本調査は、ステークホルダーの期待が、安全性、環境マネジメント、企業の責任という面でいかに高まっているかを浮き彫りにしています。こうした状況によって、鉱業・金属業界は外からどのように見られるかという問題に取り組むことが急務になっています。投資家が非財務的価値を理解する方向に向かっているからです。
EYのグローバル鉱業・金属セクターリーダーであるPaul Mitchellは次のように述べています。
「鉱業界は、コロナ禍の影響に非常にうまく対応しており、多くの鉱山が操業を継続できるよう迅速かつ効果的な対応を行ってきました。しかし、事業の継続性を維持するには代価が伴いました。新たな手続きや手順の運用に伴う追加費用、健康検査機器の導入、作業員が適切なサポートを受けられるよう徹底することなど、業界は新たな費用負担を強いられています。それと同時に、鉱業企業がインパクトの大きいリスクにいかに備え、それを管理、モニタリングすべきか、こうした側面でのステークホルダーの期待値がコロナ禍によってさらに高まっています。」
経済的保護主義の拡大による地政学的リスクの高まり:
米中間および欧州で変化している権力のバランスが業界の力学を変化させていることから、地政学的な問題は鉱業や金属業界の経営層にとって最大の懸念事項の1つとなっています。本調査ではさらに、経営層は、新型コロナウィルス感染症拡大から各国内で高まっている保護主義によって、鉱業企業が主要なマーケットで操業する能力にどのような影響が及びうるのか懸念を抱いていることも示しています。
また、Mitchellは次のように述べています。
「鉱業はグローバルな産業であり、高い業績を挙げるためにはグローバルな考え方が必要です。一部の国ではすでに、国内生産者を保護するために、関税の導入や、輸出を禁止する措置の導入にまで動き出しています。本調査における回答者の56%は、政府が新型コロナウィルス感染症に対応するため歳入増加を求めて、鉱山使用料を値上げしたり、増税することを予測しています。」
デジタルの効果的な活用に対する自信の表れ:
本年度の調査では、「労働者の未来」や「デジタルとデータの最適化」といったこれまで重要とされてきたリスクがランキングを下げています(本年度はそれぞれ第7位と第9位)。
Mitchellは次のように述べています。
「デジタルやデータの最適化といったリスクが今回の調査で順位を下げたという事実は、鉱業企業がこうしたリスクの管理に以前より自信を持っていることを表しています。こうしたリスクは今や、多くの鉱業企業にとって通常業務の想定内と捉えられており、その他の鉱業企業にとっては重要な機会を提供するものと考えられています。」
環境および気候変動への対応重視が生み出す新たな機会:
本調査では、鉱業・金属セクターの大手企業が脱炭素化計画を策定している一方で、セクターの多くの企業にとって、脱炭素化の進捗の遅れや不十分な対応が、ますますひっ迫するマーケットにおいて、資金を調達する能力を脅かす可能性があることを指摘しています。コロナ危機下で強まったステークホルダーの企業行動に対する監視は、危機後も継続することが見込まれます。これは鉱業・金属企業による、環境、社会、ガバナンス(ESG)を取り巻く問題への対処のあり方に大きな影響を与えます。
さらにMitchellは次のように述べています。
「EYが最近行った投資家を対象とした調査では、67%1の回答者が、どこに投資するか判断をする際に、各企業の気候関連財務情報開示タスクフォースが公表している洞察が、重要な役割を果たしていると答えています。ESGへの対応を強化する企業は、資本の争奪において競争優位を獲得し、鉱業・金属セクターをより良い方向へ変革することができます。」
イノベーションを加速させる好機:
イノベーションは常に、「ビジネスリスク&オポチュニティトップ10」の上位10位内にランクインしており、本年は第10位となりました。本調査では、企業は、新型コロナウィルスの影響に対処するために業界がすでに採用している迅速な対応をもとに、自社のイノベーションアジェンダの範囲を拡大し、その有効性を高めることができると述べています。
Mitchellは次のように述べています。
「新型コロナウィルスに対する業界の対応は、健康と安全面における長期的な挑戦、エネルギーコストおよび地域のコミュニティーとの関わりにおいて、より創造的でアジャイルな解決策を提供するきっかけとなっています。これは、複雑性を取り除き、変化に対するこれまでの障壁を克服し、個々の企業や業界全体そしてコミュニティーに長期的価値創造をもたらす変革を加速させる絶好の機会となっています。企業は現在、変化について考える機会、および将来の出来事に備えた俊敏性(アジリティ)と準備を実現させるケイパビリティの維持に集中するための機会を与えられているのです。」
12020 EY 気候変動及びサスティナビリティサービス(CCaSS)機関投資家調査