エリア別パフォーマンスの概要:Americas、EMEIAのIPO市場は回復し、Asia-Pacificは急落
継続的なマクロ経済的・地政学的動向を受けて、世界のIPO市場の地理的構成は著しく変化しています。
Americas(北・中・南米)のIPO活動は引き続き堅調で、52件(前年同期比で+21%)、調達額が84億米ドル(+178%)となりました。2024年第1四半期の上位7件のすべてのディールでは、調達額が5億米ドルを超えましたが、2023年第1四半期で超えたのは、わずか1件でした。米国ではIPO調達額が、2022年に過去20年間で最低を記録したものの、昨年から続く市況回復の波に乗って、2024年第1四半期にようやく大幅に上昇しました。
Asia-Pacific(アジア・パシフィック)では、地域全体に漂うIPO市場の低迷ムードによって、IPO活動は第1四半期に119件(前年同期比で-34%)、調達額が58億米ドル(-56%)にとどまりました。特に急激な減少が顕著なのは、中国本土と香港で、取引件数が半分以上、調達額も3分の2近く減少しています。中国本土、香港は共に、IPO活動が過去数年にわたり一貫して減少しています。Asia-Pacificで第1四半期に取引件数が微増したのは、日経平均が2月に過去最高値を記録した日本だけです。
EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)のIPO市場は、年初に目覚ましい伸びを見せ、第1四半期のIPO件数が116件(前年同期比+40%)、調達額が95億ドル(+58%)となりました。この急増は、欧州とインドにおけるIPOの平均調達額の増加により、EMEIAは2023年第4四半期以降、調達額ベースで世界のIPO市場で1位維持していることに起因しています。2019年以降、特にインドはIPO件数の多さで急に注目を集め、抜きんでた存在となっています。
2024年第2四半期の見通し:不確実性が高まる中、限られたチャンスを生かす
「2024年、IPO市場は未知の領域に入りつつあります。投資家は金利環境の変化を受けて、確実に採算性を見込める案件へとシフトしています。IPO候補企業は、その影響を受けつつ、地政学的状況の複雑な動向と過熱するAIブームにも直面しています。この変化の中で、IPO候補企業が成功を収めるには、常に柔軟に対応し上場の適切な好機を捉える準備を整えておかなければなりません」とEY Global IPO LeaderのGeorge Chanは言います。
2024年は今までのところ、IPO活動が活発化しており、IPO市場は好調の兆しを見せています。過去数年間、市場活動全体が低調でしたが、IPO発行体と投資家の双方の意欲が高まり、市場動向の変化や上場がより歓迎される環境になっています。
2024年は先進国が緩やかな成長を示す一方、新興国・地域は堅調な成長を続け、世界経済は緩やかな成長軌道をたどることが予想され、主要国の株式市場は金利引き下げを想定しています。
投資家やIPO候補企業は、金利上昇と流動性低下という新たな状況に対応し、地政学的環境の変化および世界の選挙情勢によって複雑さを増すIPO市場を乗り切る必要があります。選挙における不確実性が高まる中、IPO候補企業に今後求められるのは、選挙結果を注視し、特定の政策がステークホルダーの利害にどのような影響を及ぼすかを見極め、必要に応じてIPOの戦略と時期を見直すことです。
IPOを成功に導く可能性を最大化するために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF、英語版のみ)をダウンロードしてください。
過去のIPOレポート
サマリー
継続的なマクロ経済的・地政学的動向を受けて、世界のIPO市場の地理的構成は変化し、買い手と売り手の間で生じていた評価額の乖離が縮まっています。プライベートエクイティが関与したIPOのイグジット活動は盛り上がりを見せ、AIの台頭は、IPOが今後急増する可能性を示唆しています。
2024年にIPOを検討している企業は、インフレ、金利、選挙、地政学的緊張、AIの影響、ESG課題などの要因を考慮し、徹底的な準備に注力すべきです。また、2024年の限られたIPOのチャンスを生かすために、質の高いエクイティストーリーを発信し、強固な基礎を築き、価格に対する期待に対応する必要があります。