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公認会計士 太田 達也
会計上は、遊休資産であっても、減価償却を行う必要があります。「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下、「減損適用指針」)では、「減損処理を行った遊休資産について、減損処理後の減価償却費は、原則として、営業外費用として処理する。なお、減損処理を行うこととはされなかった遊休資産についても減価償却を行うこととなるが、当該遊休資産の減価償却費についても、原則として、営業外費用として処理する。」(減損適用指針56項)と記述されています。
このような取扱いが適用されるのは、遊休資産であっても、経済的陳腐化等により時の経過とともに価値が減少しているためであると考えられます。
税務上、遊休資産について償却費の損金算入は認められません。それは、法人税法施行令13条において、「法人税法2条23号 (減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。」と規定されていることからも明らかです。
ただし、稼働を休止している資産であっても、その休止期間中必要な維持補修が行われており、いつでも稼働し得る状態にあるものについては、減価償却資産に該当するものとされます(法基通7-1-3)。これを稼働休止資産といいます。
例えば、メーカーにおける生産調整のように、製品の需要が急減したような場合に、在庫を圧縮するために一定期間生産を休止することがあります。その休止期間中必要な維持補修(メンテナンス)が行われ、在庫が縮小次第すぐに生産を再開できる状態にある、すなわちいつでもその本来の用途に供することができる状態になっているのであれば、その償却費の損金算入は認められると考えられます。逆に、必要な維持補修がされておらず、いつでも稼働し得る状態になっていない場合は、償却費の損金算入は認められないと考えられます。
遊休資産について税務上償却が認められない場合は、申告調整が必要になります。会計上計上した減価償却費を別表4で加算(留保)し、別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」に増加の記載を行うことになります。また、別表16の償却額の計算に関する明細書に償却超過額の記載を行い、翌期以降にその超過額を繰り越す記載が必要になります。
稼働を再開するなど、税務上の償却が認められることとなった事業年度において、会計上の償却費が税務上の償却限度額を下回ることとなった場合に、繰り越されてきた償却超過額が償却不足額だけ認容されることになります。その認容については、別表4で減算(留保)の調整で対応することになります。
有姿除却とは、固定資産を特に取り壊さないで、現状の姿のまま(有姿で)除却処理を行う方法です。帳簿上の除却処理という言い方をする場合があります。除却には取壊費用などがかかるため、その費用が多額の場合には、有姿除却に一定のメリットが生じます。ただし、後で説明しますように、税務上の要件は厳格ですので、慎重に対応する必要があります。
次の要件を満たすものについて、有姿除却が可能であるとされています。
有姿除却(法基通7-7-2)
次に掲げるような固定資産については、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができるものとする。
① その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
② 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、その製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
ここで重要なポイントは、有姿除却が認められるためには、固定資産としての命数なり使用価値が尽きていることが明らかでなければならないという点です。上記の①に「今後通常の方法により事業の用に供する可能性がない」とされていますように、仮に他に転用する可能性が若干あるにしても、その転用後の使用方法がその資産の本来の用途、用法とまったく異なるものであり、経済性が維持できないような極端な用途変更である場合には、有姿除却は認められるものと考えられます。逆に、転用後においてそれなりの採算が維持される可能性が残っている場合は、使用価値を喪失していないことになりますから、有姿除却は認められないと考えられます。
この点、客観性を確保するために、物理的に使用できない状態にあえてする対応をすることも実務上あります。例えば、機械装置の(作業の命令系統をつかさどるような)最も重要な部分をドリルで穴開け等して破砕する、あるいは、生産ラインから外して雨ざらし状態するなどの対応が行われれば、使用価値を喪失したことが客観化されますから、税務リスクを回避することができると考えられます。
当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。