてしまうような設計上の問題、あるいはプライベートキーの管理ミスや盗難などによるものです。スマートコントラクト関連のハッキングの場合、スマートコントラクトやプロトコルのレビューを徹底的に行えば、こうしたリスクは大幅に軽減されます。さらに、利用者がウォレットや鍵の管理に関する一般的な知識を身に付け、復旧やセキュリティのプロセスが確立されれば、鍵の紛失や盗難などのリスク回避につながります。

また、ガバナンスに関してもさまざまな問題提起がなされています。分散型アプリケーション(DApps)には分散型のガバナンスが適用されるため、仕様変更や更新、戦略的意思決定などのプロセスは複数のプロトコル全体を通じて改善・検証されます。一般的なガバナンスモデルとしては、自律分散型組織(DAO)の採用やトークン保有者にプロトコル変更への投票権を付与するガバナンストークンの利用などがあります。こうした分散型のガバナンスはまだ目新しいため、金融業界の発展に伴い、現行のコミュニティやプロセスも進化していくと思われます。

民間企業、規制当局、開発者、政府関係者らは、DeFiを取り巻くこうした懸念材料やリスクに対処すべく、一丸となって取り組みを実施していますが、DeFiの奥深さと幅広さを踏まえると、規制の明確化にはまだ時間を要することが想定されます。そのため、金融機関は豊富な業界特有の知識と専門的知見を生かしてこうした取り組みを後押しし、従来型金融システムと分散型金融システムのギャップ解消に向けて上記関係者と連携していくことが求められます。

結論

DeFiは、インターネットを活用したデジタルアセットや金融のトランザクションの進化において、最新で、おそらく最も重要な取り組みの1つです。従来型金融システムでは、金融機関が信用力のあるゲートキーパーとしての機能を発揮してきましたが、今後は、分散型金融エコシステムおよびその参加者と、豊富な業界経験を有する金融機関との融合が着実に進んでいくものと思われます。金融機関がこの新たな技術と金融サービスの形態に挑み、適応する準備ができているか否かが、台頭するデジタルエコノミーにおける金融機関のシステムのあり方と長期的な成功の行方を大きく左右します。

サマリー

DeFiは、金融システムやサプライチェーン、既存のビジネスモデルなどに変革を迫るものです。こうした変革からは新たなオポチュニティが生まれます。このオポチュニティから目を背けることは企業にとって得策ではありません。DeFiのサービスの急成長に伴い、規制当局はすでに対応策を検討し始めています。こうした状況に鑑みると、特に金融機関は、社会的な信用力を有するプレイヤーとして新たなパラダイムに適応できるよう早急に取り組む必要があります。

この記事について

執筆者
Greg Damalas

Senior Manager, Capital Markets, Ernst & Young LLP

Transformation leader focused on the most pressing issues and innovations within banking and capital markets. Traveler. Music enthusiast. Avid skier.

Aaron Stafford

Manager, Technology Consulting, Ernst & Young LLP

Transformation leader focused on helping businesses understand, assess and adopt blockchain technology and distributed ledger systems. Avid reader. Traveler. Golf enthusiast.

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