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IFRSサステナビリティ開示基準に関する2つの公開草案に対するフィードバックの概要と今後の動向


情報センサー2022年12月号 IFRS実務講座


EY 新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室/品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 大野 雄裕

上場企業での経理部門を経て、2005年当法人に入所。国内および外資系企業の会計監査に従事。16年から2年間、EYロンドン事務所に駐在。22年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事。また、サステナビリティ開示推進室メンバーとしても活動している。


Ⅰ はじめに

2022年3月31日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)はIFRSサステナビリティ開示基準に関する最初の2つの公開草案として、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(以下、全般的要求事項)」と「気候関連開示(以下、気候関連開示の要求事項)」を公表しました。本誌22年5月号及び7月号ではこれら2つの公開草案の概要や結論の背景、各要求事項等について解説しました。

本稿では、その後の利害関係者からのフィードバックコメントの概要を紹介しながら、ISSBの再審議の状況や今後の動向等について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 利害関係者からのフィードバック

ISSBは、公表した2つの公開草案に対する利害関係者からのフィードバックコメントを、22年7月29日を期限として募集しました。また、それに先立って、初期的な分析を目的としたアウトリーチ(情報収集)も実施されました。

これらについて、Ⅲで解説します。

Ⅲ フィードバックコメントの概要

EYを含む、1,400を超えるコメントレターが2つの公開草案に対して寄せられました。

また、22年9月のISSB会議において、フィードバックの要約結果が報告され、合わせて今後の再審議の対象となる項目が、暫定的に決定されました(<表1>参照)。

表1 今後の再審議対象となった項目(数字は、本稿Ⅲにおける解説番号)

本稿では、再審議項目の中から、読者の関心が高いと思われる一部の項目に関して解説します。

1. 共通事項

(1) 適用可能性(scalability)

提案された開示要求に関して、世界の各企業における適用能力や準備状況について、ISSBはしっかりと考慮すべきであるとのフィードバックが、大多数の回答者から寄せられています。それを受けて、ISSBではこの「適用可能性」課題に対応するため、適用能力や準備状況が異なる企業が開示要求を適用できるようすることで企業負担を軽減させる「仕組み(mechanism)」と、当該課題に対応するためにどの仕組みの採用が適切かを評価する際に用いる「考慮事項」の検討を始めています。

以下は、ISSBが暫定的に決定した、識別すべき仕組みとして特に検討されたこと、及び、最適な仕組みを選択する際の考慮事項の具体的な内容となります。

① 仕組み

a. 適用可能性に関する明確な規準に基づいて特定の開示を求めない(もしくは、より簡便な代替的な開示を求める)よう、提案された開示要求事項を修正する。

b. 「開示不可能である」の規準を満たすと判断する企業には、当該規準を満たす理由の説明を求めるよう、提案された開示要求事項を修正する。

c. ISSBによる適用ガイダンスの提供を含む、作成者の基準適用をサポートするためのマテリアルを提供する。

d. 追加的なガイダンスや測定方法、算定のためのインプットの情報源として、他のサステナビリティ関連のプロトコルやフレームワーク及びガイダンスへの参照を含む、作成者の基準適用をサポートするマテリアルを提供する。

e. 要求事項を区分け(「基礎(basic)」と「アドバンスド(advanced)」)した上で、移行期間において各法域がその適用を選択できるよう、提案された開示要求事項を修正する。

② 考慮事項

a. 適用可能性の課題が一時的(過渡的)か、より恒久的か(例:データの入手可能性)

b. 適用可能性の課題を有している企業群をどの程度具体的に識別可能か

c. マーケットのガイダンス、方法、業界慣行、技術がどの程度入手可能か

d. 開示要求を補強する、基礎となる方法や専門技術の確立度合い

2. 「全般的要求事項」関連

(1) 報告の頻度

財務諸表と同時、かつ同一期間を対象としたサステナビリティ関連財務情報の開示が有用である点に多くの賛同があった一方、その実務負担、実行可能性、開示内容の後退を招くといった懸念が寄せられています。

3. 「気候関連開示の要求事項」関連

(1) 気候レジリエンス

気候関連のシナリオ分析を用いることを含め、提案された要求事項に幅広い賛同が得られている一方で、特に、気候関連の開示経験が浅い企業や小規模企業にとっては大きな負担となるとのコメントが多く寄せられています。

(2) 温室効果ガスの排出

スコープ1・2排出の絶対総量の開示を行う点について多くの回答者から賛同を得られている一方で、一部からは、基本となる計算や測定方法に関する要求事項に反対の声も寄せられています(例:ISO14064や各国の枠組みも代替的に利用可能とすべき)。

また、スコープ3排出の絶対総量に関する提案に関して、基本コンセプトについては多くの賛同が得られている一方、その個々の要求事項に関してはさまざまな懸念が表明されており、例えば計算方法に必要なデータの入手可能性、非常に多くの見積りが必要となる点や不確実性に関する課題が挙げられています。

なおEYは、全世界の企業の適用可能性を考慮し、スコープ3の要求事項を段階的に導入することの検討をISSBに提案しています。また、GHG(温室効果ガス)プロトコルの使用に同意するものの、GHGプロトコルに類似する特定の国内・地域の枠組みがすでにあり、それらの枠組みの方がその国・地域においてはより適していると考えられている可能性があるケース(例えば、日本)が存在することも認識しており、各国・地域におけるGHGプロトコル以外の代替的手法の適用状況を調査するため、ISSBが日本等と協議することを提案しています。

(3) 産業別開示要求

大多数のコメントが、重大なサステナビリティ関連のリスク及び機会の識別や記述において、気候関連開示の要求事項の付録B「産業別開示要求」の開示トピックの考慮が必要である点に同意している一方で、付録Bで要求されている産業別の開示要求に関してさまざまな反応が寄せられています。

なおEYは、産業別開示の必要性は支持するものの、提案されている付録Bの産業別要求の現在の構造と内容を踏まえると、現時点では強制力のあるガイダンスとしての適用は支持しない旨のコメントをISSBに提出しています。
 

Ⅳ おわりに

ISSBは、22年内にフィードバック作業を完了させ、23年のなるべく早い段階で最終基準書を公表することを目指しています。

また、ISSBだけでなく、EUや米国等の各国のサステナビリティ開示のルール策定の動向や日本の金融庁やサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の審議状況も引き続き、注視する必要があると考えられます。

※ 温室効果ガス排出量報告の自主検証のための国際規格


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