暗号資産発行に関する課題への取り組み②:発行体への課税
日本の税制では、法人が事業年度末において保有する暗号資産については、原則として時価評価により評価損益を計上することとされています。このため、例えば暗号資産を継続保有している中で大幅な含み益を抱えた状態で事業年度末を迎えた場合、暗号資産の売却により法定通貨を獲得していないにもかかわらず納税義務が生じる、という状況となります。
当該取扱いは自己が発行した暗号資産を継続して保有するケースにもこれまで適用されていたため、暗号資産発行体が総発行量のうち一部を自ら保有するケースにおいて、当該暗号資産相当分の資金調達を行っていないにもかかわらず納税義務が生じてしまう、という状況にありました。
一方、令和5年度税制改正において、自己が発行した暗号資産の継続保有に関しては、当該取扱いは除外されることとなりました。これにより、日本におけるWeb3.0事業者による暗号資産発行に関する税制面での課題は、一定の解決がなされています。
暗号資産発行に関する課題への取り組み③:LPSによる暗号資産投資
前述の通り、LPSによるセキュリティトークンへの投資の可否は、2023年4月19日の経済産業省による解釈通知の公表により、明確化されています。しかしながら、当該解釈通知によると、現行のLPS法ではLPSによる資金決済法上の暗号資産への投資は認められていない旨が留意事項として示されています。
一方、web3.0事業者による資金調達をさらに活性化、多様化するためにはLPSによる暗号資産投資を可能とすることが必要である旨が自由民主党デジタル社会推進本部からも提言されており、これらの動向も踏まえ、現在LPS法の改正に向けた検討が進められています。
LPSによる暗号資産投資が可能となった場合、今後のWeb3.0事業者による暗号資産発行を通じた資金調達の幅は一層広がるものと考えられます。
暗号資産発行に関する課題への取り組み④: 暗号資産発行体の会計基準
日本では、IFRS等の世界の会計基準に先駆けて、暗号資産の保有者に係る会計基準として企業会計基準委員会、実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」1が公表されました。また、セキュリティトークンの保有及び発行については企業会計基準委員会、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」2が、ステーブルコインの保有及び発行については企業会計基準委員会、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」3が、それぞれ公表されています。一方、暗号資産の発行体に係る会計基準については、2022年3月に企業会計基準委員会が「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」4を公表しましたが、2023年12月末時点においても開発中の状況となっています。
このため、特に上場企業(及びその関係会社)等の会計監査義務のあるWeb3.0事業者が暗号資産を発行する場合、会計及び監査上の判断をどのように行うかといった課題が現時点でも残っています。
日本におけるWeb3.0事業に関連した会計基準等の整備の状況は、下表の通りです。