2024年5月9日
生成AI時代を生き抜くための思考法とは?(前編)

生成AI時代を生き抜くための思考法とは?(前編)

執筆者 矢部 直哉

EY Japan テクノロジー・メディア&エンターテインメント・テレコム・アシュアランスリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

オフタイムはゴルフ、愛犬(豆柴)の散歩でリフレッシュしている。

2024年5月9日

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「生成AIを使わなければ金魚になるぞ」――。

ソフトバンクの孫氏は常々、従業員たちにこう発破をかけているといいます。大きな変革の最中にあるビジネス環境を生き抜くために、ビジネスパーソンに求められる知識と思考法とは何なのか、業界のトップを走る識者たちがその本質を語りました。
 

要点
  • AIモデルは毎年5倍のスピードで成長しており、生成AIの市場規模は昨年度で約7兆円、2030年には30兆円規模になるのではないかと言われている。
  • 生成AIがもたらす社会的インパクトは膨大で、専門職など知的労働者の多い先進国では雇用の60%が影響を受けるという試算がある。
  • 生成AIは安価な値段で雇用できる「信頼できるコンサルタント」であり「優秀な部下」であると言える。どのようにプロンプティングすれば良い仕事が生み出せるか常に考え、実行すべきだ。

2月に配信され、好評を博したEY Japan主催ウェビナー「生成AIがテクノロジーセクターと消費者へもたらすイノベーション」。LINEヤフー株式会社の砂金 信一郎氏、ソニーグループ株式会社の小林 由幸氏、パナソニックインフォメーションシステムズ株式会社の高木 政彦氏、株式会社エクサウィザーズの前川 智明氏と、生成AIに関する深い知見を持つゲストが講演を行いました。


グローバルでの生成AIへの活発な投資と不確実性、そしてEYの取り組み

EYは1,200人のCEOを対象とした生成AIに関するグローバル調査「EY CEO Outlook Pulse Survey 2023」を実施しました。この調査によれば、約70%のCEOがAI主導のイノベーションにすでに多額の投資を行っているか、今後12カ月以内に投資を計画していると回答しています。

一方で約90%のCEOは生成AIの不確実性により戦略策定が難しいとの意見も持っています。この結果からAIは戦略的投資分野である一方で、特有のリスクもあることから、現時点では多くの企業が手探りの状況であることが伺えます。生成AIは革新的で全く新しい経済的価値の創出につながり得るものであると考えられており、現在は大きな過渡期と言えます。

ではEYは生成AIに対してどのような取り組みを行っているのか。理事長の片倉がEYの生成AIへの取り組みについてウェビナーの冒頭で話しました。

EY新日本有限責任監査法人 理事長 公認会計士 片倉 正美

EY新日本有限責任監査法人
理事長 公認会計士
片倉 正美

片倉:EYは生成AIの活用を非常に積極的に進めております。昨年には「EY.ai」という新たなAIプラットフォームを開始いたしました。「EY.ai」はクライアントの皆さまのAIを活用したトランスフォーメーションの支援とその強化をしていくことも目的ですが、同時に私共EY自身のトランスフォーメーションを実現することも目指しております。

監査の視点でお話しすると、数年前にはAIが会計士の仕事を奪うのではないかと言われていました。その際は、AIは会計士の仕事を奪うものではなく、サポートするものだと説明していました。しかしこの数年におけるAIを活用した監査プロセスの変革を見ていきますと、AIはサポート以上の働きと効果を生み出していると実感しております。

「人とAI」の相互補完関係が強化されたことによって、会計士がより高い付加価値を生み出す可能性が高まったと考えております。また本ウェビナーを主催したテクノロジーセクターなどEYではさまざまなセクターが専門的なナレッジを日々蓄積、そして進化させております。AIの活用とともにこのセクターの知見も提供していくことでより良い社会の実現に向けて貢献して参ります。

最新の生成AIの企業活用事例と社会的インパクト

⽣成AIの概念や機能、そして⽣成AIの活⽤例や社会的インパクトについて、EYストラテジー・アンド・コンサルティング シニアマネージャーの岡部がプレゼンテーションを⾏いました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 TMT インテリジェンス ユニット シニアマネージャー 岡部 裕之

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
TMT インテリジェンス ユニット シニアマネージャー
岡部 裕之

生成AIとは、これまでの人工知能・機械学習・深層学習の研究の蓄積の結果として実現されたさまざまな新規コンテンツの生成能力を持つAI技術です

岡部:最初に生成AIの概念、機能について簡単に説明します。こちらはAIの分類と歴史的なチャートになります。俗に人工知能と呼ばれるものは1940年代から存在し、第一次AIブームと呼ばれるものが50年代後半から60年代にかけてありました。本格的に機械学習の実用化が進んだのは第三次AIブームと呼ばれる1990年代から2020年代にかけてです。深層学習についてもこの第三次AIブームの後期にビッグデータとともに導入されています。そして今回のメイントピックである生成AIは、2017年ぐらいから存在していましたが、特に注目を集めるようになったのはChatGPTがリリースされた2022年11月以降です。

生成AIにできること

2022年以降の生成AIのインパクトが大きい理由は、人間の鑑賞に堪えられるレベルのものがAIから生成できるようになったからだと考えます。

各社生成AIの商品への実装方向性に違いが見られた

米国で毎年開催される世界最大規模のテックカンファレンス「CES2024」では、生成AI関連の主なベンダーであるMicrosoft、Amazon、Googleらを採用した採用企業の成果物が発表されていました。

世界の雇用の約40%がAIに影響を受け、代替あるいは補完されると国際通貨基金(IMF)が発表。先進国では約60%が影響を受ける

ここからは生成AIの実際の活用法と社会インパクトについてお話しします。このスライドはIMFとILOが協同して2024年1月に発表した、AIが雇用に与える影響について示したものです。世界平均、先進国、新興国、発展途上国別に影響度が発表されました。一番影響を受けるのが先進国で、約6割が影響を受けるとされています。特に専門職など知的労働者は影響を受けるようです。

生成AIが活用可能な各分野(生成AITLより)

一方で高所得者はAIを活用してさらに収入を増やす可能性があります。業界別で言いますと言語タスクの多い金融公共サービス、ソフトウェアプラットフォーム業界、またストライキで話題になった脚本などのエンタメ業界への影響が大きいとされています。

フリーマーケット市場において生成AIが商品名を自動提案(メルカリ)

このスライドはメルカリの生成AIの活用事例です。特にこれは生成AIのマルチモーダルの特性がよく生かされた例です。まずユーザーがニットの商品についてニットの写真をアップして「ニット、M」とだけタイトルを付けて、メルカリに情報をインプットしたとします。するとメルカリから「商品名を変更しませんか?」と提案があり、さらにその提案は「ペールグリーンのロングスリーブニット(Mサイズ)」と新しい商品名を示してくれます。ユーザーが「更新する」というボタンでその提案を受け入れると商品名が変わるという仕組みです。どちらの商品名がより多くのユーザーの関心を生むかについての説明は必要ないと思います。メルカリの活用事例は文字情報や画像情報を生成AIが認識した上で最適な商品名を提案してくれる非常に良い例だと考えます。


孫氏の生成AIへの意識、全ビジネスパーソンが生成AIを使いこなす必要性

ソフトバンクグループの代表取締役 会長兼社長執行役員孫氏の生成AIに対する捉え方とリーダーシップ、ChatGPTの称賛ポイント、経営者と現場レベルが生成AIを使いこなす必要性などについて砂金氏が講演を行いました。

LINEヤフー株式会社 生成AI統括本部 新規事業準備室 室長 LINE WORKS株式会社 執行役員 砂金 信一郎 氏

LINEヤフー株式会社
生成AI統括本部 新規事業準備室 室長
LINE WORKS株式会社
執行役員
砂金 信一郎 氏

LINEヤフー社投影資料

LINEヤフー社投影資料

砂金氏:ソフトバンク関連グループのわれわれは、孫さんから「生成AIをちゃんと使っているのか?」と聞かれることがあります。孫さんは、Softbank Worldでの基調講演の時に、「人間と金魚のニューロンの数、脳としてのハードウェアの数は1万倍違う」という話をしました。そして「あなたたちは金魚になるぞ」と日々言われています。孫さんのような非常に強力なリーダーシップのある方が、各サービスについて「なぜもっと生成AIを使わないのだ」と現場で質問してくるので、LINEヤフーを含むソフトバンク周辺の企業群においては生成AIの活用が非常に進んでいます。そのためリーダーの方が分かりやすく生成AIについて説明することは非常に重要だと思います。AIが正当に進化して10年以内に全ての人間の英知の1万倍AIの方が賢くなると、その時にAIをきちんと活用する基礎体力を人間がつけておかなければ、今の金魚の状態になってしまいます。人間から見ると金魚はそれほど多くのことができないのです。

LINEヤフー社投影資料

LINEヤフー社投影資料

ここからはChatGPTはどの点が優れていたかについて振り返りたいと思います。われわれのように生成AI自体を研究し作っている人たちからすると、ChatGPT以前からOpenAIの「GPT3」というモデルが出ていたと認識しています。「GPT3」は非常に大規模な基盤モデルとして可能性があると研究者の間で議論になっていました。そして程なくChatGPTがアプリケーションに昇華し、人間の鑑賞に堪え得る圧倒的な高精度になったことが素晴らしかったと思います。一般ユーザーが「すごい!」と思うような結果が返ってくること、それがほぼ無料で使えて、「すごいからこれをやってみては?」と他の人から言われて、すぐに皆さんが手元のスマホやPCのブラウザで体験できたことが大きいです。加えて、エンジニアではない人も問題なく使える点も素晴らしかったです。

そしてプロンプティングというAIに対して指示を出す業務が、今までにない業務として現れました。これはAIに対してどういう指示を出すと、人間が欲しい答えを出してくれるのかということで、プロンプティングには上手い下手があります。これは皆さんが部下やメンバーに対して出す指示とほぼ同じようなものです。例えば上司がどういうことをしてほしいのかというインストラクションを部下に出し、「それをやってほしいのはこういう背景なのですよ」とコンテキスト文脈として伝える、そして解いてほしい課題に対しては「こういうデータを分析してほしい」というインプットを示して、アウトプットをもらう流れに似ています。

LINEヤフー社投影資料

LINEヤフー社投影資料

ただし、生成AIを使う観点は経営者と現場で若干異なってきます。経営者は守秘義務などによって、いろいろな方に気軽に相談できないと思いますので、信用できる壁打ち相手として生成AIは非常に優秀です。これまで分析、具体化や抽象化については、コンサルタントの方々に依頼しないとできなかったことでしたが、生成AIを活用することで経営者の方々が自分で行えるようになります。ここが非常に重要なポイントです。孫さんもよく「自分は誰よりもGPTを使いこなしている」ということをメンバーに伝えて刺激を与えてくれています。

LINEヤフー社投影資料

LINEヤフー社投影資料

現場の観点で言うと、議事録を取る仕事が無くなることを含め、効率化という観点で絶大な効力を発揮します。ぜひ皆さんも現場に対して、生成AIの利用規制をするのではなく、できるだけAIの技術を使って効率化ができるポイントは無いかというフレンドリーな対話をしていただくと良いと思います。

LINEヤフー社投影資料

LINEヤフー社投影資料

そして生成AIはリスクが高いから使わないのではなく、完全にAIに任せようとするとリスクが高くなるので、人間が判断をするための材料をくれる便利な文房具であると認識することが重要でしょう。はさみも使いようによっては危ないものですが、オフィスではさみの使用を禁じることはないですよね。


AIの次のトレンドはマルチタスク、マルチモーダルなモデル

ソニーグループ株式会社 Technology Platform EDG Corporate Distinguished Engineer 小林 由幸 氏

ソニーグループ株式会社
Technology Platform EDG Corporate Distinguished Engineer
小林 由幸 氏

小林氏:本日お話しする内容は、ソニーグループの中でのAIの取り組みについてというよりは、私がソニーグループの中で行った教育活動の中の内容になります。最近、入社して2年ほどの社員に向けた約6時間のAI研修プログラムを実施しました。その中で、ここだけは持ち帰ってほしいというメッセージを、15分の講演に込めてお話しいたします。

2022年以降、生成AIが久しぶりに話題になりました。2015年ぐらいにも画像認識で人の性能を超えた、あるいはその後は囲碁のプロプレイヤーに勝ったなど、かなり世の中的にも話題になっていたかと思います。また、久しぶりに人の鑑賞レベルの画像を作れるようになった、人みたいにチャットしてくれるAIができた、つい先日は動画も生成できるようになったなど、どんどん話題には事欠かない状態となっています。皆さんはどうでしょうか。生成AIが登場する度に「こんなこともできてしまうのか」と驚かれているでしょうか。

それと同時にずっとAIの動向をウォッチしている人間からすると、「やっぱり来たか」や「当然これくらいは来るよね」と予測できておりました。本日はぜひ皆さんが生成AIの先を見通せるようになっていただければと思っています。

最近話題になっている生成AIのバックグラウンドでは、ディープラーニングや2015年より以前から話題の機械学習の技術が必ず使われています。ディープラーニングにもいろいろとありますが、主に今使われているのはニューラルネットワークという生物の脳を模したコンピューター上でシミュレーションしようとする技術がベースになっているものです。

ソニーグループ投影資料

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ディープラーニングには「Scaling Laws」という非常に強力な法則があります。これはコンピューターや半導体の世界で言うところのムーアの法則と同じように非常に強力なものです。

Computeは、人に例えると、勉強にかけた時間、Dataset Sizeは、教材のサイズやどれくらいたくさんの教材から勉強したか、Parametersは生物で言うと脳のサイズに相当します。人間の脳のサイズは1,300ccぐらいで大体決まっているのでこれ以上大きくならないのですが、機械はこの3つの要素をいくらでも大きくできます。コンピューターをいくらでも増やしたり、メモリをたくさん増やしたり、インターネット上からたくさんの情報を使って学習したりと、これらのパラメーターを増やせば増やすほど、どんどん性能が上がります。
そういう背景でAIは毎年のようにどんどん性能を向上させている状態です。

そして今説明した「Scaling Laws」に研究者が気付き始めたのが2018年ごろです。2018年ぐらいまでは、ニューラルネットワークのサイズを大きくしよう、計算パワーを上げよう、という取り組みはあまりされていませんでした。しかし「Scaling Laws」に研究者が気付きだしてから、毎年5倍ほどAIのモデルのサイズが大きくなっています。

この先どうなるのかはまだ分かりません。さすがにこの成長ペースを維持し続けることになると、地球上の電力を全て消費してしまうことになるでしょう。ただし、核融合が実用化されて、このペースが続くかもしれないです。

ソニーグループ投影資料

ソニーグループ投影資料

現在、研究領域でどのような技術が注目されているかというと、次に来るのは、マルチタスク、マルチモーダルなモデルと言われています。
マルチタスクは、1つのAIモデルでさまざまな目的をこなすことができます。マルチモーダルは、1つのAIモデルが画像や音声、テキストなどさまざまなデータの形式を扱うことができます。しかもそれは、画像とテキストを入れたらテキストを出すという決まった対応関係ではなく、入力の中に何でも含めることができるものです。人間は目で見たり耳で音を聞いたり、会話もしたり、それを全て統合して常にシームレスに扱えます。そのようなAIの研究が非常に盛んに行われていますので、今まで研究されたものが1~2年で世の中に出てきたことを考えると、このマルチタスク、マルチモーダルなAIモデルも数年で実現されるでしょう。

ソニーグループ投影資料

ソニーグループ投影資料

なお、今は生成AIに対して人が直接指示を出していることが多いと思いますが、AI同士が組織として非常に複雑なタスクをこなすことを実現する、AIが自分で進化する、あるいはロボットが汎用(はんよう)な作業をこなすなども想定されるでしょう。

ソニーグループ投影資料

ソニーグループ投影資料

では生成AIが加速的に成長している最中、私たちは生成AIとどう付き合っていくべきかについて話します。非推奨とおすすめに分けて記載しておりますが、AIの進化をまずは受け入れる必要があります。そして最先端のAIを常にウォッチし続ける必要があります。今、ChatGPTなどをうまく活用できていると思っている方が多いと思いますが、AIの進歩は非常に速いので、そう遠くない未来にその使い方すら古くなるはずです。これを大前提として常に最先端の情報をウォッチしていただく必要があります。そしてより一層効率的に活用していってください。最終的にはどれだけ世の中を豊かにするかということがポイントになると思いますので、そこにしっかりとつながるのであれば積極的に活用していくという姿勢が非常に重要になってくると思います。

ソニーグループ投影資料

ソニーグループ投影資料

いまや生成AIというのは無料、あるいは月数千円を払えば自分に完全につながってくれるような超優秀なエキスパートという捉え方ができるでしょう。これを活用するのか、活用しないのかでわれわれのできる仕事の量や質も変わってくるでしょう。


パナソニックが保有するデータ、どう生成AIで利活用していくか

多くの社員が在籍するパナソニックが国をまたいで、生成AIをどのように利活用しようとしているのか、高木氏は講演で話しました。

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社 新規事業開発・R&D本部 本部長 高木 政彦 氏

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社
新規事業開発・R&D本部 本部長
高木 政彦 氏

高木氏:私たちが業務シーンでどのように生成AIを活用しているかというと、4パターンほどに分かれております。1つ目はノーマルな社員のパターンです。生成AIのアシスタントサービスを使いながら業務の効率化を図っていきたいということで、利用マニュアルを作ってサービスを提供しています。これはグローバル協同サービスで、グローバルで約17万人が利用しています。

2つ目は、パナソニックはデータをたくさん保持しているので、生成AIを活用して何かサービスを作れるのではないかという社員向けです。そのような方たち向けにPoCのサービスを提供しており、ここでやりたいことを整理していただき、次のステップに進むということをやっています。

3つ目は、やりたいことはある程度明確だが、自分ではできないので支援してほしいという方たち向けに業務に特化した形でのサービスを提供しています。これは日本、シンガポール、中国のブランチでもサポートしていて、業務システムとつなげたりソリューションを作ったりしています。また専用のモデルを作る時は専門家と連携しながら個別のモデルを作っていくというサービスを展開しています。

4つ目は、自分で生成AIを使ったサービスをやっていきたいという方も当然出てきておりますが、全社的なセキュリティの関係もありますのでわれわれが提供するクラウドの環境やセキュリティの審査を受けていただき、われわれが提供するAPIやクラウドの利用を誘導するようにしています。

具体的な活用事例は、コールセンターでお客さまからのお問い合わせを受けて、要約することです。1日7,000件くらいお問い合わせが来るので、音声からテキストに変換した内容をうまくプロンプティングして要約してもらうというものです。いくつか試していますが、業務的にも使えるのではないか、と評価されています。

今後の取り組みについては、まずは製品系のところは皆さんお使いの家電製品が、実は800万台ぐらいクラウドにつながっています。日々2億から3億ぐらいのアクセスがあり、それを全てクラウドに吸い上げてその情報を使いながらスマホのアプリで提供しています。ただし、クラウドにあるデータをうまく使えておらず、将来的にはインタラクティブなソリューションの展開、スマホアプリではない形でのサービスがどんどんできていくのではないかと考えています。

技術面ですが、マルチモーダルな対応は必要になってくると思っています。例えば冷蔵庫の食材をGPTに読ませていたりします。将来的には、分析をしてレシピの提案、画像を自動で作れるようなものも出てきているので、そういった技術を活用できないかということを考えています。


生成AIによって変わるビジネスパーソンの必要スキル

生成AIが浸透していくことはもう間違いなさそうです。前川氏はそのような視点を持ち、経営者、管理者、現場スタッフはどのようなマインドセットで仕事に取り掛かっていく必要があるのかを講演で伝えました。

株式会社エクサウィザーズ 執行役員 コーポレート統括部長 株式会社VisionWiz 代表取締役社長 前川 智明 氏

株式会社エクサウィザーズ
執行役員 コーポレート統括部長
株式会社VisionWiz
代表取締役社長
前川 智明 氏

前川氏:生成AIを使うことが非常に当たり前になってきている感触を抱いております。われわれも相当な波を感じており、もはや生成AIを使うこと自体が結構当たり前になってきています。利用実態として、現在の世の中の状況では、一説によりますと生成AIの市場規模は、昨年度で約7兆円、2030年には30兆円規模になるのではないかと言われています。生成AIのトップランカーのOpenAI社は、企業価値が早くも10兆円を超えて13兆円となっている状況です。たった半年で時価総額が3倍になるような世界観で規模が拡大しています。こうしたすさまじい速さに他企業もついて行くことが今後必須になると考えています。こういった状況の中で、OpenAIのAPIを使いながらさまざまなアプリケーションレイヤーでのサービスが、グローバルで展開されてきています。カオスマップが追い付かないくらいさまざまなアプリが日々公開されており、もはや捉え方としてはAI業界というよりは、生成AIというひとくくりで1つの業界になってきたと捉えています。

そして生成AIが進化する今後、私たちの求められるスキルも変わっていくと考えています。まず人間としての基礎力と、どこに向かいたいのか、志という意味でのアスピレーションを含め人としてどのように持っていきたいのかが重要になってくるでしょう。そして好奇心、分からないものや不確実性が高いものに取り組んでいくことに対する意思が強く求められるようになると思っております。一方でAIを使いこなすという文脈では問いを立てる力、現場でAIを使うに当たっての現場感に基づく暗黙知などをとがらせていくことも必要です。この辺りがやはりAIを使いこなす、共存していく時代で一人一人が強めていかなければならないスキルだと思っています。

そして今後、世の中ではどういう領域においてAIが強くなってくるかというと、膨大な知識が必要とされていた専門家の領域が、よりAIに取って代わられる可能性があると思っております。大量の言語や大量の知識を参照しながら処理する力は、AIの方が強みを発揮していくでしょう。

生成AIがカバーしきれない部分で、人としては付加価値を出していくべきではないでしょうか。現場人材やジェネラリストが再度脚光を浴びると予想しています。今はジェネラリストが技術、会計または法務知識などセクションに分かれたスペシャリストを束ねるオペレーションやマネジメントをしていると思います。今後は技術、会計といったそれぞれのスペシャルファンクションは生成AIに任せながら、それを束ねるジェネラリストに一人一人がなっていくことで、より知識を使いながら付加価値の高いことができてくるのではないでしょうか。

これまで大きな会社の運営をしている一人一人の従業員は、高い業務標準化を実装しながら、業務の細分化で全体のオペレーションを設計することで強みを発揮してきたと思います。しかしこれからは、管理側のメンタリティを中心に一人一人のマインドセットが形成されていくことを感じます。生成AIが関連業務を代替しながら、仕事に取り組むために必要なメンタリティを各人が持つことで、より企業の成長にもつながってくるのではないでしょうか。企業活動全体のマインドセット変革も、生成AIが後押ししてくれると期待しています。

いわゆるマネジメントについて、管理を中心とするような体制から、メンバーや会社の方向性、アスピレーションを啓発していくリーダーが求められていく可能性があると考えています。一人一人の仕事に対する向き合い方などの変革の時期に来ていると感じています。

最後にセクションとして「生成AIのその先へ」をお話しいたします。現在は生成AIの普及期でさまざまな企業で使うのが当たり前になってきていますが、生成AIをうまく使いこなした企業が、競合他社に対して差別化していくフェーズになってくるのではないでしょうか。その先は生成AIという名前を付けずとも当たり前のように日々使う時代が当然やって来ると思っています。社内にたまっている独自のデータやオペレーションの中に自然と組み込まれる世界が来るでしょう。ここをいかに視野に入れながら実装していくかが必要です。そして新しいテクノロジーは、若い世代の感性や行動力が重要かと思いますので、チームやタスクフォースの中で若手の登用なども含めながらうまくやっていくことで既存の企業の強みとの融合を図っていけると考えています。

ウェビナーの後半では、ゲスト登壇者4名と前出のEY岡部(モデレーター担当)によるパネルディスカッションが行われました。業界の最前線を走る識者たちが語った「生成AIの可能性」とは――。記事の後編でその白熱した議論の一部を紹介します。

以上


【共同執筆者】
EY新日本有限責任監査法人 竹田 匡宏
EY新日本有限責任監査法人 杉山 大介

※所属は記事公開当時のものです。


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サマリー

ビジネスパーソンは生成AIをエキスパート人材と捉え、最新動向をキャッチアップしながら最大限に活用すべきです。マネジメント領域においては、今後ジェネラリストが脚光を浴びると予想されています。IT技術や会計などの専門技能は生成AIに任せ、それを束ねる能力によって高い付加価値をもたらすことが求められています。

この記事について

執筆者 矢部 直哉

EY Japan テクノロジー・メディア&エンターテインメント・テレコム・アシュアランスリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

オフタイムはゴルフ、愛犬(豆柴)の散歩でリフレッシュしている。

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