退職給付に関する注記の取扱い ~平成26年3月期決算を迎えるに当たって~

公認会計士 太田 達也

退職給付会計基準の改正

退職給付会計基準の改正により、注記情報が充実されることになりました。平成25年4月1日以後に開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されます。従って、平成26年3月期の有価証券報告書から適用されることになります。

また、連結財務諸表作成会社の場合、連結ベースの注記が必要であり、個別の注記は不要とされています。親会社は、注記に必要な情報を連結子会社からも収集できるように、事前の周知徹底や連結パッケージの改訂等の準備が必要であると考えられます。

なお、「退職給付に関する会計基準の適用指針」に注記の参考例が掲載されているので、注記の方法について参考になると思われます。

 

持分法適用会社の取扱い

連結財務諸表作成会社は連結ベースの注記をすることになりますが、持分法適用会社について注記の対象に含まれるのかどうかが問題となります。これについては、持分法適用会社は、注記の対象外であると考えられます。

直接的な定めはありませんが、次のように解されます。連結財務諸表における退職給付に関する注記は、連結会社(=親会社及び連結子会社)の退職給付債務及び年金資産について、期首残高と期末残高の調整表や連結貸借対照表に計上された退職給付に係る負債(または資産)との関係を開示するものであると考えられます。持分法適用会社の未認識項目については開示対象に含まれないものと考えられます。

また、投資有価証券を相手勘定として「退職給付に係る調整累計額」(その他の包括利益累計額)に計上された未認識項目の持分相当額は、組替調整の対象になりますが、その他有価証券評価差額金等の、他のその他の包括利益と一括して「持分法適用会社に対する持分相当額」等として表示されるので、「退職給付に係る調整額」としてその他の包括利益に計上される未認識項目の内訳の開示対象にも含まれないものと考えられます。

 

会社法の計算書類の取扱い

会社計算規則については、退職給付に関する注記の充実に関して直接の改正は行われていません。しかし、法務省の立案担当者の次の見解をしん酌する必要があると考えられます。

すなわち、退職給付会計基準の適用による退職給付の会計処理基準に関する事項が、会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要である場合には、重要な会計方針に係る事項に関する注記(会社計算規則98条1項2号、101条3号)として記載することになると考えられ、また、企業の採用する退職給付制度の概要についても、会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要である場合には、その他の注記(会社計算規則98条1項19号、116条)として記載することになると考えられるものとされています1。直接的な規定はありませんが、会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要である場合には、従来の規定を根拠として、一定の事項の注記は必要になることがあると解されます。

また、連結計算書類上は、従来は「退職給付引当金の計上基準」が連結注記表における「引当金の計上基準」の項目に記載されていました。改正後の退職給付会計基準の適用後は、退職給付に係る負債の計上基準について、重要性がある場合には「その他連結計算書類の作成のための重要な事項」(会社計算規則102条1項3号ニ)に該当し、「連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記」として、記載することとなるものと考えられます。その際、「退職給付に係る負債の計上基準」等の項目を付すことは差し支えないとされています。

また、退職給付の会計処理基準に関する事項、退職給付見込額の期間帰属方法ならびに数理計算上の差異、過去勤務費用及び会計基準変更時差異の費用処理方法に重要性がある場合には、「その他連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記」として記載することになると考えられるとされています2

 

個別注記表及び連結注記表の記載例

個別注記表及び連結注記表のそれぞれの記載例を示します。なお、先に説明した重要性の有無は、各会社の状況に応じて判断される点にご留意ください。

(個別注記表の「重要な会計方針に係る事項に関する注記」の記載例)

退職給付引当金

従業員の退職給付に備えるため、当事業年度末における退職給付債務および年金資産の見込額に基づき計上しております。
会計基準変更時差異(○○○百万円)は、○年による定額法により費用処理しております。
過去勤務費用は、その発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(○年)による定額法により費用処理しております。
数理計算上の差異は、各事業年度の発生時における従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(○年)による定額法により按分した額を、それぞれ発生の翌事業年度から費用処理しております。

(連結注記表の「その他連結計算書類の作成のための重要な事項」の記載例)

その他連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項
退職給付に係る負債の計上基準
退職給付に係る負債は、従業員の退職給付に備えるため、当連結会計年度末における見込額に基づき、退職給付債務から年金資産の額を控除した額を計上しております。
会計基準変更時差異(×××百万円)は、主として○年による定額法により費用処理しております。
過去勤務費用は、主としてその発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(○年)による定額法により費用処理しております。
数理計算上の差異は、主として各連結会計年度の発生時における従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(○年)による定額法(一部の連結子会社は定率法)により按分した額を、それぞれ発生の翌連結会計年度から費用処理しております。
未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用については、税効果を調整の上、純資産の部におけるその他の包括利益累計額の退職給付に係る調整累計額に計上しております。

(出典:日本経済団体連合会「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」を一部修正の上作成しています。)
 

未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用について、税効果を調整の上、純資産の部に計上している旨の記載については、会社計算規則上、直接に規定が置かれているわけではありません。従って、当該事項の記載の要否は、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要な事項であると考えられる場合は、その他の注記(会社計算規則116条)として記載することになると考えられます。

また、改正後の退職給付会計基準及び適用指針を早期適用している会社においては、退職給付見込額の期間帰属方法について記載することが考えられます。この場合、以下の記載を追加することが考えられます。

なお、退職給付債務の算定に当たり、退職給付見込額を当連結会計年度までの期間に帰属させる方法については、期間定額基準(又は給付算定式基準)によっております。

  1. 高木弘明「会社計算規則の一部を改正する省令の解説-平成25年法務省令第16号」旬刊商事法務No.2001、P33。
  2. 高木弘明、前掲(脚注1)と同じ、P33。

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